AI時代に学び直す社会人が増加、continuing教育市場が成長する背景

学び直しが一部の人だけのものではなくなった

学校を卒業して就職した後は、仕事をしながら経験を積んでいけばいい。かつては、こうした働き方が一般的でした。しかし現在は、社会人になってから新しい知識を学ぶ「学び直し」が珍しいものではなくなっています。背景にあるのは、仕事そのものが変化する速度の速さです。生成AIやクラウド、データ分析などの技術が広がり、数年前まで専門知識とされていたものが、一般的な業務でも使われる場面が増えました。営業職が顧客データを分析したり、企画職が生成AIを使って情報を整理したりするなど、職種を問わず新しい知識が求められています。

こうした社会人の継続的な学習を広く捉える言葉が「continuing education」です。日本語では継続教育などと訳され、大学や専門学校の社会人講座、資格取得、企業研修、オンライン学習など幅広い教育が含まれます。転職のために別分野を学ぶリスキリングだけではなく、現在の仕事を続けながら知識を更新する学習も対象です。世界のcontinuing教育市場は拡大が予測されており、その背景には単なる資格取得ブームではなく、「一度身につけた知識だけで長い職業人生を支えることが難しくなった」という構造変化があると考えられます。

 

仕事の寿命よりスキルの寿命が短くなっている

社会人が学び直す理由を理解するうえで見逃せないのが、仕事そのものがなくなることより、仕事の中身が変わる速度です。生成AIが普及したからといって、すぐに営業職や事務職が消えるわけではありません。ただし、資料作成や文章の要約、データ整理など、仕事を構成する一部の作業はすでに自動化されつつあります。その結果、「同じ仕事を続けているから同じ能力があればいい」という考え方が成り立ちにくくなりました。仕事の名称は変わらなくても、中で求められる技能は数年単位で入れ替わる可能性があります。

これは社会人にとって、必ずしも悲観的な変化ではありません。長年培った営業経験にデータ分析を組み合わせたり、人事の経験にAI活用の知識を重ねたりすれば、これまでの経験を捨てずに仕事の幅を広げられます。学び直しという言葉から、学校へ入り直して別の職業を目指す姿を想像する人もいるでしょう。しかし実際には、現在持っている経験に新しい技能を足していく学び方のほうが身近です。これまでのキャリアを土台として知識を更新することが、長く働き続けるための選択肢になってきたといえるでしょう。

 

オンライン化と企業投資が教育市場を広げている

学び直したい人が増えても、学習する手段が限られていれば市場は大きくなりません。社会人教育の広がりを支えているのがオンライン化です。以前は仕事が終わった後に専門学校へ通ったり、休日に研修を受けたりする必要があり、時間や場所が大きな壁になっていました。現在は動画講座やオンライン大学、ライブ授業などが増え、自宅だけでなく移動中にも学習できます。数年間学校へ通う方法だけではなく、数週間から数カ月で特定の技能を学ぶ講座も選びやすくなりました。教育を受けるための負担が下がったことで、これまで学習を諦めていた層にも利用が広がっていると思われます。

費用を個人だけが負担する市場ではなくなっている点も見逃せません。日本では企業研修市場が回復傾向にあり、DXや生成AI、人材マネジメントなどをテーマに社員教育へ投資する企業が増えています。企業にとって、新しい技能を持つ人材を必要になるたびに採用する方法には限界があります。採用競争が激しい職種では、社内の人材を育てたほうが効率的な場合もあるでしょう。そのため教育サービスは、個人が資格や転職のために購入するものから、企業が事業を続けるために購入するものへ広がっています。個人需要と法人需要の両方が存在することが、continuing教育市場の成長を支えていると考えられます。

 

学び直しは「資格を取ること」から「仕事で使うこと」へ

一方で、市場が成長しているからといって、講座を受ければ必ず仕事や収入につながるわけではありません。学習サービスが増えるほど、「何を受講したか」より「何ができるようになったか」が問われるでしょう。資格を取得しても、職場で使う場面がなければ能力として定着しにくく、企業が求める技能と合っていなければ転職でも評価されない可能性があります。社会人の学び直しでは、流行している分野を片端から学ぶより、自分が持つ経験と組み合わせられる技能を選ぶことが現実的だといえます。

こうした需要から、特定の技能を短期間で学び、その習得を証明するマイクロクレデンシャルなどの仕組みにも関心が集まっています。数年間かけて学位を取得する方法だけではなく、AI、データ分析、マーケティング、マネジメントなど必要な知識を小さな単位で学び、仕事に取り入れていく形です。これからは20代までに学習を終え、その知識だけで何十年も働くという考え方より、働きながら必要に応じて知識を更新する人が増えていくのではないでしょうか。continuing教育市場の拡大は、教育が「社会に出る前の準備」から「社会に出た後も使い続けるサービス」へ変わりつつあることを示していると考えられます。

カテゴリ
学問・教育

関連記事

関連する質問