家電量販店の売上が上向きに──鍵を握るのは“美容家電”

一時は苦戦が続いていた家電量販店ですが、2023年度以降、売上回復の動きが各社で見られるようになってきました。その背景には、従来の主力だったテレビや冷蔵庫ではなく、近年注目度を高めている「美容家電」の伸長があります。美顔器やスチーマー、ドライヤーといった製品が、コロナ禍を経て多くの生活者にとって欠かせない存在となり、家電量販店の売り場にも変化をもたらしています。
かつては専門性の高いカテゴリとして一部の消費者に限られていた美容家電が、どのようにして市場を広げ、量販店の成長を支えるまでになったのでしょうか──。

 

技術と価格が変えた「美容家電」の存在感

美容家電の市場は、機能性と信頼性の両面から急速に進化しています。2023年度の市場規模は1,541億円(矢野経済研究所調べ)に達し、前年比で8.6%の成長を記録しました。これは、かつての「ぜいたく品」的なイメージから、日常的に使う“セルフケアツール”へと認識が変化している証といえるでしょう。
特に注目されているのが、AIやセンシング技術を取り入れた製品群です。パナソニックの「ナノケア」シリーズでは、ドライヤーが髪の水分量を自動で調整し、しっとりとまとまりのある仕上がりを実現。YA-MANの美顔器には、ラジオ波(RF)やEMS(電気刺激)などのエステ技術が応用されており、肌のハリや透明感を自宅で手軽にケアできます。
価格帯は3万円〜6万円が主流となり、一定の投資を必要としますが、「サロンに行くよりもコストパフォーマンスが高い」と感じる層が増えたことが、購買行動を後押ししています。とくに30〜40代の働く女性や、忙しく外出の機会が限られる子育て世代にとっては、自宅で本格的なケアができる点が大きな魅力となっています。

 

ライフスタイルの変化と“自宅美容”の定着

2020年以降、外出の機会が制限されたことで、生活者の美容行動にも明らかな変化が見られるようになりました。エステや美容室に足を運ぶ回数が減る一方、自宅でケアを行う“おうち美容”の需要が高まり、それに応じて美容家電への注目度も上昇しました。
インテージ社が実施した生活者調査によると、20〜40代女性の約半数が「自宅での美容ケアに使う時間が増えた」と回答しています。こうした変化に応じて、家電メーカーは従来の製品に加え、スチーマーやスカルプケア製品、温感ローラーなど、自宅で再現できる“プロ仕様”のアイテムを多様に展開するようになりました。
また、美容家電の利用者は女性だけにとどまらず、男性の利用も年々拡大しています。リクルートの「美容センサス2023」によれば、20代男性の37.1%が「スキンケアに積極的」と回答しており、スチーマーや電動シェーバーなど、性別を問わない製品展開が功を奏しています。
こうした変化により、美容家電は「贅沢品」から「日常のセルフケアツール」へと認識が変わり、季節問わず一定の購買が見込めるカテゴリーへと成長しました。

 

SNSとインフルエンサーが生む“信頼”と“購買動機”

購買意欲を左右する要因として、今や欠かせないのがSNSによる情報拡散です。InstagramやTikTok、YouTubeなどでは、美容家電を実際に使用したレビューや比較動画が数多く投稿されており、視聴者にとっては信頼性の高い参考情報となっています。
たとえば、あるインフルエンサーが紹介した美顔器のTikTok動画は、わずか数日で300万回以上再生され、メーカーのECサイトでは一時的に在庫切れとなる事態が発生しました。こうした投稿は、単なる宣伝ではなく、使用者のリアルな感想として受け止められるため、消費者にとって強力な購買動機となっています。
メーカー側も、こうした動向を積極的に活用しています。YA-MANやMTG(ReFa)はSNS広告やタイアップ投稿を通じてブランドの世界観を伝え、オンラインとオフラインの販売をシームレスに連動させる施策を展開しています。さらに、家電量販店では「SNSで話題の商品」などのポップを使い、消費者の目を引く売り場づくりが進められています。

 

実店舗の価値再発見と、家電量販店の新たな役割

家電量販店にとって、美容家電は粗利率が高く、回転も早い魅力的な商材です。テレビや冷蔵庫といった大型家電の買い替えが数年に1度であるのに対し、美容家電は2〜3年での買い替え需要が見込めるうえ、プレゼント用途でも安定した需要があります。
実際、ヨドバシカメラやビックカメラでは、美容家電売り場を常設化し、スタッフによる体験デモや製品説明を強化しています。こうした「体験型販売」は、オンラインでは得られないリアル店舗の強みです。
また、家電量販店では価格競争だけでなく、オリジナルセット販売やアフターサポート、店舗ポイント還元などの付加価値で顧客満足度を高めています。とくに5万円前後の製品になると「試してから買いたい」「詳しい説明を聞きたい」というニーズが強く、接客の質が購買の決め手となるケースも少なくありません。

 
美容家電がつくる、新しい消費のかたち

美容家電は、単なる「流行アイテム」ではなく、生活者の意識と生活スタイルの変化を背景に、市場の中で確かな位置を築きました。製品の機能性やデザインだけでなく、信頼できる情報発信や店頭体験、価格と価値のバランスといった複数の要素がかみ合うことで、消費者の共感と満足につながっています。
家電量販店にとっても、こうした変化は新たな成長のチャンスといえます。商品を売るだけでなく、生活の質を高める「体験」を届ける場として、リアル店舗の役割はこれからも大きくなっていくでしょう。美容家電は、その象徴として今後も注目され続ける存在です。

カテゴリ
家電・電化製品

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