「速く終わる」だけでは足りない、共働き世帯が選ぶ家電の新基準
共働きの増加で「速さ」だけでは足りなくなった
家電の「時短」という言葉から、調理時間が短い電子レンジや短時間コースを備えた洗濯機を思い浮かべる人は多いでしょう。しかし、共働きが一般的になった現在、求められているのは数分の短縮だけではありません。2025年の労働力調査を基にした集計では、夫婦ともに就業している共働き世帯は1,587万世帯に達しています。調査上の定義には違いがあるものの、長期的に共働き世帯が増えてきた流れは明確です。
仕事を終えて帰宅しても、料理、洗濯、食器洗い、掃除といった家事は残っています。しかも家事は30分、1時間とまとまって発生するとは限りません。洗濯機が終わったら衣類を取り出す、夕食後には食器を片づけるなど、細かな作業が一日の中に何度も入り込みます。そのため、「10分の家事を7分にする」より、「家電に任せてその場を離れられる」ほうが生活への影響は大きくなります。時短家電の価値が、作業速度から家事への拘束を減らす方向へ広がっていると考えられます。
家事時間よりも「気にしている時間」を減らす
この変化が分かりやすいのが、食器洗い乾燥機やドラム式洗濯乾燥機、ロボット掃除機です。2026年5月の内閣府「消費動向調査」では、二人以上世帯における食器洗い機の普及率は36.6%でした。すでに3世帯に1世帯を超える水準ですが、まだ半数には届いていません。 共通しているのは、人より速く作業することより、食器を洗う、洗濯物を干す、床を掃除するといった工程を人の手から切り離せる点でしょう。
家事の負担は、実際に手を動かしている時間だけではありません。「洗濯が終わる頃に取り出そう」「帰宅したら掃除をしよう」と予定を頭の片隅に置いておくことにも負担があります。総務省の社会生活基本調査では、6歳未満の子どもがいる共働き世帯で、妻の家事や育児を含む家事関連時間が2016年から2021年に23分増え、育児時間は35分増加しました。 自動投入や予約運転、自動乾燥などの機能は、作業時間だけでなく「次に何をしなければならないか」を考える場面も減らします。時短家電の競争は、人が家事を気に掛ける時間を減らす方向へ進んでいるといえるでしょう。
高機能なら売れるとは限らない
家電メーカー側にも変化があります。冷蔵庫なら冷やす、洗濯機なら洗う、掃除機なら吸い込むという基本性能は成熟し、性能だけでは商品の違いを感じにくくなっています。そこで目立つようになったのが、洗剤の自動投入、センサーによる運転調整、自動調理、スマートフォン連携など、人の判断や操作を減らす機能です。家電が利用者の指示を待つ道具から、ある程度自分で判断して動く道具へ変われば、新たな付加価値をつくりやすくなると考えられます。
ただし、自動化すれば必ず選ばれるわけではありません。リクルートワークス研究所が正社員同士で共働きをする子どものいる30代女性を分析したところ、自動洗濯乾燥機、自動調理器具、ロボット掃除機などの自動家電を使っていない人も約半数いました。夫婦の合算年収が800万円以上でも、利用していない人は40%に上っています。 高価格だけでなく、設置場所、使い方、掃除やメンテナンスへの不安も導入を左右するでしょう。機能を増やすほど便利になるとは限らず、「考えずに使える」「手入れも簡単」という部分まで含めて設計することが求められると思われます。
家電が売るものは「性能」から「余白」へ
時短家電の特徴を見ていくと、家電市場で売られているものが少し変わってきたことが分かります。食器洗い乾燥機を買う目的は食器を速く洗うことだけではなく、食後にキッチンへ立つ時間を減らすことにあります。洗濯乾燥機なら干す作業を減らし、ロボット掃除機なら掃除を始めるタイミングを考える必要が少なくなります。家電の価値が「性能の高さ」から、「生活の中にどれだけ余白をつくれるか」へ移っているといえます。
一方で、家電を増やせばフィルター清掃や消耗品交換、故障時の修理費といった新しい負担も生まれます。電気代や本体価格を含めれば、すべての家庭で自動化が最適とは限りません。これからの競争では、多機能化を続けるだけではなく、購入から設置、操作、清掃まで含めて利用者が関わる工程そのものを減らせるかが問われるでしょう。家電の「時短」は、単に5分、10分を縮める発想から、家事を考えたり待ったりする時間まで減らす発想へ変わりつつあります。共働き世帯が求めているのは、速く動く機械より、自分の時間を取り戻しやすくする家電なのではないでしょうか。
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