お墓問題、そろそろ向き合う?“墓じまい”のリアル
高齢化と少子化が進むいま、「お墓」をどうするかという問題に、多くの人が直面するようになってきました。これまでは、家族や子孫が代々受け継いでいくものとされてきたお墓。しかし、時代の変化とともに、その在り方を見直す動きが広がっています。
なかでも注目されているのが“墓じまい”という選択肢です。お墓を撤去し、遺骨を別の場所へ移すというこの行為は、単なる作業ではなく、家族や地域社会との関係、宗教観、そして金銭的な負担も関わる、非常にデリケートなテーマです。
墓じまいを考える人が増えている背景
墓じまいを検討する人が増えているのは、単に個人的な事情だけではなく、社会全体の構造変化とも深く関係しています。たとえば、地方から都市部への人口流出が続くなかで、実家にあるお墓の管理が困難になっている家庭は少なくありません。高齢の親が亡くなったあと、「次は誰が墓を守るのか」といった問題が浮き彫りになりやすくなっています。
さらに、未婚化や非同居世帯の増加といった家族のあり方の多様化により、「家単位でお墓を引き継ぐ」という前提自体が崩れつつあります。令和の時代には、親族同士の関係も一層希薄化しており、いわゆる「無縁墓」が社会問題として注目されるようになりました。また、お墓の維持費用に加え、寺院に所属する檀家である場合には、お布施や年会費、法要のたびの出費などが重なります。そうした負担に将来の不安を感じ、「いま整理しておこう」と墓じまいを選ぶ人が増えてきているのです。
墓じまいの流れと、かかる費用の目安
墓じまいを行うには、いくつかの手続きが必要です。まず、お墓のある寺や霊園の管理者に相談し、「埋葬証明書」を発行してもらいます。そのうえで、新しい納骨先が決まっている場合は、受け入れ先の施設から「受入証明書」を取得します。これらの書類をもとに、自治体に「改葬許可申請」を行うことで、正式に遺骨の移動が可能になります。
作業にかかる費用は状況によって異なりますが、墓石の撤去費用としておよそ10万円から30万円、改葬手続き関連の費用や読経料なども含めると、全体では20万円から50万円ほどかかることが多いといわれています。新たな納骨先に支払う供養料や永代管理料も必要になるため、事前に全体像を把握しておくことが大切です。
また、寺院の墓地に埋葬している場合には「離檀料」が発生するケースもあります。これはあくまで慣習に基づくもので、法的に定められた費用ではありませんが、これまでお世話になった感謝の気持ちとして支払われることが一般的です。費用の相場も地域や寺院によって幅がありますので、率直な気持ちで丁寧に相談することがスムーズな対応につながります。
家族の気持ちに寄り添った進め方を考える
墓じまいの決断には、家族や親族の心情が深く関わってきます。「ご先祖さまのお墓を片付けるなんて」という気持ちを抱く人がいても不思議ではありません。そのため、まずは家族の間でじっくりと話し合う時間を持つことが何より重要です。
墓じまいに至る理由や今後の供養のかたち、そして手続きにかかる時間や費用などを共有し、互いの思いを尊重しながら進めていくことで、納得感のある選択ができるようになります。最近では、家族で一緒に終活セミナーに参加したり、行政が配布しているガイドブックを参考にしたりと、準備のための情報を得る機会も増えてきました。
供養のあり方が変化している時代だからこそ、大切なのは「形にとらわれず、心を込めて偲ぶ」という気持ちです。たとえ物理的な墓がなくなっても、故人を思う気持ちがある限り、そのつながりは続いていくと考えられます。
墓じまいのあとに選ばれる供養のかたち
墓じまいをした後、遺骨の新たな納骨先として選ばれているのが「永代供養墓」や「納骨堂」「樹木葬」といった、継承者を必要としないタイプの供養方法です。
永代供養墓は、霊園や寺院が一定期間、あるいは永久的に供養を行ってくれる仕組みで、費用の目安は10万〜50万円前後です。納骨堂は、屋内型の施設で、管理のしやすさや立地の良さから都市部で特に人気があります。樹木葬は、自然の中で静かに眠るスタイルとして、環境への配慮を重視する人から支持を集めています。これらの新しい供養方法はいずれも、従来の「家単位」ではなく、「個人の意思」を尊重したかたちで選べる点が特徴です。
今や、供養のかたちは多様化し、選択肢も増えています。大切なのは、「どこにあるか」よりも、「どのように心を寄せていくか」。墓じまいは終わりではなく、新たな供養のはじまりと捉えることで、故人と向き合う気持ちを保ちながら、暮らしに合った選択をしていくことができるのではないでしょうか。
まとめ
お墓という存在は、これまで日本の家族観や地域とのつながりの象徴でした。しかし、時代が変わり、人々の暮らしや価値観も変わったいま、墓じまいは決して特別なことではなく、ごく自然な選択肢のひとつになっています。大切なのは、遺された人が無理なく供養を続けていけること、そして故人を思う気持ちをかたちにできる方法を見つけることです。手続きや費用に不安を感じる場合は、早めに相談機関にアプローチし、情報を集めながら少しずつ準備を始めてみてはいかがでしょうか。
自分自身の将来や家族のこれからを見つめ直すきっかけとして、墓じまいという選択が、より多くの人にとって前向きなものとなるよう願っています。
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