恋人でも友達でもない第三の選択肢。シチュエーションシップが選ばれる理由

恋愛の前提が揺らぐ社会で生まれた新しい距離感

「付き合っているのかどうか」をはっきりさせない関係が増えていると耳にすることがあります。海外で広まった“シチュエーションシップ”という言葉は、恋人のような親密さを持ちながらも、明確に交際とは定義しない状態を指す概念です。この背景には、社会構造の変化があると考えられます。国立社会保障・人口問題研究所の調査によれば、50歳時点で一度も結婚していない人の割合、いわゆる生涯未婚率は、2020年時点で男性約28%、女性約17%となっています。かつて「結婚は当たり前」とされていた時代から見ると、大きな変化といえるでしょう。
米国Pew Research Centerの調査(2022年)では、18〜29歳の約半数が「現在パートナーがいない」と回答しています。交際を急がない、あるいは関係を固定しない若年層の傾向がうかがえる結果といえそうです。
出会いの環境も大きく変わり、国内のマッチングアプリ市場は数百億円規模に成長し、主要サービスの累計登録者数は1,000万人を超えると報じられています。選択肢が広がる環境では、「まずは関係を定義する」という発想そのものが揺らいでいるのかもしれません。

 

自立した個人が選ぶ「自由を残す関係」

現在、日本では共働き世帯が約1,200万世帯に達し、専業主婦世帯(約500万世帯前後)を大きく上回っています。経済的に自立した個人が増えたことは、パートナー観の変化と無関係ではないでしょう。かつては結婚や交際が生活基盤の安定と結びついていましたが、今は一人でも生計を立てられる人が増えています。そのため「依存」ではなく「選択」として関係を持つという意識が強まっていると考えられます。

シチュエーションシップは、責任を放棄するための関係というよりも、互いの人生を尊重するために距離を保つ関係と捉えることもできるでしょう。キャリアや住環境が変化しやすい現代では、将来を固定しない柔軟さが安心材料になる人もいるはずです。もちろん、自由には不確実性が伴います。明確な約束がないため、関係の終わりも曖昧になりやすい側面は否定できません。その点に不安を覚える人も少なくないでしょう。自由と安心のどちらを重視するかによって、適した関係性は変わるのではないでしょうか。

 

結婚をゴールにしない親密さという選択肢

家族の形も変化しています。自治体によるパートナーシップ制度は全国で拡大し、人口カバー率はおよそ7割に達すると報告されています。法律婚に限らない関係性を公的に認める動きは、社会が多様な結びつきを受け止め始めている証ともいえるでしょう。LGBTQ+コミュニティでは、以前から関係性を二択で捉えない考え方が広がってきました。結婚か否かではなく、当事者がどのような距離感を望むのかが重視される傾向があります。

キャリア形成が長期化し、転職や移住が一般化する現代では、人生設計も一様ではありません。固定的な関係よりも、状況に応じて変化できる関係のほうが現実的だと感じる人が増えている可能性があります。経済的に自立した二人が、依存ではなく選択としてつながる関係。それは従来の枠組みとは異なる形でありながら、対等性を重視した成熟した関係とも考えられるでしょう。

 

定義しないことは未熟さではなく「選択」の一つ

人間関係は、かつてよりも流動的になっています。終身雇用の前提が崩れ、住む場所や働き方が変わる社会では、関係性も固定しないほうが自然だと感じる人がいても不思議ではありません。ただし、曖昧な関係がすべての人に向いているわけではないでしょう。心理学研究では、安定したコミットメントが精神的安心感を高めるという報告もあります。安心を重視する人にとっては、明確な関係のほうが幸福度が高いと考えられます。
大切なのは、社会の正解に合わせることではなく、自分たちが納得できる形を見つけることではないでしょうか。名前がなくても誠実な関係は存在しますし、名前があっても満たされない場合もあります。シチュエーションシップは、愛の完成形というよりも、変化を前提としたプロセスの一つなのかもしれません。関係を固定しないという選択は、逃避ではなく、自分の人生を主体的に設計しようとする姿勢とも受け取れます。

愛の形が一つではない社会では、「どの形が正しいか」ではなく、「どの形が自分に合うか」を問い続けることが求められるのでしょう。その問いに向き合う中で、人間関係はより多様で、より柔らかなものへと変わっていくのかもしれません。

カテゴリ
人間関係・人生相談

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