「再び酒造りを」全壊からの再起。 閖上の地の歴史を紡ぐ佐々木酒造店【宮城県名取市】

ローカリティ!
「前例とは作っていくものである」と実感した取材

日本酒」私たち日本人にとってかけがえのない作物「」から作られる酒。筆者は日本酒が大好きです。筆者が現在住んでいる宮城県は全国屈指の米どころであり酒処です。素晴らしい美酒の数々は先人たちと今を生きる蔵人の方々の技と知恵の結晶です。

今回取材をさせていただきました佐々木酒造店は、宮城県名取市閖上の老舗の酒造です。取材を通じて筆者は深い感動を得ました。東北を襲った東日本大震災からの再建、創業から続く閖上への思い。酒造りは元より日本という国において日本人として生きていく上で大切なこと、先人たちが作り上げてきた日本人の底力と精神をどうか感じ取って頂けましたら幸いです。

現在の地産地消にあたる酒造りへの心を宿す佐々木酒造店の一途な思い
2026年5月30日撮影
2026年5月30日撮影
2026年5月30日撮影

一級河川名取川沿いに建つ佐々木酒造店。取材をさせて頂いた日は晴れた良い天気でした。今回の取材にあたり、佐々木酒造店専務取締役の佐々木洋(ささき・ひろし)さんにお話しを聞かせていただきました。1871(明治4)年に宮城県名取市閖上(ゆりあげ)の地で創業した佐々木酒造店は、初代・佐々木新助氏が運送業から多角的に事業を起こす中、伊達藩の卸用港として栄えた閖上で酒屋を開きました。当時の屋号は「浪の音」だったそうです。お酒の銘柄は現在も作られている宝船浪の音(ほうせんなみのおと)です。

ここで閖上(ゆりあげ)の地について触れてみたいとおもいます。名取川の南岸、太平洋に面する港町。閖上の「閖」という字は名取市の閖上でしか使われていない字です。一説によると、藩主である伊達の殿様が考案したといわれています。

佐々木酒造店はこの閖上の地で「地酒とはその土地の文化を液状化したものである」「土地そのものだ」という考えのもと地元の生活、食、命に寄り添う酒を地元の米と蔵の前を流れる名取川の伏流水で醸してこられました。

銘柄「宝船浪の音」(ほうせんなみのおと)に込められた意味

日本酒の銘柄にはそれぞれに意味があり、造り手の思いが込められています。佐々木酒造店のお酒の銘柄「宝船浪の音」には名取川と太平洋の海が交わる河口の町である閖上においてたくさんの魚を積んで町に富みをもたらす漁船を宝船にみたてて名づけられたそうです。

地元への深い愛を感じる銘柄です。

名取市のそして宮城県の美味なる食材の味を引き立てる。まさに宮城県のお酒

取材で伺った際に筆者もお酒を購入させていただきました。その深い味については下記の文でより詳しく書かせていただきますが、清らかで軽やかさと深みをあわせ持つ素晴らしいおいしさのまさに銘酒です。宮城県産の魚にも肉にも野菜にも合う。食材の持ち味を生かし、なおかつその酒の持つ魅力を主張できる。宮城県内はもとより県外の方々にもぜひ飲んでいただきたいお酒です。

故郷のアイデンティティを残し続けるために。復興の象徴とするために

決して忘れてはいけない。あの日2011年3月11日東日本大震災が宮城県を襲いました。佐々木酒造店では蔵が全壊、流出という大きな被害を受けました。絶望ですべてを諦めてもおかしくはない。そんな状況でしたが佐々木洋という人は諦めませんでした。被災したその日には酒蔵を復活させ再起すると考えていました。

もちろん悲しみがないわけはありません。想像を絶する困難が待ち受けているだろうことを承知の上でこう思えるのは、佐々木さんが心から佐々木酒造店と閖上の地を愛し自分たちの仕事に誇りをもって取り組んできたからこそではないでしょうか。そしてここからが佐々木酒造店の新たな歩みの始まりです。

2本のタンクから始まった不屈の酒造り

全壊した蔵で奇跡的に難を逃れた2本のタンクがありました。このタンクの酒をびん詰めして生まれた酒が「閖」(ゆり)です。2012年3月11日に「閖」を販売。「佐々木酒造店は酒造りを辞めず、必ず創業の地である閖上で復興する」と発信されました。

そして2012年12月18日から仮設工場で酒造りを始めました。酒造りを行うためにカスタマイズをし環境をひとつひとつ整え、手探りではありますがこの町や酒造の物語を紡いでくれるような酒造りを目指しました。前例のない取り組みでしたが、前を向き様々な意見を取り入れ試行錯誤を重ね、問題をひとつひとつ乗り越え佐々木さんは酒造りに邁進しました。その結果、震災を乗り越えてやれることを実証したのです。

酒蔵の復興は奇跡の終わりではなく始まり

佐々木さんは酒造の復興を2016年頃から考え始め、次のステップに進むため各地の酒蔵で学びました。2018年12月25日に地鎮祭を行い、2019年10月1日「日本酒の日」大安吉日のこの日についに蔵開きがされました。場所は創業の地とほぼ同じ場所です。8年6カ月21日の時を経て復興を成し遂げたのです。

それまで前例のないことに挑戦してその先駆者となったのは、創業当時からの理念が突き動かしたところもある、とのことです。

そして震災後、全国の酒造や多くの人々からの支援がありました。蔵開きの日には宮城県内の他の酒造の方々も駆け付けました。佐々木酒造店のたゆまぬ努力が多くのひとの心を打ち、支援の輪が広がり成し遂げた復興だったのではないでしょうか。

自分の仕事に誇りを持ち情熱を燃やし邁進する。誰かをひとりにせず皆で協力し合い助け合い共に前に進んでいく。私たち日本人の先祖が長い年月をかけて築いてきた思いが、みんなの心に息づいているからこそできたことではないかと筆者は取材を通じて感じました。

コクとキレをあわせ持つ爽やかなる宝船浪の音 純米吟醸

ここで佐々木酒造店のお酒を実際に飲んでご紹介致します。まずは宝船浪の音 純米吟醸です。

これにあわせるのは宮城県産のカツオの刺身とこれも宮城県産のキクラゲの酢の物です。

2026年6月2日撮影
2026年6月2日撮影

海の潮風のように爽やかな香りとコクがありつつもスッキリとしたキレのある味。そこにカツオのこっくりとしたうまみがよく合います。

キクラゲのコリコリとした独特の歯触りと、味付けに加えたゴマ油の風味も上手くなじみました。

互いの味を高めあう充実した食事のひとときを楽しめます。

軽やかで深い。宝船浪の音純米酒を燗でいただく

続いては「宝船浪の音 純米酒」を熱かんにしました。

2026年6月2日撮影

ふわりと優しい香り、軽やかでそれでいて深いコクとスッキリとした飲み口。ここに宮城県産のカワハギの刺し身を合わせてみましょう。

2026年6月2日撮影

肝つきでしたのでしょう油に溶いていただいたのですが、肝しょう油でいただく事によりコクと旨味の強いこの刺し身の味を熱かんが引き立てつつも、あとくちをさっぱりとさせてくれました。

これぞ名取市のお酒。宝船浪の音 純米酒 閖(ゆり)

最後にご紹介するのは「宝船浪の音 純米酒 閖」です。「閖」とともに名取のお米、水、地場産品が広まっていきますように、という思いがこめられているこちらのお酒は肉じゃがとともにいただきました。

2026年6月6日撮影
2026年6月6日撮影

軽い口当たりでキレのある飲み口、味も香りも均整のとれた味わい。そこに合わせる肉ジャガは宮城県産の黒毛和牛のこま切れ肉と、これも宮城県産のタマネギとジャガイモで作った比較的シンプルな肉じゃがです。

牛肉のコクとタマネギの自然な甘味をともなったコク。2つの異なるコクを吸ったジャガイモが織りなす豊かな味。そこに「宝船浪の音純米酒閖」を合わせると、お互いが味を高めあい酒も料理も後を引く満足な食事となりました。

佐々木酒造店のお酒をぜひ飲んでみてください。

これからも創業の地「閖上」とともに歩む

今回の取材において佐々木さんがいかに佐々木酒造店と閖上の地を愛しているか、佐々木酒造店がどれほど深く地元に根付いているかを感じ取りました。創業からの変わらぬ思いがある限り、佐々木酒造店は閖上とともに今日も新たな一歩を歩み続けることでしょう。

情報

有限会社 佐々木酒造店
〒981-1203 宮城県名取市閖上中央一丁目 12番地の3 
佐々木酒造店HP:
https://housen-naminooto.com/
Instagram:
https://www.instagram.com/naminooto.yuriage/

情報提供元:ローカリティ!

上野尚吾
ローカリティ!は、地元に住む人々が、自分が大好きな地元の人やモノや出来事を、自分で世界に発信し、
その魅力を共に愛する仲間を募れる住民参加型・双方向の新しいニュースメディアを目指しています。
カテゴリ
[地域情報] 旅行・レジャー

関連記事

関連する質問