転職市場で問われる即戦力、経験年数だけでは測れない理由

求人は増えているのに、なぜ基準は上がるのか

転職市場を眺めていると、ひとつ腑に落ちない数字にぶつかります。求人数はコロナ前の2019年と比べて200%を超える水準まで膨らんでいるのに、企業が採用の基準を緩めるどころか、むしろ厳しくしているという現象です。マイナビの調査では、募集当初に求めていたスキルや経験を満たさない応募者を「採用しないことが多かった」と答えた企業が62.1%にのぼり、前年より7.7ポイントも増えています。

ここで疑ってかかるべきなのは、求人が増えている理由を「採用がうまくいっている証拠」だと決めつけてしまうことです。実際には、企業が求人を出しても応募が集まらない、来ても要件に届かないという状態が続いているせいで、求人が埋まらないまま積み上がっているだけかもしれません。求人の数だけを見て市場が活況だと判断するのは危うく、その裏側では「採れない求人」がじわじわと在庫のように溜まっている可能性が高いとみられます。

doda転職求人倍率レポートでも、2025年6月時点で人材サービス業界の求人倍率は7.41倍、コンサルティング業界は7.77倍という高い水準が続いており、求職者1人に対して何件もの求人がぶつかり合っている状況が浮かび上がります。倍率が高いこと自体は求職者にとって選択肢が多いように見えますが、裏を返せば企業側は同じ1人を他社と取り合っている状態が長引いているとも読み取れます。

 

欲しいスキルの寿命が、人が育つ速さに追いつかない

では、なぜ求人が埋まらないまま積み上がってしまうのでしょうか。ここに、この5年間で起きた変化の核心があります。企業が欲しいと思うスキルの中身は、DXや生成AIの普及によって数年どころか1年単位で入れ替わるようになりました。生

成AI関連の求人はわずか1年でおよそ4倍に膨らんだとされていますが、これは単に採用意欲が高まったという話にとどまりません。むしろ大事なのは、こうした新しいスキルを持つ人材が市場にまだ十分な数いないまま、企業側の欲しい人材像だけが先に更新されてしまっている点です。

人がひとつのスキルを身につけて実務で使えるようになるまでには、どうしても一定の年月がかかります。ところが企業が求めるスキルの寿命はそれよりずっと短く、育成が終わる頃には、もう次の新しいスキルが求められている状況になりがちです。このスピードのズレこそが、求人は増え続けているのに採用基準が下がらない一番の理由だと考えられます。実際、流通・物流業界では2025年の求人件数が前年比125.5%まで伸び、営業推進や企画の分野にいたっては前年比205.9%という急増ぶりです。

数字だけ見れば人材需要が爆発的に高まっているように映りますが、これも同じ理屈で説明がつきます。EC化やデータ活用型の営業が急速に広がったことで、企業が欲しいと思う人材像が短期間で塗り替わり、それに見合う経験を持つ人がまだ市場に追いついていないというだけの話です。

 

一人を採る重みが、5年前とは変わった

このズレは、企業から見た「一人を採ることの重み」も変えています。中途採用にかかる費用は1人あたり平均650万円ほどとされ、決して軽い投資ではありません。欲しいスキルの入れ替わりが速い以上、育成にじっくり時間をかけている余裕は薄れており、育てている間に本人が転職してしまうリスクも無視できなくなっています。

実際に2025年に退職者が出た企業は49.3%にのぼり、なかでも中途入社した正社員が辞めるケースが最も多い割合を占めているようです。時間をかけて育てた分を回収する前に人が抜けてしまうくらいなら、多少コストがかかっても、すでに実務で結果を出せる人を採る方が理にかなうという判断に、企業が傾いているのではないでしょうか。

金融業界のように基幹システムの刷新を急ぐ業種ほどこの傾向は強く、今後の中途採用に積極的だと答えた企業は59.1%と、他の業種より高い水準になっています。人を育てる時間そのものが、以前より確実に短く感じられる時代に入ったといえます。

 

これから即戦力であり続けるために必要なこと

こうした流れは一時的なものではなく、しばらく続いていく可能性が高いと見込まれます。2026年に向けては91.1%の企業が中途採用に積極的な姿勢を示しており、経験者採用に絞ってもその割合は74.2%に達しています。求人数そのものは今後も増え続けるでしょうから、転職のチャンス自体は確実に広がっていくはずです。ただし、その中で選ばれるかどうかは、経験年数の長さだけではもう決まりません。

求められるスキルの寿命が短くなっている以上、ひとつの専門性にしがみつくよりも、環境の変化にあわせて自分の武器を更新し続けられるかどうかが重視される場面が増えています。企業の賃上げ意欲も高く、2024年には約8割が中途採用者の賃金を引き上げ、2025年も約7割が賃上げを予定しているとされており、条件面での投資は惜しまれていません。

だからこそ求職者の側も、過去の経験をそのまま並べるのではなく、変化にどう対応してきたかを具体的な数字や事例で語れるよう準備しておくことが、これからの転職活動を左右する分かれ目になっていくと思われます。企業の側から見ても、育成に十分な時間をかけられない以上、応募者が過去にどんな変化を乗り越えてきたかという実績は、経験年数そのものより説得力を持つ判断材料になっていくでしょう。

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ビジネス・キャリア

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