メタバースは失敗ではなく「脱皮中」——着実に進む実務化の波

「メタバースは失敗だった」——そんな言葉を耳にする機会が増えています。2021年にMeta(旧Facebook)が社名を変えてメタバース宣言をしたとき、世界中が沸きました。大手企業が次々と参入し、日本でも「うちもやらなきゃ」という空気が広がりました。ところが数年も経たないうちに、DisneyやMicrosoftが撤退を発表し、国内でも投資対効果(ROI)を確保できずに事業をたたんだ企業が全体の91.9%に達したといいます。

ここまで聞くと、「やっぱり失敗じゃないか」と思うのは自然なことです。でも、同じ時期に世界のメタバース市場が744億ドル(2024年)から5,078億ドル(2030年予測)へと伸び続けているとしたら、どう感じますか。失敗しているのに、市場は7倍近くに成長している。この矛盾の中にこそ、メタバースの本当の姿が隠れています。

 

「失敗」の正体は、技術ではなくビジネスモデルにあった

なぜあれほど多くの企業が撤退したのか。よく言われるのは「時期尚早だった」という説明ですが、それだけでは理由として浅いでしょう。

根本にあるのは、参入した企業の多くが「ブームに乗ること」を目的にしていたという事実です。メタバースを使って何の課題を解くのか、使い続けてもらうための動機をどう設計するか——そこを後回しにしたまま、見栄えのいい仮想空間を作ることにお金をつぎ込みました。MetaのHorizon Worldsが象徴的で、整った空間は用意されましたが、そこに「毎日行きたい理由」がありませんでした。人は目的のない場所には足を運ばないのと同じで、仮想空間も動機設計なしには定着しません。

つまり、失敗したのはメタバースという技術ではなく、「なぜ使うか」を設計しなかったビジネスモデルでした。技術に罪はない、というのは少し乱暴な言い方かもしれませんが、本質はそこに近いでしょう。

 

撤退ラッシュの裏で、数字を伸ばし続けたプラットフォームがある

同じ時期に、RobloxとFortniteは静かに規模を拡大していました。Robloxは2024年第2四半期のデイリーアクティブユーザーが7,950万人を突破し、前年比21%増を記録しています。日本国内だけを見ても、2022年末から2024年末の2年間でユーザー数が120%増加しました。クリエイター数は5倍に膨らみ、報酬総額も78%成長しています。大手が撤退を発表していた時期に、です。

なぜRobloxは伸び続けたのか。答えは単純で、「そこにいると楽しいし、得をする」からです。ゲームとして面白いから人が集まり、人が集まるからブランドが広告を出し、広告があるからクリエイターが稼げて、稼げるからもっと良いコンテンツが生まれる——この循環が機能していました。メタバースが流行っているからではなく、使う理由が最初から設計されていた。それだけの違いで、結果はまったく変わってしまったわけです。

 

地味だけど深い——成長している現場とは

ゲームとエンタメ以外で、メタバースが根付いている場所があります。派手さはないですが、むしろそれが定着のサインです。

製造業では「デジタルツイン」と呼ばれる手法が広がっています。工場や建設現場を仮想空間に丸ごと再現し、実際に作り始める前にシミュレーションで設計ミスを潰すやり方で、すでに建設・製造業で実用化が進んでいます。NVIDIAが2024年3月に発表した「Omniverse Cloud」は、世界最大級の設計ソフトウェアメーカーと連携し、工場や施設のデジタルツイン構築を支えています。現場の人たちはこれを「メタバース」とは呼んでいません。ただの業務ツールとして当たり前に使っています。道具が当たり前になったとき、それは本当に根付いたと言えるでしょう。

教育の現場でも、見過ごしにくい変化が起きています。不登校の子どもたちが仮想の教室に通えるサービスが、実証実験の段階を経て実用段階に移行しています。物理的な教室に来られない子どもにとって、バーチャル空間は代替手段ではなく、本来の居場所になり得るものです。自治体の動きも活発で、2024年は国内自治体によるメタバース活用の実証実験件数が目に見えて増加しました。地方創生やリアルとバーチャルを組み合わせた展示会、さらに生成AIと連携したAIアバターによる住民サービスの実験まで、行政の現場でも静かに使われ始めています。

 

「失敗」というレッテルを貼った人が見落としているもの

メタバースを「VRゴーグルが普及するかどうか」で評価するのは、カーナビを「空を飛べるか」で評価するようなものかもしれません。見ている軸がそもそもずれています。
正しい問いは「誰が、何の課題を解決するために使っているか」です。この問いに立ち返ると、製造業のコスト削減、教育機会の拡張、消費者体験の設計という分野でメタバースが機能していることが見えてきます。日本国内の市場規模は2028年度に2兆円規模に達するという推計もあり、成長の方向性は変わっていません。

ガートナーの分析では、メタバースは現在「幻滅期」から「啓発期」への移行段階にあるとされています。熱狂が去り、使えない用途では使われなくなり、本当に機能する用途だけが残る——これは失敗ではなく、淘汰が正常に働いた結果です。

「失敗した技術」として傍観するより、「正しく使い始めた人たちがいる技術」として見直すこと。その小さな視点の切り替えが、これからのメタバースを読み解く最初の一歩になるでしょう。

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