「見せる化」の効用、周囲の目が習慣を後押しする理由
習慣が続かない原因を「意志の弱さ」にしない
「毎朝30分勉強する」「週3回運動する」と決めても、仕事が忙しくなれば予定は簡単に崩れます。最初の数日は続いたのに、気づけばやめていたという経験も珍しくないでしょう。そこで自分を「意志が弱い」と責めても、習慣はなかなか変わりません。習慣とは、強いやる気を毎日維持することではなく、特定の場面と行動が結びつき、あまり考えなくても繰り返せる状態へ近づいていくことだと考えられます。朝食後に本を開く、帰宅したら運動着へ着替えるなど、行動を始めるきっかけを固定するほうが現実的でしょう。
習慣は「21日続ければ身につく」と語られることがありますが、研究を見るとそれほど単純ではありません。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの研究では、96人が食事や運動などの行動を同じ状況で12週間繰り返しました。十分なデータが得られた82人を分析したところ、行動の自動化に達するまでには大きな個人差が確認されています。よく知られる目安は約66日ですが、推定値には18日から254日まで幅がありました。数日休んだから失敗という話ではなく、長い期間でも戻ってこられる仕組みを持つことが習慣形成につながるといえます。
「見せる化」は行動を忘れにくくする仕組み
そこで取り入れたいのが、目標や進捗を誰かにわかる状態へ置く「見せる化」です。難しい仕組みは必要ありません。「今週は3回歩く」と家族に伝える、友人と勉強時間を共有する、職場の表に進捗を記録するといった方法でも成立します。自分しか知らない目標なら、「今日は疲れたから明日でいい」と予定を変えるハードルは低いでしょう。一方、誰かに伝える予定があれば、その存在が「今日はどうだったか」と自分の行動を振り返るきっかけになります。
進捗確認の効果については、2016年に『Psychological Bulletin』へ掲載されたメタ分析が参考になります。この研究では138件の研究を分析し、進捗確認を促す介入が目標達成につながる傾向を確認しました。特に、結果を記録した場合や、進捗を他者へ報告・公開した場合に効果が大きくなる傾向も示されています。ただし、「人に見せれば習慣が身につく」と証明した研究ではありません。見せること自体より、行動を記録して確認し、次の行動へ戻る流れを作ることが効いていると考えたほうが適切でしょう。
周囲の目は多ければよいわけではない
見せる化というと、SNSで大勢に目標を宣言する方法を思い浮かべるかもしれません。しかし、公開する人数を増やせば継続しやすくなるとは限りません。「毎日必ず走る」「3カ月で資格を取る」と大勢に宣言すると、できなかったときに失敗を知られたくないという気持ちが生まれます。その結果、報告そのものをやめてしまえば、習慣を支えるはずだった仕組みが負担へ変わります。周囲の目は、自分を追い込むためではなく、行動を見失わないために使うほうが続けやすいと思われます。
見せる相手は、家族や友人など1人でも十分でしょう。報告頻度も毎日ではなく、「日曜日に1週間分を確認する」と決めれば負担を抑えられます。共有する内容も成果ではなく、行動回数にすると続けやすくなります。「体重を2キロ減らした」ではなく「今週は3回歩いた」、「英語が上達した」ではなく「5日間、10分ずつ勉強した」という形です。結果には自分で完全にコントロールできない部分がありますが、行動回数なら確認しやすいため、次に何をすればよいかも見えやすくなるでしょう。
「誰に・何を・いつ見せるか」まで決めておく
実際に見せる化を始めるなら、大きな目標よりも繰り返せる小さな行動を決めるほうが取り組みやすいでしょう。「毎日1時間英語を勉強する」ではなく「夕食後に10分だけ英単語を見る」、「週3回ジムへ行く」ではなく「月・水・金に20分歩く」といった形です。そのうえで「日曜日に友人へ1週間の実行回数を送る」と決めれば、行動、記録、確認という流れができます。誰に見せるのか、何を報告するのか、いつ確認するのかまで具体的にしておくことで、気分に左右されにくい仕組みになると考えられます。
習慣形成には18日から254日という大きな幅が確認されているため、短期間で続かなかったからといって諦める必要はありません。約2万人を対象とした研究でも、進捗を確認し、記録や他者への報告を取り入れることが目標達成を後押しする傾向が示されています。見せる化の効用は、大勢から監視してもらうことではなく、自分の行動が日常の中で見えなくならない仕組みを作れる点にあるといえるでしょう。「1人に週1回、できた回数を伝える」程度から始めても構いません。頑張り続けることだけに頼らず、休んでも戻れる環境を用意することが、三日坊主だった行動を習慣へ変える助けになるのではないでしょうか。
- カテゴリ
- 学問・教育
