キャリアコーチング市場拡大、転職者が求める支援とは

自分のキャリアを自ら描く時代へ

働き方の多様化が加速するなか、キャリアコーチングが注目を集めています。従来の日本型雇用に見られた終身雇用や年功序列といった仕組みは弱まり、働き手は一つの会社に依存せず、自らの意思でキャリアを築く必要が高まっています。
厚生労働省によれば、2023年の転職者数は350万人を超え、労働市場における人材の移動は過去と比べても活発です。矢野経済研究所の予測では、国内のキャリア支援市場は2025年に1,500億円を突破する見込みであり、この数字は働く人々が自らのキャリアに向き合う姿勢を強めていることを示しています。

 

転職者が求めるものは何か

転職活動において必要とされる支援は、単なる応募書類の添削や面接対策にとどまりません。むしろ、自分の価値観や強みを整理し、中長期的な方向性を明確にするプロセスが重視されています。リクルートの調査では、転職希望者の65%が「自己分析や将来設計のサポート」を必要と感じており、スキルの棚卸しだけではなく「自分は何を実現したいのか」を言語化できるようになることが大きな関心事となっています。

世代別でもニーズが異なっており、20代から30代前半は、専門性を高めるか幅広く経験を積むかの選択が重要なテーマとなり、キャリアの軸をどう築くかに悩む人が多く見られます。一方で40代以降は、早期退職や副業を視野に入れ、自分の経験をどのように再構築していくかが課題になります。こうした背景から、キャリアコーチングは単なる転職の「裏方」ではなく、人生設計に寄り添う存在として期待されているのです。

また、副業への関心の高まりも影響しています。パーソル総合研究所によると、副業を実際に行っている人は労働人口の約10%ですが、関心を示す人は3割を超えており、働き方を複線化したいというニーズが確実に広がっています。複数の仕事をどう組み合わせ、自分のキャリアをどう成長させるかを考える上で、専門的なコーチの助言は重要な支えとなります。

 

制度とサービスが後押しする広がり

制度面の整備も市場拡大の追い風になっています。政府は副業・兼業を促進するガイドラインを示し、企業は社員が主体的にキャリアを選びやすい仕組みづくりを進めています。リスキリング支援に関する補助金制度も活用が進み、学び直しを通じてキャリアを発展させる環境が整いました。こうした制度はキャリアコーチングと連動しやすく、利用者が学びとキャリア設計を結びつけやすい状況をつくり出しています。

実際に企業が導入する事例も増えており、大手IT企業では、社員が年に1回以上コーチングを受けられる制度を導入した結果、従業員の仕事満足度が15%以上高まったという調査結果が出ています。中小企業でも、採用した人材の定着支援や管理職候補の育成に役立てる動きが見られます。さらに、個人向けサービスはオンラインを中心に拡大し、短時間から利用できるセッションやAIを活用した自己分析ツールなど、誰でもアクセスしやすい仕組みが整いました。これにより、これまで費用や時間の制約で利用をためらっていた層にもサービスが届きやすくなっています。

 

今後の展望と課題

市場が成長を続けるなかで、解決すべき課題も浮かび上がっています。第一に、コーチングの質の均一化です。日本国内では民間資格や独自プログラムによるコーチが多数活動していますが、スキルや経験の差が大きく、利用者が安心して選べる基準が十分に整っていません。国際的にはICF(国際コーチ連盟)の基準がありますが、日本でどのように定着させるかが課題となっています。

第二に、コストの負担です。個人向けコーチングは1回あたり1万〜2万円が相場であり、継続利用するには負担が大きいと感じる人も多いのが実情です。法人契約が広がることで一部は解消されますが、サブスクリプション型や低価格プランの導入など、より幅広い層が利用できる仕組みづくりが求められています。

AIとの役割分担も注目されています。生成AIは効率的な自己分析やキャリア診断を可能にする一方、人間ならではの共感や深い対話は補えません。AIを取り入れながらも、人間のコーチが提供できる価値をどう際立たせるかが、今後の市場の方向性を左右すると考えられます。

 

まとめ

キャリアコーチング市場の拡大は、働く人々が「自分のキャリアを主体的に描く時代」に突入したことを象徴しています。転職者や副業を希望する人々が求めているのは、短期的な転職の成功ではなく、自分の強みや価値観を明確にし、人生全体を見通した上で選択できる支援です。制度やサービスの整備によって、キャリアの選択肢はこれまで以上に広がり、誰もがキャリアの可能性を探求できる環境が整いつつあります。

一方で、質の均一化やコストの軽減、AIとの共存といった課題を解決しなければ、成長の持続は難しいでしょう。キャリアコーチングが本当に根付くには、安心して相談できる体制を社会全体で整える必要があります。市場が拡大するなかで問われるのは規模ではなく信頼性です。キャリアに迷う人が一歩を踏み出すときに、確実に支えとなる存在としてキャリアコーチングは進化し、働く人々の人生を豊かにする力を持つはずです。

カテゴリ
ビジネス・キャリア

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