なぜ有給を取っても疲れは消えないのか、休み方の構造を読む
数字は伸びても実感は伴わない
厚生労働省の調査では、有給休暇の取得率が過去最高の六十六・九パーセントまで伸びました。数字だけを見れば、働き方改革は順調に進んでいるように見えるでしょう。しかし、実際に休んだ人たちの声を聞くと、休んでも疲れが抜けないという実感が根強く残っています。データは一級品なのに、なぜそこに納得感が伴わないのか。その答えは、休めない理由を気持ちの問題として片付けてしまっていることにありそうです。本当の原因は、気遣いという心の動き、分断休暇という行動のクセ、そして人手不足という会社の事情が、ひとつの線でつながって生まれている現象だと考えられます。
気遣いが生む、休みづらさの正体
厚労省の意識調査によると、有給休暇を取るのをためらう理由として最も多く挙がるのが、周囲に迷惑をかけてしまうという感覚です。これは思いやりのある姿勢に見えますが、裏を返せば、自分が休むことで誰かに迷惑がかかるという恐れそのものでしょう。この恐れが消えない限り、有給休暇は本来の権利としてではなく、まるで誰かに借りを作るような感覚として扱われ続けてしまいます。
だからこそ、いくら制度を整えても、心の中のブレーキが外れない人は一定数残ってしまうのではないでしょうか。
その恐れが行動に表れたものが、一日だけ休みを挟むという分断休暇のクセです。一日であれば申請しやすく、周りへの申し訳なさも最小限に抑えられるため、つい二日連続の休みより一日単発の休みを選んでしまう人は多いはずです。ただ、専門家の指摘によれば、心と体をしっかり回復させるには、まとまった連続した休みが欠かせません。
一日だけの休みでは、仕事モードから完全に切り替わる前に休みが終わってしまい、結局また仕事のことを考えながら過ごすことになりがちです。つまり、休んだという記録だけが積み重なり、回復したという実感はなかなか伴わないということになります。
業種によって効く手立ては違う
では、なぜ多くの人が分断休暇を選びがちなのか。そこには会社側の事情も関わっています。人手の少ない中小企業や宿泊・飲食業のような現場では、一人が連続して休むと、その分の仕事を他の誰かが背負うことになり、現場が回らなくなる可能性があります。
実際、宿泊業や飲食サービス業の有給取得率は五十パーセント台にとどまっており、これは個人の気持ちの問題というより、代わりに動ける人がいないという経営上の制約が大きく影響していると見ていいでしょう。この部分を「もっと積極的に休みましょう」という意識づけだけで解決しようとすると、的外れな話になってしまいます。
ここで参考になるのが、ある製造業の現場で導入されている取り組みです。土日に有給を一日足すだけで三連休を作れる、いわゆるプラスワン休暇という仕組みを取り入れたところ、分断休暇が自然と減り、有給の取得率と従業員の満足度が同時に上がったという報告があります。これは、心の中にある気遣いのハードルを、個人の根性や意識ではなく、制度の力で下げてくれた好例だといえます。気持ちの問題は気持ちだけで解決しようとせず、休みやすい仕組みそのものを整えることで、自然と行動が変わっていく流れを作れるのではないでしょうか。
回復を妨げている正体を見極める
明日からできる動き方として、個人としては、一日休みを申請する前に、前後の土日とつなげて連続休暇にできないか一度検討してみることをおすすめします。
チームを預かる立場の人であれば、誰かが連続して休んでも業務が止まらないよう、あらかじめ業務を引き継げる体制を作っておくことが効果的でしょう。
人員に余裕のある会社であれば、プラスワン休暇のような小さな制度を一つ導入するだけでも、現場の空気が変わっていくことが期待されます。一方で、人手不足が深刻な業種では、休暇制度の見直しと並行して、そもそもの人員配置や業務の分散を見直す視点も欠かせません。
有給休暇の数字を上げることよりも、休んだ後にきちんと回復できているかどうかに目を向けること、そしてその回復を妨げている事情が心の問題なのか会社の構造の問題なのかを見極めること。この二つの視点を持てるかどうかが、これからの休み方改革を実のあるものにしていく分かれ道になっていくはずです。
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