不動産賃貸業の収益構造が変わる|インボイス制度の影響とは
2023年10月から本格的に始まったインボイス制度は、これまで消費税の納税義務がなかった免税事業者にも大きな影響を与えています。なかでも不動産賃貸業では、事業用物件の貸主が課税事業者になるかどうかが、契約の継続や収益構造に直結する重要な経営判断となります。テナントからの「インボイス発行を求める声」が高まる中、制度への対応を誤れば、思わぬ収入減や契約の打ち切りといったリスクにもつながりかねません。
インボイス制度とは何か?不動産賃貸業にどう関係するのか
インボイス制度とは、買い手側が仕入税額控除を受けるためには、売り手側から発行される「適格請求書(インボイス)」の保存が必要となる制度です。この適格請求書を発行できるのは、税務署に登録を済ませた「適格請求書発行事業者」に限られます。つまり、インボイスを発行するためには、課税事業者になる必要があるということです。
不動産賃貸業では、住宅の貸付は消費税が非課税ですが、事務所や店舗、倉庫、駐車場などの貸付は課税対象となります。法人テナントがこうした物件を借りている場合、消費税の仕入税額控除を受けるために、貸主である不動産オーナーにインボイス発行を求めてくるケースが増えています。たとえば、東京都内の中小ビルを複数所有しているオーナーのうち、2024年3月時点で約67%が課税事業者として登録しているという調査もあります(全国賃貸オーナー協会調べ)。
課税事業者になるべきか?免税のメリットとリスク
現在、年間の課税売上高が1,000万円以下の事業者は、消費税の納税が免除される「免税事業者」として扱われます。しかし、インボイス制度導入後は、免税事業者であり続けることで取引先からの信用を失ったり、契約更新を断られる可能性が出てきます。特に複数の法人テナントと契約している場合、課税事業者への転換を求められるケースは少なくありません。
一方で、課税事業者になると、売上に対する消費税を納税する義務が生じます。年間賃料収入が2,000万円(うち半分が課税対象の事業用物件)であれば、単純計算で年間約100万円以上の消費税納付が発生する可能性があります。これは経営に与えるインパクトとして非常に大きいため、慎重な試算と戦略が不可欠です。
課税事業者になった場合の具体的な対策とは?
課税事業者になることを選んだ場合、まず第一に行うべきは契約書や請求書の見直しです。多くのオーナーはこれまで税込賃料での契約をしてきましたが、今後は「税別賃料+消費税」と明記することで、税負担をテナントに転嫁する仕組みを整える必要があります。すでに契約済みのテナントに対しては、契約更新のタイミングなどで丁寧に説明し、同意を得ることが重要です。
修繕費や管理委託費などで支払った消費税については、仕入税額控除として差し引くことが可能です。たとえば年間200万円の管理費や清掃費に10%の消費税が含まれていれば、20万円分が控除対象となります。これを活かすためには、必ず「適格請求書」を発行する業者からの支出であることを確認し、帳簿と請求書の保管を徹底しましょう。
また、税務処理が複雑になるため、税理士との連携は不可欠です。特に消費税の中間納付や簡易課税制度の利用可否など、専門的な知見が必要となる場面が増えるため、プロの助言を受けることで安心して経営判断ができるようになります。
法改正・経過措置にも注意が必要
インボイス制度には段階的な経過措置も設けられています。たとえば、2023年10月から2026年9月末までは、免税事業者との取引であっても仕入税額控除の80%が認められます。さらに2026年10月から2029年9月までは控除率が50%に引き下げられ、以降は原則控除が不可となる見込みです。
このように、今はまだ「猶予期間」である一方、数年後には完全対応が求められる流れとなっており、早期の準備が将来の安定経営につながります。
まとめ:不動産賃貸業にとってインボイス制度は経営判断の分岐点
インボイス制度は単なる税制の変更ではなく、不動産賃貸業の在り方そのものに影響を与える制度です。課税事業者になることには消費税の納税という負担が伴いますが、その一方でテナントとの信頼関係の維持、安定した賃貸収入の確保といった大きなメリットも存在します。
制度の本質を正しく理解し、事前に専門家と相談の上で方針を固めておくことで、リスクを最小限に抑えたスマートな経営が実現できます。インボイス制度を「負担」ではなく、「信頼性の証」として前向きに活用していく姿勢が、これからの不動産賃貸業には求められていくでしょう。
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