ポスト検索時代の地図:AEOが切り拓く、人と情報の新しい関係性
検索から「答え」に出会う時代へ― SEOが前提だった情報探索体験は、どこへ向かうのか
かつて私たちは、知りたいことがあれば検索窓に言葉を入力し、いくつものページを読み比べながら、自分なりの答えに辿り着いてきました。この行為は、インターネットが普及して以降、長く当たり前の行動として受け入れられてきたと言えるでしょう。検索結果の上位に表示されることを目指すSEOは、そうした情報探索の前提を支える中心的な技術でした。
ところが、生成AIと大規模言語モデル(LLM)の進化によって、この前提そのものが揺らぎ始めています。GoogleのSGEやPerplexity、ChatGPTのような対話型AIは、リンクの一覧を示すのではなく、問いに対する「答え」そのものを提示します。米国の調査会社SparkToroとDatosの共同分析では、2024年時点でGoogle検索の約58%がクリックを伴わないゼロクリック検索になっていると報告されています。この数字は、ユーザーが検索結果ページの中だけで疑問を解消している現状を端的に示していると考えられます。
情報を「探す」行為が減り、「受け取る」体験が主流になりつつある今、企業やメディアの情報発信の在り方も見直しを迫られています。こうした流れの中で注目されているのが、AEO(Answer Engine Optimization)という考え方でしょう。検索順位を競うのではなく、AIが生成する回答の中で信頼できる情報源として選ばれるかどうかが、新たな分岐点になりつつあります。
AIに選ばれる情報とは何か― 正確さと構造が信頼を生む理由
AEOを理解する上で欠かせないのは、AIがどのように情報を読み取り、評価しているのかという視点です。人間のように文脈を感覚的に理解しているわけではなく、情報の構造、根拠、明確さをもとに判断している点が大きな特徴といえます。
従来のSEOで重視されてきた文字数やキーワードの出現頻度は、相対的に重要度が下がりつつあります。その一方で、構造化データの役割は増しています。Schema.orgを活用し、「これは定義である」「これはFAQである」「この数値は調査結果である」と明示することは、AIにとって情報理解の手がかりになります。Google自身も、構造化データが検索体験の質を高めると公式に示しており、この考え方はAEOにおいても踏襲されると見込まれます。
信頼性も見逃せない要素であり、誰が発信しているのか、どのような経験や専門性に基づく情報なのか、根拠となる一次情報は何か。E-E-A-T(経験・専門性・権威性・信頼性)はSEOの文脈で語られてきましたが、AEOの時代においては、より直接的に影響すると考えられます。
最新の公的統計や業界データ、自社で実施した調査結果などは、AIが回答を構成する際の重要な判断材料になる可能性が高いでしょう。
短くなる意思決定と、再定義されるブランド接点― ゼロクリック時代のカスタマージャーニー
AEOが浸透することで、ユーザーの意思決定プロセスは大きく変わりつつあります。比較記事を複数読み、レビューを確認し、公式サイトを訪問するという段階的な行動は、AIとの対話によって一気に短縮される場面が増えています。
自社サイトへの流入が減る可能性だけを見ると、不安を覚える企業も少なくないと思います。しかし、AIの回答の中で推奨される存在になることは、極めて信頼度の高い接触機会を得ることを意味します。ユーザーが課題解決を真剣に考えている瞬間に名前が挙がる体験は、従来の広告とは異なる文脈で記憶に残ると考えられます。
このとき問われるのは、単なる製品スペックではありません。そのサービスが、誰のどのような悩みに向き合い、どのような価値を提供してきたのかという背景です。
AIはWeb上の断片的な言及を統合して回答を生成するため、オウンドメディア、プレスリリース、専門家コメント、SNSでの評価といった積み重ねが、結果としてAEOの成果に影響を与えると見込まれます。
ポスト検索時代に求められる発信姿勢― 「答え」になる言葉を預かる責任
音声アシスタントやウェアラブルデバイスの普及が進めば、画面を見ずに情報を得る場面は今後も増えていくでしょう。視覚情報に頼れない環境では、AIが選ぶ言葉そのものがブランド体験になります。この変化は、AEOの重要性を一段と押し上げると考えられます。SEOが不要になるわけではなく、深い洞察や体験を伴う記事、人の感情に寄り添う物語性のあるコンテンツは、引き続き探索され続けるでしょう。一方で、効率や即時性が重視される領域では、AEOへの対応が競争力を左右する局面が増えていくと思われます。
私たちが発信する情報は、AIというフィルターを通じて、誰かの意思決定を支える「答え」になる可能性を持っています。そう考えると、コンテンツ制作は単なる集客手段を超え、社会に知識を残す行為へと近づいていくのではないでしょうか。問いに対して誠実に向き合い、根拠ある情報をわかりやすく届け続ける姿勢こそが、検索の次に訪れる時代における、最も確かなマーケティングの軸になると考えられます。
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