難聴は年齢のせい?葉酸と聴力の知られざる相関関係

日々のパフォーマンスを左右する「聴覚」という見えにくい身体資本

私たちの毎日のパフォーマンスを支えているのは、高度な専門知識や最新のテクノロジーだけではないでしょう。それらを十分に発揮し続けるための前提として、身体のコンディションが安定していることが欠かせないと考えられます。中でも聴覚は、視力ほど意識されることが少ない一方で、情報理解や人間関係の質に深く関わる感覚です。会話が自然に成り立ち、周囲の音から状況を把握できることは、仕事や生活を円滑に進めるための基盤と言えるでしょう。

ところが、聴力の変化はゆっくりと進行するため、気づいたときには以前と同じコミュニケーションが取りづらくなっているケースも少なくありません。聞き返しが増えることで集中力が削がれたり、会話そのものを避けるようになったりする状況は、長期的に見ると社会参加やキャリア形成にも影響を及ぼす可能性があります。こうした背景から、聴覚を「年齢任せ」にせず、身体資本の一部として捉え直す視点が求められているのではないでしょうか。

 

加齢性難聴が生活の質と脳機能に及ぼす影響

厚生労働省の調査などによれば、65歳以上のおよそ3人に1人が何らかの聴力低下を自覚しているとされています。75歳を超えると、その割合はさらに高まると報告されています。加齢性難聴の特徴は、数年から十数年という時間をかけて進行する点にあります。そのため本人も周囲も変化を認識しづらく、結果として会話の機会が減少しがちになる傾向が見られます。

聴力の低下は、聞こえづらさにとどまらない影響をもたらすと考えられています。2020年に医学誌『The Lancet』が公表した報告では、認知症の予防可能なリスク要因の中で、中年期以降の難聴が最も影響度の大きい要因の一つと位置づけられました。音刺激の減少により脳への入力が低下し、社会的交流の減少が重なることで、認知機能への負荷が高まる可能性が示唆されています。聴覚は脳と密接に結びつく感覚であり、その維持が生活の質に直結するといえるでしょう。

 

葉酸が注目される理由と聴力を支える科学的根拠

こうした背景の中で注目されている栄養素が、ビタミンB群の一種である葉酸です。葉酸は造血や細胞分裂に関与する栄養素として知られていますが、血管の健康維持にも重要な役割を果たしています。聴力との関係を考えるうえで鍵となるのが、血中のホモシステインと呼ばれる物質です。

葉酸が不足するとホモシステイン濃度が上昇し、血管内皮に負担がかかりやすくなることが知られています。内耳の毛細胞は非常に細い血管から酸素と栄養を受け取っているため、血流の影響を受けやすい構造をしています。血流が滞ることで毛細胞に十分な酸素が届かなくなれば、聴力の低下につながる可能性があると考えられます。

この仮説を裏付ける研究として知られているのが、オランダで実施されたFACIT試験です。50〜70歳の男女を対象に、1日800μgの葉酸を3年間摂取したグループでは、低周波域の聴力低下が有意に抑制されたと報告されています。数値として示された結果は、栄養介入が聴覚の維持に一定の役割を果たす可能性を示すものとして評価されています。

 

食生活と習慣から考えるこれからの聴覚マネジメント

日本人の食事摂取基準では、成人の葉酸推奨量は1日240μgとされています。ただし、この基準は欠乏症を防ぐことを目的とした数値であり、血管や聴覚の保護を意識する場合には、日々の摂取状況を見直す余地があるかもしれません。葉酸は、ほうれん草やブロッコリー、納豆、枝豆、レバーなどに多く含まれていますが、水溶性で熱に弱いため、調理方法によって摂取量が減少しやすい点も特徴です。
日々の食事で補いきれない場合、医師や薬剤師に相談しながらサプリメントを活用する選択も現実的でしょう。栄養管理に加え、過度な音量を避ける、定期的に聴力を確認するなどの習慣を組み合わせることで、将来の選択肢は広がると考えられます。

耳の健康を守る意識は、長く社会とつながり続けるための投資です。今日の小さな選択が、10年後、20年後の生活の質を左右するかもしれません。今できることから整えていく姿勢が、健やかな未来につながるのではないでしょうか。

カテゴリ
健康・病気・怪我

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