地方創生の波に乗れない若者――地元に残ることの現実とリスク

移住者が増える地方で、地元の若者はどこへ向かうのか
地方移住への関心が、ここ数年で高まっています。総務省の調査では、2022年度に移住相談窓口「JOIN(移住・交流推進機構)」を訪れた人の数は5万件を超え、コロナ禍前の2019年度と比べると約3倍に増えました。テレワークが当たり前になり、都市部での生活費が上がり続ける中で、地方での暮らしを真剣に考える人が増えているのは確かです。
しかし、その賑わいの中で見落とされがちな視点があります。生まれたときからその土地で育ち、進学や就職のタイミングでも地元を選び続けた若者たちの存在です。移住者が「新しい風」と称賛される一方で、地元に留まった若者たちは今、何を感じているのでしょうか。
移住者だけが受け取れる補助金という現実
多くの自治体が、移住者向けの支援策を用意しています。内閣府の「地方創生推進交付金」を活用した自治体の中には、移住一人あたり最大100万円、子育て世帯には300万円を超える補助金を出しているところもあります。住宅の改修費や起業支援、子育て奨励金など、その内容は年々手厚くなってきました。
ここで気になるのが、こうした制度が基本的に「外から来た人」だけを対象にしている点です。生まれたときからその地域で暮らし、働き、税金を納めてきた若者には、原則として適用されません。たとえば地元の農家を継いだ20代の青年が、よそから来た新規就農者よりも少ない支援しか受けられないという逆転現象も、実際にあちこちで起きています。
静岡県や島根県などで実施されたアンケートでは、「移住者ばかりが優遇されていると感じたことがある」と答えた地元若者が、回答者の4割前後にのぼったという報告があります。制度そのものへの不満というより、「自分たちは見えていないのかな」という静かな疑問が広がっている状況です。
賃金・雇用・人間関係、三つの重なる壁
経済的な格差も、地方に残る若者にとって切実な問題です。厚生労働省の賃金構造基本統計調査(2023年版)によれば、東京・大阪・愛知などの三大都市圏と地方の平均賃金の差は、月額で約5万〜8万円ほどあります。年収に直すと60万〜100万円前後の開きになり、それが何十年と積み重なる影響は、決して小さくないでしょう。
雇用の選択肢が少ないことも悩みの種です。製造業や農林水産業が中心の地域では、大学や専門学校で学んだスキルを活かせる職場が見つからないと感じている若者は多く、総務省の労働力調査でも地方の若年層(15〜34歳)の完全失業率は都市部より高い水準が続いています。県外に出て働きたい気持ちはあっても、親の介護や家業の手伝い、あるいは「自分がいなくなったら本当に地元が終わってしまう」という責任感から、動けずにいる若者も少なくないはずです。
人間関係の息苦しさも、当事者にとっては無視できない問題です。人口が少ない地域では、誰が何をしているかが自然と見えやすく、新しいことを始めようとすると古くからのしがらみや序列が壁になりやすい傾向があります。移住者が「外からの刺激」として注目を集める一方で、地元出身の若者がその陰でひっそりと埋もれていく構造は、小さな集落ほど起きやすいと、地域社会学の分野でも指摘されています。
「残る選択」にも光を当てる時期にきている
地方創生の議論は長らく、「いかに人を呼び込むか」を中心に動いてきました。2014年に国が閣議決定した「まち・ひと・しごと創生総合戦略」以来、約10年にわたって移住促進と関係人口の拡大が政策の柱とされてきた経緯があります。移住者が増えたことはひとつの成果ですが、「外から来る人」への手当てが厚くなる分、「最初からそこにいる人」への投資が薄れてきた面は否めないでしょう。
最近では、この流れを見直す動きも出てきています。長野県の一部自治体では、移住者向けと同様の支援を地元出身者にも広げる取り組みが始まっており、「Uターン補助」だけでなく「そのまま留まる選択」にも経済的な後押しをする設計へと変えた事例が生まれています。こうした動きは、地方創生の次のステージを考えるうえで、ひとつのヒントになりそうです。
地方の未来を支えているのは、外から来た人だけではありません。子どもの頃からその土地の課題を肌で知り、地域の人間関係を丁寧に育て、土地と向き合い続けてきた若者たちが、地域の持続可能性を根っこのところで支えています。移住ブームが盛り上がる今こそ、声を上げにくい立場に置かれた地元の若者たちに目を向け、「来る人」と「残る人」の両方が報われる仕組みを考えていく必要があります。にぎやかなブームを一過性で終わらせないためにも、その視点はこれからの地方社会にとって欠かせないものになっていくでしょう。
- カテゴリ
- 社会