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どうして経営者は「なぜそんなに時間がかかるんだ?!」と感じるのか(A) ~私説「認知相対性理論」編

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毎日どこかで起きている”あの瞬間”

経営者「例の件、どうなりましたか?」
社員「まだ途中です。結構時間が必要で・・・」
経営者「え?そうなのですか・・
   (直ぐに出来ると思ってお願いしたんだけど・・)」

あなたの会社でこんな会話やシチュエーションはありませんか?

社長や経営者に限らず、部下やチームメンバーの作業スピードが遅く感じられ、つい苛立ちを覚えてしまう・・・。

今回は、私がこの現象について考えていたときに思いついた「認知相対性理論」という仮説を提案してみたいと思います。

果たして皆さんはどう思われるでしょうか?


「認知相対性理論」とは?

私が「認知相対性理論」と(勝手に)名付けたのは、
認知処理能力が高い人ほど、相対的に周りの人が「遅く」感じる現象
についての仮説です。

アインシュタインの相対性理論にちなんで命名してみました。

物理学では光速に近づくほど時間が遅くなりますが、ビジネスの世界でも似たようなことが起きているのではないか?という発想です。

私が提唱するCRS公式

この仮説の核心を、以下の公式で表現してみるとこんな感じです。

CRS = T × E × PS
  • Cognitive Relative Speed認知相対速度):個人の認知処理能力(注意、記憶、論理と推論、判断、学習等)の高さによって生じる、時間認識の相対的な差異を表す概念。認知相対速度は、才能(T)、熟練度(E)、視座と視野(PS)の3つの要素の積として表現される

  • Talent(才能) :生まれ持った認知能力、特性。

  • Experience(熟練度) :後天的に身に付けた知識や経験値、修練により一定レベルの向上が可能。

  • Perspective and Scope(視座と視野) :物事を俯瞰的に捉える能力と、幅広い視野。高い視座から全体を見渡せるほど、本質的な課題を素早く特定できる。

認知処理能力の高低には「才能」と「熟練度」が影響する。
時間認識の違いを規定するには「視座と視野」も大きな影響を与える。

という考えです。(当たり前と言えば当たり前ですね)

認知相対性理論により、
ある事象について認知処理能力が高い人は、
CRS(認知相対速度)が高い為に、
相対的に周りの人が「遅く」感じるのである

この現象は経営者をはじめ、あらゆる分野のビジネスパーソンやエキスパートにも共通して見られると思います。

共通しているのは、その事象の元は「CRS = T × E × PS」が高い場合に生じていると思うのですがいかがでしょうか?


「時間のズレ」の正体=原因

事例として、冒頭にある様な社長/経営者と社員間で起きる「時間のズレ」を見てみましょう。

経営者の視点:”飛行機から見た風景”

CRSが高い経営者は、常に「上空1万メートル」から会社を見ています

  • 来期の売上目標

  • 競合他社の動向

  • 新規事業の可能性

  • 市場のトレンド

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この高度から見ると、点Aから点Bへの移動は「まっすぐ進めばいい」ように見える。
だから「この資料、来週までに作っておいて」という指示が、本人にとっては「簡単なお願い」に感じられる。

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経営者:「直線距離で10分でしょ?」
現場:「でも実際は迂回路で1時間かかります…」

 

現場の視点:”地上を歩く人の風景”

一方、CRSが相対的に低い現場の人たちは「地上」を歩いています

  • 今日締切の資料作成

  • 突然入ったクレーム対応

  • システムトラブルの修正

  • 定例会議の準備

地上から見ると、点Aから点Bに行くためには「あの建物を迂回して、信号を待って、工事現場を避けて…」という具体的な障害物がたくさん見える。

ここに根本的な「時間感覚のズレ」が生まれるのではないか、
というのが私の仮説です。


私が考える実際のビジネスシーンでの応用


リーダーシップへの影響

CRSが高いリーダーは、チームの生産性向上に大きく貢献できる一方で、メンバーとの認知速度の差に苛立ちを感じることがあります。

部下の状況の正しい理解と共に速度の差がEかPSのいずれかに起因するかを考える事で、より効果的なリーダーシップを示す事が可能になるのではないでしょうか。

Eの場合は育成やサポートの配置、PSの場合は背景や優先順位を改めて説明する事や代替手段(事例のパタンだと「車を使う」等)の提示が有効かも知れません。

チーム運営での活用

チーム内でCRSの差があることを認識し、適切な役割分担や教育プログラムを設計することで、全体のパフォーマンスを向上させることができるかもしれません。

自己成長への応用

自分のCRSを意識的に高めることで、より効率的な思考と行動が可能になる。特に、視座と視野(PS)の向上は、意識的な努力によって実現できる部分だと考えています。


「処方箋」

この仮説が正しいとすれば、以下のような対策が有効ではないでしょうか:

1. 「翻訳機能」を作る
CRSが高い人の指示を、現場の人に分かりやすく「翻訳」する仕組み。
例:
Why(なぜ):来期売上30%アップの核となる案件
・What(何を):顧客向け提案資料20ページを作成
・When(いつまで):来週金曜17時までに初版完成

2. 双方向の対話を増やす
CRSの差を埋める、双方向のコミュニケーション。
お互いの「地図」を照らし合わせることで、ズレを早期発見できるのではないでしょうか。

3. 進捗の「見える化」
CRSの差によって生まれる情報の非対称性を解消する進捗ダッシュボードのような仕組み。

4. 評価基準の統一
CRSが高い人の期待と現場の行動を一致させるため、「何を頑張れば評価されるか」を明確にする。


これらを効果的に進めるカギは「No.2人材」

私が考えるこれらの処方箋を効果的に実行するために重要なのが、No.2人材、いわゆる「二番経営」を担える人材の存在です。

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トップと現場を繋ぐNo.2

No.2人材は、CRSが高い経営者と現場の間に立って、以下の役割を果たします。

  • 「翻訳者」としての役割 経営者の高次元な戦略思考を、現場が実行可能な具体的なタスクに翻訳する

  • 「橋渡し役」としての役割 双方向のコミュニケーションを促進し、お互いの視点を理解させる

  • 「見える化の推進者」としての役割 進捗状況を適切に把握し、経営者と現場の両方に情報を提供する

  • 「評価基準の調整者」としての役割 経営者の期待と現場の実情を踏まえ、適切な評価基準を設計する

つまり、認知相対性理論で生まれるCRSの差を埋めるためには、両方の「言語」を理解し、適切にマネジメントできるNo.2人材の育成・配置が不可欠だと考えています。

優秀なNo.2人材がいることで、CRSが高い経営者のスピード感を殺すことなく、現場の実情も適切に反映した組織運営が可能になるのではないでしょうか。


皆さんはどう思われますか?

この「認知相対性理論」という仮説について、皆さんはどう思われるでしょうか?

もちろん、これは私の個人的な観察と推測に基づく仮説であり、厳密な学術的検証を経たものではありません。

ただ、多くのビジネスパーソンが感じている
「なぜあの人は遅いのか?」
「なぜ私の指示が伝わらないのか?」
という疑問に、一つの視点を提供できるのではないかと考えています。

優秀な人ほど「遅い」と感じるのは、決して傲慢さではなく、
高い認知処理能力と視座・視野の高さの証拠でもある。

この理解を基に、より建設的なビジネス環境を構築していけたらと思います。

皆さんの職場でも、似たような現象を感じたことはありませんか?
もしこの仮説が少しでも共感できるものであれば、ぜひコメントやシェアで教えてください。


追記

この記事は完全に私個人の仮説・アイデアです。
学術的な裏付けがあるわけではありませんが、日々のビジネスシーンで感じる「時間のズレ」について考えるきっかけになれば幸いです。

本稿で取り上げた「認知相対性理論」は、私が日常的な観察をもとに構築した仮説ですが、実は組織論や経営学の世界にも、これに関連した学術的な研究や理論があります。

戦略立案と実行の間に生じる「Strategy-Execution Gap(戦略実行ギャップ)」について詳しく学びたい方は、ぜひ以下の記事も合わせてお読みください。

[どうして経営者は「そんなに時間がかかるんだ?!」と感じるのか(B)~学術編「戦略実行ギャップ」]


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著者:勝見 靖英(株式会社オーツー・パートナーズ取締役)

(株)オーツー・パートナーズ 取締役■Podcast「二番経営 〜組織を支えるNo.2の悲喜こもごも〜」パーソナリティ■コンサルタント歴20年以上、管掌業務:経営企画/会計/人事総務/組織開発/IT/マーケティング/広報等
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