アルゴリズムに依存しないブランドのSNS戦略——共通する「軸」の正体

アルゴリズムが変わるたびに、なぜ焦るのか

Instagramがリールを優遇するようになったのは2021年頃のことです。それまで丁寧に写真投稿を続けてきたアカウントが、ある日突然リーチを大幅に落とした——そんな話は、SNS運用に関わる人なら一度は耳にしたことがあるでしょう。2023年にはThreadsが登場し、X(旧Twitter)では表示の仕組みが何度も変わりました。TikTokも2024年以降、どんな動画を優先的に見せるかというルールをたびたび更新しています。

「やっと慣れてきたと思ったら、また仕様が変わった」という感覚は、SNSをビジネスに使う人ならほぼ全員が経験してきたことではないでしょうか。HubSpotの調査では、B2CブランドのSNS担当者のうち約68%が「アルゴリズムの変更によってマーケティングの成果に影響が出た」と回答しています。それほど多くの人が悩まされているテーマです。

ただ、同じ環境に置かれながらも、安定して認知と売上を保ち続けているブランドも存在します。彼らが持っているのは、アルゴリズムへの対応力ではなく、アルゴリズムに頼らなくてもいい「土台」です。その土台を作る考え方に、共通したパターンがあります。

 

まず「誰に届けるか」が決まっているかどうか

アルゴリズムに振り回されやすいブランドには、ある共通の癖があります。「どうすれば多くの人に届くか」を考える前に、「どんな人に届けたいのか」がはっきりしていないことです。リーチ数やインプレッションを追いかけていると、アルゴリズムが変わるたびに戦略を一から見直すことになります。地盤が固まっていない場所に何度も建て直しをするようなもので、どれだけ労力をかけても安定しません。

一方で、アルゴリズムの変化に強いブランドは、届けたい相手の解像度がとても高い傾向にあります。年齢や性別といった表面的な情報だけでなく、「その人が平日の朝、何を気にしながら過ごしているか」「休日に何にお金を使い、何に後ろめたさを感じるか」というところまで、顧客のことを理解しようとしています。Sprout Socialが2024年に発表したレポートでは、ターゲットオーディエンスを詳細に定義しているブランドは、そうでないブランドに比べてエンゲージメント率が平均2.4倍高いという結果が出ています。

なぜこれがアルゴリズムへの耐性になるのでしょうか。それは、本当に「自分ごと」として感じられるコンテンツに対しては、ユーザーが自然と反応するからです。いいねを押したり、コメントしたり、保存したり、誰かに送ったりといった行動は、どのプラットフォームのアルゴリズムでも「良いコンテンツ」として評価されるシグナルになっています。届けたい人が明確であることは、ただの戦略整理ではなく、変化への免疫そのものです。

 

SNSのフォロワーは「借り物」だと知っている

フォロワーが5万人いても、実際に投稿を見ている人が1,000人を下回ることは珍しくありません。Metaの公式データによれば、Facebookページのオーガニックリーチ率は平均2〜6%程度です。フォロワー10万人のページでも、投稿が実際に届いている人は2,000〜6,000人前後という計算になります。つまりSNSのフォロワーとは、プラットフォームが「今は貸してあげている」存在であって、いつでも取り上げられる可能性があります。

この現実を理解しているブランドが力を入れているのが、「自分たちで持てる顧客接点」の育成です。メールマガジンの読者リスト、LINEの公式アカウントの友だち、自社ECサイトの会員登録者などが、その代表例です。これらはプラットフォームのルール変更に左右されることなく、ブランド側から自由に連絡できる資産です。Klaviyoのレポートでは、メールマーケティングのROIはSNS広告と比べて平均42倍に達するという数字も出ており、SNSを「入口」として活用しながら、そこから自社の資産へ誘導することを目的にしているブランドが増えています。

SNSで認知や共感を得て、そこからメール登録や会員登録へとつなげていく——この流れを設計しているブランドは、アルゴリズムが大きく変わっても売上への影響を最小限に抑えられます。SNSはいつ変わるかわからない借り物の場所で、自社の顧客リストは手放されることのない自分の資産です。この違いをどれだけ意識しているかが、長期的な安定性に直結しています。

 

「このブランドらしさ」が一本通っているかどうか

最後に、見落とされがちながら、最も根本的な原則として挙げておきたいのが「ブランドの一貫性」です。写真でも縦型動画でも、InstagramでもTikTokでも、「このブランドならではのトーンや世界観」が変わらず感じられるかどうかが、長く支持されるブランドと短命なブランドを分ける大きな要因になっています。

流行りのコンテンツを片っ端から真似することでリーチは一時的に伸びるかもしれません。ただそれを続けていると、「なぜこのブランドでなければならないのか」という理由が薄れていきます。消費者は意識しているかどうかに関わらず、ブランドの一貫性を感じ取っています。Nielsen Consumer Trust Indexの2023年版では、「ブランドメッセージの一貫性が購買の意思決定に影響する」と回答した消費者が59%にのぼっています。

一貫したブランドの声が根付いていくと、SNSの投稿を見なくても「そういえばあのブランド、気になってた」と思い出して検索するという行動が生まれてきます。これはアルゴリズムに依存しない形の認知であり、どれだけプラットフォームのルールが変わっても失われない強さです。投稿のたびに「これは自分たちらしいか」と問い直す習慣が、じわじわと積み上がって大きな差になっていきます。

アルゴリズムは、これからも変わり続けるでしょう。ただ、届けたい人を明確にし、自社の顧客資産を育て、ブランドとしての一貫性を守ってきたブランドにとって、その変化は「脅威」というより「他が脱落していくチャンス」として映ります。変化に強いブランドは、アルゴリズムの先を読んでいるのではなく、アルゴリズムに左右されない場所に立っています。

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