OKRの前に「なぜ働くのか」を問えるか——目標管理が機能する組織の条件

「OKRを取り入れたのに、なんだか前と変わらない気がする」——そんな声を、導入から半年ほど経った企業でよく耳にします。OKRとは「Objectives and Key Results」の略で、「目標(Objective)」と「それを測る数値指標(Key Results)」をセットで管理するフレームワークです。GoogleやIntelが実践し、日本でもメルカリやサイバーエージェントが取り入れたことで広く知られるようになりました。四半期ごとに高い目標を掲げ、進捗を数字で追うことで、組織全体のベクトルを合わせようというのが基本的な考え方です。

ところが現実には、導入してもうまく機能しない企業が少なくありません。HR領域の調査会社CEB(現ガートナー)の調査によれば、目標管理制度を持つ企業のうち「制度が意図した通りに機能している」と感じているマネージャーはわずか29%でした。失敗した企業の多くは「目標の立て方が悪かった」と振り返りますが、問題はそこではなく、もっと手前にあるケースがほとんどです。

 
OKRは「文化」がないと動かない

OKRが生まれたIntelでは、創業者アンドリュー・グローブが「高い目標に向かって自律的に動く」という組織文化をすでに育てていました。Googleでも、ラリー・ペイジがOKRを学んだ1999年当時、エンジニアたちは「失敗を恐れず挑戦する」という共通認識を持って動いていました。OKRはゼロから文化を作るツールではなく、すでにある文化を加速させる仕組みとして設計されているのです。

日本企業でOKRが形骸化しやすい背景には、心理的安全性の低さがあります。Googleが2012年から2016年にかけて実施した「プロジェクト・アリストテレス」では、高いパフォーマンスを発揮するチームに共通する最大の要因として「心理的安全性」が挙げられました。野心的な目標を立てるには「達成できなくても責められない」という信頼関係が必要です。目標を評価のための道具と感じている社員が多い職場では、OKRを導入した瞬間に誰もが達成できそうな無難な目標ばかりを並べ始めます。これはOKRが悪いのではなく、挑戦と評価が両立しない文化そのものが問題といえます。

 
「なぜ働くのか」が共有されていない

OKRの目標(Objective)は本来、「自社が何を実現しようとしているのか」という根本的な問いと連動している必要があります。ところが多くの企業では、事業部ごとの売上目標をそのままOKRに転記したに過ぎない運用が続いています。

デロイトが2023年に発表したグローバル調査では、従業員の68%が「自社のビジョンと自分の仕事のつながりを感じられない」と回答していました。この状態でOKRを導入しても、社員にとっては「新しい名前のKPI」になるだけです。四半期ごとに数字を更新しても、それが会社の方向性とどう繋がっているかが見えなければ、当事者意識は育ちません。目標設計の前に「自社はなぜ存在しているのか」「5年後にどんな価値を社会に届けるのか」を経営陣が言語化し、全社に届けるプロセスが、OKR導入より先に必要な仕事といえるでしょう。

 
マネージャーの役割が変わらないと何も変わらない

OKRの運用で最も重要な役割を担うのは、経営者でも現場の社員でもなく、中間管理職です。OKRはトップダウンとボトムアップを組み合わせた対話型の目標設定を前提としていて、マネージャーが部下と1on1を重ねながら目標の意味をすり合わせるプロセスが欠かせません。

ところが日本では、マネージャー自身がプレイングマネージャーとして業務過多に陥っているケースが目立ちます。リクルートマネジメントソリューションズの2022年調査では、管理職の約60%が「部下の育成や対話よりも自分の業務遂行に時間を取られている」と答えていました。OKRが求める「コーチング型マネジメント」への移行が伴わないまま制度だけ入れても、現場での実践は思うように進みません。マネージャーが「管理する人」から「目標の意義を対話で一緒に考える人」へと変わるための研修や評価制度の見直しは、OKRの導入と同時に進めるべきことです。

OKRは間違いなく優れたフレームワークです。ただ、道具の力を引き出せるかどうかは、使う組織の土台によって決まります。目標の書き方を工夫する前に、自社の文化・パーパス・マネジメントの質・組織の準備度という四つの問いに正直に向き合うことが、OKR導入を成功させる本当の出発点になるでしょう。

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ビジネス・キャリア

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