高齢者と若年貧困層で異なる形を見せるデジタル格差の二重構造
デジタル格差は「使える人」と「使えない人」の問題ではない
デジタル格差という言葉から、多くの人はスマートフォンやパソコンの操作に苦戦する高齢者を思い浮かべるかもしれません。しかし現在の日本で起きているデジタル格差は、それほど単純な話ではなくなっています。行政手続きや医療予約、学校との連絡、就職活動、金融サービスなど、生活のあらゆる場面でデジタル化が進むなか、取り残される人々の姿も大きく変化しています。
これまでのデジタル格差は、高齢者を中心とした「利用スキルの格差」が注目されてきました。一方で現在は、若い世代の中にも異なる形の格差が広がっています。スマートフォンを持っていても十分な通信環境を維持できず、必要な情報やサービスへアクセスしにくい人が存在しているためです。
つまり現代のデジタル格差は、高齢者の「使いこなせない格差」と若年貧困層の「使い続けられない格差」が同時に存在する二重構造になっているといえます。問題の原因は異なりますが、結果として社会との接点が失われる点は共通しています。デジタル格差は世代間の問題ではなく、社会参加の機会を左右する社会問題へと変化しているのではないでしょうか。
高齢者を遠ざけるのは技術ではなく不安と複雑さ
高齢者のデジタル利用率は年々上昇しています。スマートフォンを所有する高齢者も珍しくなくなりました。しかし利用率の向上と活用能力の向上は必ずしも一致しません。家族との連絡や写真の閲覧はできても、オンライン診療の予約や行政サービスの申請になると急に難しく感じる人は少なくありません。その背景には、現在のデジタルサービスが持つ複雑さがあります。アカウント作成、パスワード管理、メール認証、SMS認証、アプリの更新など、多くの手順が求められるためです。
若い世代であっても複数のIDやパスワード管理に苦労する場面があります。その状況を考えれば、高齢者が戸惑うのは自然なことといえるでしょう。ところが社会では「覚えればよい」「慣れれば使える」という見方が根強く残っています。その結果、本来はサービス設計や支援体制の課題であるにもかかわらず、利用者個人の問題として扱われやすくなっています。
さらに高齢者の場合、「間違えたらどうしよう」「個人情報が漏れたら困る」という不安も大きな障壁になります。一度失敗すると苦手意識が強まり、利用そのものを避けるケースも見られます。高齢者のデジタル格差は技術力の不足というよりも、不安を解消できる環境が不足していることが大きな要因だと考えられます。
若年貧困層に広がる見えにくい格差
若者はデジタルに強いというイメージがあります。実際にスマートフォンの保有率は極めて高く、SNSや動画配信サービスを日常的に利用しています。そのため若年層にデジタル格差は存在しないと思われがちです。しかし現実には、経済的な理由から十分な通信環境を確保できない人もいます。通信料金の支払いが負担になったり、古い端末を使い続けたり、無料Wi-Fiに依存した生活を送ったりするケースも珍しくありません。
現代社会では、求人情報の検索や応募、オンライン面接、学習コンテンツの利用、行政サービスの申請など、多くの機会がインターネット接続を前提に設計されています。そのため通信環境が不安定になることは、単なる不便を超えて人生の選択肢そのものを狭める可能性があります。深刻なのは、この問題が非常に見えにくいことです。高齢者がスマートフォン操作に苦労している姿は周囲にも伝わりやすい一方で、若年貧困層はスマートフォンを持っているため困難が表面化しにくい傾向があります。通信制限によって学習機会を逃していても、就職活動に支障が出ていても、外からはほとんどわかりません。
その結果、「若いのだから大丈夫」という思い込みが生まれ、支援が届きにくくなります。若年貧困層のデジタル格差は、機器の所有率では測れない新しい社会課題になっていると思われます。
本当に必要なのは誰も取り残さない仕組みづくり
高齢者と若年貧困層の課題を比較すると、原因はまったく異なります。高齢者はスキルや不安の壁に直面し、若年貧困層は経済的な壁に直面しています。しかし両者に共通するのは、社会とつながる入口を失いやすいことです。行政サービスの申請ができない、病院の予約方法がわからない、求人情報へアクセスできない、支援制度の存在を知ることができない。この状態が続けば、デジタル格差は情報格差に変わり、やがて教育格差や所得格差へと発展する可能性があります。
だからこそ対策も一つでは十分とはいえません。高齢者にはスマホ教室や相談窓口など、人が伴走する支援が必要でしょう。若年貧困層には通信費支援や無料Wi-Fi環境の整備、端末貸与などの経済的支援が求められます。同時に忘れてはならないのが、デジタル以外の選択肢を残すことです。行政窓口や電話相談を完全になくしてしまえば、利用できない人は社会から切り離されてしまいます。便利さを追求するだけではなく、多様な人々が利用できる仕組みを維持することが重要ではないでしょうか。
デジタル化は今後も進んでいくと考えられます。その流れを止めることは現実的ではありません。しかし本当に目指すべき社会は、一部の人だけが便利になる社会ではなく、誰もが必要な情報や支援にたどり着ける社会ではないでしょうか。デジタル格差の本質は技術の問題ではなく、社会の包摂力そのものを問う課題になっているといえます。便利さと公平性を両立できる仕組みづくりが、これからますます求められることが期待されます。
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