意志の強さに頼らない「if-thenプランニング」で行動を変える思考法

行動できない理由は、意志の弱さだけではない

「明日から運動しよう」「帰宅したら勉強しよう」と決めたのに、いざその時間になると動けない。そんな経験が続くと、自分は意志が弱いのではないかと思ってしまいます。しかし、行動できない理由はそれほど単純ではありません。仕事で疲れている、スマートフォンが手元にある、予定が変わった、そもそも目標に十分な納得感を持てていないなど、現実には複数の要因が重なっています。中でも見落としやすいのが、行動する直前まで「今やるか、あとにするか」という判断を残していることです。選択できる余地が大きいほど、その日の気分や目の前の誘惑に流されやすくなると考えられます。

こうした迷いを減らす方法の一つが、「if-thenプランニング」という思考法です。直訳すると「もし〜なら、そのとき〜する」という計画法で、「if」に行動のきっかけとなる状況、「then」にそのとき実行する行動を当てはめます。心理学では「実行意図(implementation intentions)」と呼ばれる考え方がもとになっており、ドイツの心理学者ピーター・ゴルヴィッツァーが1990年代に提唱しました。一般的な「運動する」「勉強する」といった目標に対し、「いつ、どんな状況になったら、何をするか」まで具体化する点が特徴です。「朝7時にアラームが鳴ったら運動着に着替える」のように、状況と行動をセットにすることで、その場で判断する回数を減らし、行動へ移りやすくすることが期待されます。

 

if-thenプランニングは「合図」を先に決めておく

「毎日30分勉強する」という目標だけでは、いつ始めるのかが決まっていません。帰宅直後なのか、夕食後なのか、寝る前なのか。その都度考える必要があるため、疲れている日は「今日は休もう」という選択肢が入り込みます。一方、「夕食を終えたら英単語を10個確認する」と決めておけば、夕食を終えるという出来事が次の行動を思い出す合図になります。目標を一日中意識し続けなくても、特定の場面と行動を結びつけることで、動き始めるきっかけをつくれるといえます。

この方法には心理学研究の蓄積もあります。2006年に報告された94の独立研究を対象とするメタ分析では、実行意図は目標達成に対して中程度から大きめの効果を示しました。2015年に発表された展望記憶に関するメタ分析でも、健康な若年成人で一定の改善効果が確認されています。ただし、この結果は「if-thenを設定すれば誰でも成功する」という意味ではありません。目標だけを頭に置くよりも、行動する場面まで具体的に決めたほうが実行につながりやすい、と理解するのが適切でしょう。意志を強くするのではなく、行動を思い出すきっかけを生活の中につくれる点に、この思考法の特徴があると思われます。

 

続かないときは「自分」ではなく設定を見直す

if-thenプランニングを使っても、思い通りに続かないことはあります。「朝7時になったら5キロ走る」と決めても、5キロという距離そのものが負担なら、条件が成立した瞬間に「今日は疲れているからやめよう」という別の判断が入り込むでしょう。そこで「朝7時になったらランニングシューズを履く」「パソコンを開いたら企画書の見出しを一つ書く」と、最初の動作まで小さくします。始めるまでの心理的な負担が下がれば、次の行動へ移りやすくなることが期待されます。

それでも続かないなら、目標そのものを見直す必要があるかもしれません。「資格を取らなければ」「英語を勉強しなければ」と考えていても、本心では必要性を感じていなければ行動は続きにくいでしょう。睡眠不足や仕事の忙しさなど、生活環境が原因になっている場合もあります。予定が変わりやすい人なら、「朝にできなかったら夕食前に10分歩く」と別の条件を用意する方法も有効だと考えられます。ただし、ルールを増やしすぎれば管理すること自体が負担になります。まずは何度も先延ばししている行動を一つ選び、合図と行動の組み合わせを試す程度から始めるほうが取り入れやすいでしょう。

 

未来の自分に判断を残しすぎない

私たちは一日の中で、「仕事を始めるか、メールを見るか」「運動するか、SNSを見るか」「勉強するか、今日は休むか」といった小さな選択を何度もしています。元気なときなら予定通り動けても、疲れている夜には楽なほうへ流れてしまうこともあるでしょう。毎回その場で正しい選択をしようとすれば、自分との交渉を何度も繰り返すことになります。if-thenプランニングは、その交渉の一部を先に終わらせておく思考法ともいえます。

取り入れ方はシンプルです。「午前9時にパソコンを開いたら、メールを見る前に資料を5分作る」「夕食後にコーヒーを入れたら、本を2ページ読む」というように、「どんな場面で」「最初に何をするか」を一組だけ決めます。数日試して動けなければ、意志の弱さを疑うより、合図が生活に合っているか、行動が大きすぎないか、本当に続けたい目標なのかを確かめたほうが改善につながるでしょう。行動の自動化とは、未来の自分を完全にコントロールすることではありません。迷いが生まれやすい場面を先回りして整え、自然に最初の一歩を踏み出せる状態に近づけていく。その積み重ねが、無理なく続く習慣をつくる一つの方法になるのではないでしょうか。

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学問・教育

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