【トヨタ自動車創業史②】技術者から起業家へ:豊田喜一郎、自動車産業への情熱と挑戦

 
本記事は、ポッドキャスト番組「二番経営」の豊田喜一郎編の内容をベースに番組と違う角度のテーマの内容を記事化したものです。
 

「どうせやるなら誰もやらない難しい事業をやるから人生は面白い」

この言葉は、トヨタ自動車の創業者である豊田喜一郎が、周囲の反対を押し切って自動車事業への参入を決意した際に発した言葉です。私はこの言葉に、彼の事業家としての本質を見る思いがします。

 

秀才技術者から事業家へ

豊田喜一郎は1894年に生まれ、幼少期は特に目立つこともなく、口数も少ない子供でした。しかし、高校時代から優秀な友人たちと切磋琢磨し、東京帝国大学工学部で機械工学を学びます。卒業後は豊田紡織に入社し、親が創業した繊維産業で技術者としてのキャリアをスタートさせました。

最初は優秀な技術者として自動織機の開発に携わり、1926年にはG型自動織機の開発に成功します。これが世界最高水準の技術として認められ、英国のプラット社に特許を売却するほどの成果でした。

しかし、この時期に彼の中で大きな変化が起きます。

 

先見の明:繊維から自動車へ

1929年、プラット社との契約調印のためイギリスを訪れた喜一郎は、かつて栄華を誇った同社の急激な没落を目の当たりにします。わずか7年前に訪れた時には、高給を得て自信に満ちていた熟練工たちが失業し、技術も停滞していました。

この経験が、「繊維機械メーカーの将来性」に疑念を抱かせ、自動車産業への進出を考えさせる契機になったと言われています。その後、欧米視察から帰国した喜一郎は、豊田自動織機製作所の一角に研究所を設け、小型エンジンの研究を始めました。周囲からは「道楽」と言われながらも、着々と準備を進めていきます。

 

徹底した情報分析と戦略

喜一郎の凄さは、単なる技術者ではなく、情報収集と分析に基づいた戦略家でもあった点です。東大時代の同級生たちは、商工省や鉄道省など、国の自動車工業政策に関わる要職に就いていました。彼はこのネットワークを通じて、国産車育成という国策の動向を把握していました。

さらに彼は時代の流れを読み、「この国の近代化にとって自動車産業の発展が必要不可欠」と確信していました。これは、父・佐吉が明治期に自動織機の発明が国家発展に必要と信じて邁進した姿と重なります。

 

反対を押し切り、自動車部設立へ

1933年、ようやく豊田自動織機製作所に「自動車部」が設立されます。しかし道のりは平坦ではありませんでした。豊田利三郎をはじめとする役員たちからは「大財閥でも手に負えない自動車に田舎財閥が手を出したら、自動織機も紡織も危うくなる」と猛反対されます。

私は、組織の中で新規事業に取り組む際に、既存事業からの反発が起きるのはある意味で健全なガバナンスだと思います。しかし同時に、情熱を持って事業に取り組む人材がいなければ新たな一歩は踏み出せません。喜一郎はまさにその情熱の塊でした。

 

自動車作りの苦難

1935年に最初の試作車A1型乗用車を完成させた後も、彼の挑戦は続きます。資金調達の苦労、技術的な課題、そして販売網の構築など、山積する問題に一つ一つ取り組んでいきました。

1937年にはトヨタ自動車工業株式会社を設立。この頃から喜一郎は単なる技術者から、組織を率いる事業家へと変貌していきます。

彼が始めた「必要な時必要な分だけあれば良い」というJust in timeの考え方は、後のトヨタ生産方式の礎となりました。

 

最後に

自動車事業に取り組む喜一郎の姿は、単なる二代目の「発明狂い」ではなく、徹底した情報分析と戦略、そして国家の発展を願う情熱に裏打ちされたものでした。

新規事業の立ち上げには、技術力だけでなく、周囲を巻き込む熱意と説得力、そして戦略的な視点が必要です。喜一郎の挑戦は、多くの反対を押し切る困難なものでしたが、その結果、今日の日本を代表する自動車産業の礎が築かれました。

彼の言葉「どうせやるなら誰もやらない難しい事業をやるから人生は面白い」は、新規事業に挑む全ての人の心に響くものではないでしょうか。


本記事はポッドキャスト番組「二番経営」をベースに執筆しています。さらに詳しい内容は是非ポッドキャストでお聴きください。

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著者:勝見 靖英(株式会社オーツー・パートナーズ取締役)

(株)オーツー・パートナーズ 取締役■Podcast「二番経営 〜組織を支えるNo.2の悲喜こもごも〜」パーソナリティ■コンサルタント歴20年以上、管掌業務:経営企画/会計/人事総務/組織開発/IT/マーケティング/広報等
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ビジネス・キャリア

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