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少子化対策に1兆円使っても出生率が上がらない:人口動態が示す少子化の真因

過去最低を更新し続ける出生率

2024年の合計特殊出生率は1.15となり、統計が存在する1947年以降で最も低い水準に落ち込みました。戦後直後には4.0を超えていた数値が、わずか一世代のうちにここまで低下した事実は、数字として眺めるだけでは実感しにくいほど深刻な変化です。

理想の子どもの人数は平均2.25人であるのに対し、2024年の合計特殊出生率は1.15と、理想と現実の間に大きな乖離があります。多くの人が「子どもを持ちたい」と思いながらも実現できていないとすれば、問題は意識や価値観ではなく、それを阻む社会構造の側にあると考えるのが自然でしょう。

政府はこの現実に対し、2023年末に「こども未来戦略」を閣議決定し、2028年度までに国と地方合わせて3.6兆円規模の施策を打つ方針を固めました。児童手当の拡充や保育サービスの充実、教育費の無償化など、子育て世代への経済的な支援が中心です。ところが、2年目を迎えてもなお、目に見える効果にはつながっていないのが現状です。なぜ、これほどの予算を投じながら出生率は上向かないのでしょうか。その答えは、少子化の「原因の所在」を正確に見ていくと見えてきます。

 

少子化の8割は「未婚化」が原因

少子化の議論でしばしば見落とされがちな事実があります。国立社会保障・人口問題研究所の岩澤美帆・人口動向研究部部長の研究によれば、少子化の要因の8割は未婚化によるものだといいます。つまり、子育て支援の充実が政策の柱になっているとすれば、それは問題の2割以下にしか対応していない計算になります。

50歳時点まで一度も結婚したことがない生涯未婚率は、1980年代には男女ともに5%未満でしたが、2020年には男性が28.3%、女性が17.8%にまで増加しました。この約40年間で、生涯未婚という選択が例外から「よくあること」へと変化したわけです。

その内訳を見ると、「不本意未婚」——すなわち結婚したくてもできない——という状態が若年層(20〜34歳)で約40%を占めます。結婚を望まない人が増えたというより、望んでいても実現できない人が急増しているという構造が浮かび上がります。日本は婚外子が非常に少なく、専門家は「カップルの成立なくして出生なし」というのが実態だと分析しています。欧米諸国では婚外子の割合が30%を超えており、出産と結婚が切り離されているため、未婚化が少子化に直結しにくい構造があります。しかし日本では、婚姻数と出生数はほぼ連動して動く関係にあり、婚姻が減れば出生も減るという現実から逃れられません。

 

結婚を遠ざける「経済の壁」

では、なぜ結婚が難しくなったのでしょうか。感情的な「草食化」や「個人主義化」を原因として語られることもありますが、データが指し示す方向はより具体的です。

30代の男性有業者では、年収が高いほど未婚率が低い傾向にあり、この傾向は2012年からほとんど変わっていません。経済的な理由が結婚行動に大きな影響を及ぼしていることが示唆されており、若年層の所得向上は婚姻率を高める上で重要だとされています。収入が低く、雇用が不安定な男性の未婚率が高い傾向があります。デフレ下による低賃金の非正規雇用者の増加などが、未婚化を加速しているおそれがあります。1990年代以降、非正規雇用の割合は急増し、2020年代においても就業者の約4割を占めるに至りました。経済的な基盤が不安定なまま「家族を持つ」という選択をするには、あまりにもリスクが大きいと感じる若者が多いのは自然なことでしょう。

2023年の婚姻件数は48.9万組で、平均初婚年齢は男性31.1歳、女性29.7歳に達しています。高度経済成長期には男性27歳、女性24歳前後で結婚するのが標準的だったことと比べると、初婚年齢は約5〜6歳も遅くなっています。晩婚化は必然的に出産可能な期間を狭め、子どもの数にも影響を与えます。結婚が遅れる最大の理由が経済的不安であるならば、雇用の安定と賃金水準の引き上げこそが、少子化対策の根幹に据えるべき課題であるといえます。

 

政策の的を正確に当て直すために

現在の少子化対策の多くは、すでに子どもを持つ、あるいは持とうとしているカップルへの支援です。もちろんその重要性は否定できませんが、問題の8割を占める「そもそも結婚に至っていない」層への働きかけが手薄なまま予算を投じても、効果は限定的にならざるを得ません。

少子化の要因は「若年人口の減少」が約6割、「結婚率の低下」が約2割、「有配偶出生率の低下」が約2割と整理されています。人口そのものの減少は過去の政策結果であり、いまから変えることは難しい。しかし婚姻率と有配偶出生率は、社会・経済環境の変化によって反転させる余地が残っています。

2030年代に入ると若年人口は現在の倍速で急減すると予測されており、少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンスは今後6〜7年にあるとされています。その貴重な時間に、問題の本質を的確に捉えた政策が打てるかどうかが問われています。子育て支援の充実は続けながらも、若者が「結婚できる」と感じられる雇用環境と賃金水準の整備、そして非正規雇用の正規化を加速させることが、出生率を下支えする最も確実な手立てでしょう。数兆円規模の予算の使い方を、問題の構造に合わせて組み直す議論が、今まさに必要とされています。

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