PMもマーケターも「Figmaで話す」時代——職種を超えた意思決定が生まれる仕組み

デザイナー専用ツールのはずが、なぜ全員が使うようになったのか

Figmaは2016年にリリースされたクラウドベースのデザインツールです。最大の特徴は、ブラウザ上でURLをひとつ共有するだけで、誰でもリアルタイムに同じ画面を開いてコメントできる点にあります。かつてのデザインツールはデザイナーの端末にインストールする専用ソフトウェアで、中身を確認するだけでも専門知識が必要でした。Figmaはその壁をほぼ取り払いました。

結果として起きたのが、デザイナー以外の職種への急速な浸透です。Figmaの共同創業者兼CEOのディラン・フィールド氏は、全アクティブユーザーのうち約3分の2がエンジニア・PM・マーケター・ライターといった非デザイナーであると繰り返し語っており、これを「プロダクトの成功を示す最も誇らしい指標」と位置づけています。日本市場でも楽天・LINE・富士通といった大手企業が導入を進め、2023年における日本の顧客企業数と収益の成長率は、Figmaが展開する全地域の中で米国を上回り最高水準に達したと報告されています。Figmaがここまで浸透した背景には、ブラウザからURLひとつでアクセスできる手軽さだけでなく、「デザインを見ながら話す」という体験が会議の質をそのまま変えてしまうという実感が、多くのチームの間で広がったことがあるでしょう。

 
「見えないもの」が議論できなかった時代

Figma以前の開発現場では、デザイナーと非デザイナーの間に目に見えない壁がありました。デザイン案はPNGやPDFで共有され、「どのボタンのことを指しているか」の確認だけでSlackのやり取りが何往復もするのが当たり前でした。PMがユーザーの操作感を体験しないまま仕様を承認し、エンジニアが「聞いていたデザインと違う」と実装直前に気づく——こういった手戻りが頻繁に起きていた現場は、当時の開発チームに広く共通する風景でした。

Figmaが変えたのはこの往復コストです。画面の特定の箇所にピンポイントでコメントをつけられる機能と、実際の画面遷移をシミュレーションするプロトタイプ機能によって、デザインの専門知識がなくても「この画面のここが分かりにくい」と具体的に指摘できる環境が整いました。Goldman Sachsのプロダクト担当VP、ジェニファー・アデスマン氏が「Figmaはデザイナーだけのものではなく、製品のユーザーエクスペリエンスを確認すべき全社員のためのもの」と語っているように、ツールの使われ方がそのまま組織の対話の形を変えています。Figmaが公表したデータでも、デザイナーと開発者が週1回以上コラボレーションしている割合は74%にのぼり、ミーティングの頻度も2023年の34%から2024年には59%へと増加しています。回数が増えたことよりも重要なのは、「画面を見ながら話す」という前提が生まれたことで、会話の解像度そのものが上がった点にあります。

 
ノーコードとの連携で、「判断できる人」がさらに増えている

Figmaで意思決定に関わる人が増えたことで、次に起きたのが「判断するだけでなく、自分でも動かして確かめたい」という欲求の広がりです。その流れを後押ししているのが、WebflowやBubbleといったノーコードツールとFigmaの連携です。

Webflowは、コードを書かずに本格的なWebサイトを構築できるノーコードプラットフォームで、2023年にリリースされた公式プラグイン「Figma to Webflow」を使えば、Figmaで作ったデザインのレイヤーや色・フォントといったスタイル情報をWebflowにそのまま転送し、動くWebサイトとして仕上げることができます。同様にBubbleとの連携では、FigmaのデザインフレームをBubbleにインポートし、データベースやワークフローの設定を加えることでWebアプリケーションとして公開する道が開けています。以前なら「デザイナーに依頼→エンジニアが実装」という2段階を踏まなければ形にできなかったものが、非デザイナーが自分の手で「試して、判断して、修正する」サイクルを回せるようになりました。これは意思決定のスピードという観点から見れば、かなり大きな変化です。

ただし正直に言うと、ノーコードツールは「コードを書かなくていい」だけで、学ぶことがゼロというわけではありません。WebflowであればFlexboxの概念、Bubbleであればワークフローとデータベースのつながりをざっくりでも理解しておかないと、思いどおりの動きをさせるのに時間がかかります。それでも、専門職にすべてを委ねなければ何も動かなかった時代と比べると、非デザイナーが意思決定に使える武器の数は、確実に増えているといえるでしょう。

 
デザインが「共通言語」になる組織へ

Figmaの普及とノーコードとの連携が重なることで起きている最も本質的な変化は、デザインが職種を超えた「共通言語」になりつつあるということです。かつてのプロダクト開発では、PMは要件定義書で、デザイナーはビジュアルで、エンジニアはコードで、それぞれ異なる形式の情報を扱い、認識のズレを埋めるための会議が別途必要でした。Figmaはその断絶をひとつのファイルで埋め、全員が同じ画面を起点に話せる環境をつくりました。

ただ、ここで非デザイナーに持っておいてほしい視点があります。「見えるから話せる」「動かして確かめられる」ようになった今、チームの中で本当に頼りにされる人が持っているのは、操作スキルよりもフィードバックの質です。「ここを青くして」という見た目への指摘と、「冷たい印象を与えるので温かみを出したい」というユーザー体験への指摘は、同じFigma上のコメントでもまったく重みが違います。ビジネスの目標とユーザーの体験の両方を意識した言葉で発言できる人が、Figma時代の意思決定において中心に立てる人材になるでしょう。Figmaというツールは扉を開けましたが、その先の対話の質を高めるのは、職種を超えた視点の積み重ねにかかっています。

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インターネット・Webサービス

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