「忙しすぎる」リーダーたちの肖像:なぜ日本の組織は疲弊し続けるのか

プレイングマネージャーという役割に潜む見えにくい重さ

「自分も成果を出しながら、チームも導く」。プレイングマネージャーという立場には、頼もしさや責任感といった前向きな印象があります。その一方で、実際の現場では想像以上の重圧を抱えているケースが少なくありません。産業能率大学が実施した上場企業の部長職調査によると、プレイングマネージャーを兼務する部長のうち96%以上が「業務が多忙すぎる」と回答しています。この割合は、個人の力量差で説明できる範囲を超えており、役割設計そのものに無理が生じている可能性を示しています。

もともと管理職は、方向性を示し、人を育て、組織を整えることが中心的な役割でした。しかし効率化や人員削減が進むなかで、管理職も一人の実務担当者として成果責任を負うようになりました。結果として、考える時間や対話の時間が圧縮され、日々の業務処理に追われる状態が常態化しています。

部長クラスになると、経営層との連携、リスク管理、コンプライアンス対応など責任は多岐にわたります。そこへ営業目標や案件管理が重なれば、時間が足りなく感じるのも自然な流れといえます。忙しさの背景には、個人の問題というよりも構造的な事情があると考えられます。

忙しさが奪っていく「育てる力」

管理職が常に時間に追われている状態では、まず削られていくのは部下との対話です。売上や納期は目に見えますが、1on1やキャリア相談は後回しにされがちです。しかしギャラップ社の調査では、上司との定期的な対話があるチームほどエンゲージメントが高まり、生産性も向上する傾向が確認されています。対話の時間はコストではなく、未来への投資といえそうです。

戦略的思考の余白も失われやすくなります。日々の業務処理に追われる状況では、中長期視点で物事を考える時間が取りづらくなります。ハーバード・ビジネス・レビューの分析では、多忙な管理職ほど変革に消極的になる傾向が示唆されています。思考の余裕が減ることで、新しい挑戦への意欲が低下する可能性も否定できません。
さらに、長時間労働の問題もあります。管理監督者は残業規制の対象外になることが多く、責任感の強い人ほど仕事を抱え込みがちです。厚生労働省の白書では、管理職層のメンタルヘルス不調リスクが指摘されています。組織の中心にいる人が疲弊してしまえば、部門全体の安定にも影響が及ぶことが懸念されます。

抱え込みを生む組織設計の特徴

社会のスピードが上がり、顧客対応の即時性が求められる時代になりました。デジタル化が進み、情報量は増え続けています。一方で働き方改革によって一般社員の労働時間は厳格に管理されるようになりました。その結果、あふれた業務が管理職へ集まりやすい構図が生まれているとも考えられます。

日本企業に多いメンバーシップ型雇用では、職務範囲が明確でないことも影響しています。誰が担うべきか曖昧な仕事が、責任感の強い管理職のもとへ集まるケースは少なくありません。96%が多忙と感じている状況は、個人の努力だけでは解決が難しい段階に来ていると受け止めるべきでしょう。ここで必要なのは、「マネジメントは専門的な仕事である」という認識の共有です。プレイング業務を最小限に抑え、調整や育成に時間を確保する設計へと見直すことが求められます。業務の可視化やデジタルツールの活用も、判断に集中できる環境づくりにつながります。余裕は甘えではなく、組織を健やかに保つための基盤ではないでしょうか。

持続可能なリーダーシップへ向けた転換

持続的に成長する企業には、考える時間を持つリーダーがいます。実務の割合を意図的に抑え、専門職に業務を委ねる仕組みを整えることは一つの選択肢といえます。権限委譲は勇気が要りますが、部下の自律性を育てる大切なプロセスでもあります。
評価制度も見直しが重要であり、個人売上だけでなく、チームの成長や後進育成、組織文化の改善といった成果を評価に組み込むことで、マネジメントの価値が正当に認識されます。見えにくい成果を丁寧に測り、報酬に反映させることができれば、実務偏重からの転換が進むと期待されます。
プレイングマネージャーを万能な存在として扱うのではなく、限界に耳を傾けることが今こそ大切なのかもしれません。リーダーが健やかに働ける環境は、部下の安心感や挑戦意欲にもつながります。その積み重ねが、企業の競争力を支えていくのではないでしょうか。

カテゴリ
人間関係・人生相談

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