食品業界のグローバル競争時代:認証取得が選ばれる条件に
世界の食品市場では、安全性への要求が年々高まりを見せています。特に日本の食品製造業が海外展開を図る際、国際的な安全基準に対応しているかどうかが、ビジネスの成否に直結する重要な指標となりつつあります。輸出先の規制や取引先の求める品質要件を満たすためには、認証の取得が必須とされるケースが増えており、もはや「取得するかどうか」ではなく「どの認証を、どのレベルで維持できるか」が問われる段階に入っています。
こうした流れの中で、製造現場を支える技術者の役割も大きく変化しています。製品の安全性を担保するだけでなく、認証要件と現場の実務を橋渡しする“知識と行動力”が、これまで以上に求められています。
国際認証が開く取引の扉:信頼を築く新たな通貨
ISO22000やFSSC22000、HACCP、BRC、SQFといった国際的な認証は、品質や安全性を担保するだけでなく、取引先に対して“信頼できる企業”という印象を与える手段にもなっています。こうした認証がなければ商談にすら進めないという地域も多く、グローバル市場に参入する企業にとっては欠かせないものとなっています。
欧州ではFSSC22000の取得が事実上の前提とされており、アジアでも輸出企業に対する安全基準の厳格化が進んでいます。たとえば、マレーシアの大手小売チェーンでは、仕入れ先の食品メーカーに対してISO認証の提出を義務づけており、それを取得していないと棚にすら並ばないという状況です。さらに、こうした認証制度は一度取得して終わりではなく、毎年の外部監査や基準改定にあわせた対応が必要です。これにより、企業が継続して高い品質レベルを維持しているかが、客観的に評価される仕組みになっています。
現場から積み上げる品質:改善が支える認証維持
国際認証の取得には、製造ラインの衛生管理だけでなく、従業員の教育や工程管理、設備の更新など、多角的な取り組みが求められます。形だけ整えるのではなく、日常的な運用と記録の積み重ねが、認証維持の土台となっていきます。ある冷凍加工食品メーカーでは、すべてのラインに温度・湿度センサーを導入し、工程全体をリアルタイムで監視できるようにしています。これにより、微細な温度変化や異物の混入リスクにも素早く対応できる体制が整いました。結果的に、監査での指摘件数が減少し、取引先からの評価も向上したといいます。
このような改善活動は、一過性の対応ではなく、日々の業務として根付いてこそ意味を持ちます。現場で働く技術者が自ら課題を見つけ、より良い方法を模索し続けることが、企業の品質力を底上げする大きな力になっています。
認証を支える“人の力”:技術者の理解と行動が鍵
どれだけ設備が整っていても、それを扱う人の理解や意識が伴っていなければ、十分な成果にはつながりません。そこで注目されているのが、現場技術者の“認証リテラシー”です。
異物検査装置や金属探知機などの使用においても、なぜその基準が設定されているのかを理解していれば、効率的かつ確実な運用が可能になります。単にマニュアル通りに作業をこなすだけではなく、その背後にある「なぜ」を理解することが、品質管理において重要な視点となっています。
このような背景から、多くの企業で技術者向けの認証研修が行われるようになりました。たとえば、ある食品メーカーでは、若手社員向けに1年間の育成プログラムを設け、品質管理、工程改善、監査対応といったテーマに沿った実践的な教育を行っています。こうした取り組みが、組織全体の品質文化の醸成にもつながっているのです。
認証は“到達点”ではなく“スタートライン”
国際認証の取得は、海外市場で信頼を得るための有力な手段であることは間違いありませんが、それはあくまでスタートに過ぎません。真の競争力となるのは、認証をきっかけに生まれる現場の意識変化や、継続的な改善活動にあるといえるでしょう。
たとえば、ASEAN諸国に製造拠点を構えるある日本企業では、認証取得を機に「月1回の品質ミーティング」を現地スタッフ主体で運営するようになりました。ここでは現場の小さな気づきや改善提案が積極的に共有され、半年後には歩留まりが6%向上したほか、現場の士気も高まったという成果が得られています。
このように、認証は「外向けの証明」であると同時に、「内向けの改革」を促す触媒でもあります。形式的な対応で終わらせず、認証を通じて学びを深め、企業文化として根づかせていくことが、これからの国際競争において重要になってくると考えられます。
まとめ:品質で選ばれる企業へ、持続的な信頼を築くために
国際認証を巡る競争は今後さらに激化し、各国の安全基準は高度化・細分化していくと予想されます。そうした中で、ただ基準を満たすだけではなく、「なぜこの認証が必要なのか」「どうすれば維持・更新できるのか」という本質的な問いに向き合う姿勢が、企業の信頼性を左右していくことになるでしょう。
認証取得を通じて信頼を得るためには、設備・管理体制・人材のすべてが有機的に連携していることが求められます。そして、その根幹を支えるのは現場で働く技術者一人ひとりの理解と行動力です。
グローバル市場で選ばれる企業であるために。食品製造業はこれからも、認証制度を「守るもの」ではなく、「活かすもの」としてとらえ、現場から変革を進めていくことが求められています。
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