台風は「増える」より「強くなる」?気候変動がもたらす新たな災害リスク
台風は増えるのではなく、強くなる?
夏から秋にかけて、日本では台風のニュースが珍しくありません。大型の台風が近づくたびに気になるのが、「温暖化で台風が増えているのでは?」という疑問です。ただ、現在の研究を見る限り、話はそれほど単純ではありません。気象庁の「日本の気候変動2025」によると、1951~2024年の観測では、台風の発生数や日本への接近数に明確な長期変化は確認されていません。将来についても、世界全体の熱帯低気圧の発生数は減少するか、大きく変わらないと予測されています。
変化が表れそうなのは「数」よりも「強さ」です。気象庁は、地球温暖化が進むと強い熱帯低気圧の割合が増え、日本付近では台風の強度や台風に伴う降水量が増えると予測しています。日本では最大風速44m/s以上54m/s未満を「非常に強い」、54m/s以上を「猛烈な」台風と呼びます。一方、ニュースなどで使われる「スーパー台風」は気象庁の正式な分類ではありません。毎年スーパー台風が日本を襲うと決まったわけではないものの、強い台風が接近する可能性をこれまで以上に意識する時代に入っている、と見るほうが実態に近いでしょう。
台風を強くするのは「暖かい海」
なぜ気温が上がると台風が強くなるのでしょうか。その鍵を握るのが海です。台風は暖かい海から供給される大量の水蒸気を取り込みながら発達します。水蒸気が雲へ変わるときに放出される熱が、台風を動かすエネルギーになります。気象庁によれば、人間活動によって地球に蓄積された余分な熱の約90%を海洋が取り込んでいます。日本近海の平均海面水温も上昇を続けており、台風が日本へ近づいても勢力を維持しやすくなる条件の一つとして注目されています。
雨の降り方にも影響します。気温が高くなるほど空気中に含むことのできる水蒸気は増え、その目安は気温1℃の上昇につき約7%です。台風が運んでくる水蒸気が多くなれば、それだけ激しい雨につながる条件も整います。IPCCも、温暖化に伴って熱帯低気圧による降水量が増える可能性が高いと評価しています。台風のニュースを見ると中心気圧や最大風速に目が向きますが、これからは「どれだけ雨を降らせるか」も同じくらい注意したいところです。風がそれほど強くない地域でも、河川氾濫や土砂災害が起きれば被害は大きくなります。
怖いのは、風・雨・高潮が重なること
強い台風が厄介なのは、暴風だけを警戒すれば済むわけではない点です。大量の雨が降れば河川が増水し、市街地では排水が追いつかず道路や住宅が浸水することがあります。山間部では土砂災害の危険が高まり、海沿いでは高潮や高波への警戒も欠かせません。そこに海面水位の上昇が重なると、同程度の台風でも沿岸部の浸水被害が大きくなる可能性があります。気候変動による台風災害は「風速が少し上がる」という話だけではなく、いくつもの被害が重なりやすくなる問題として見る必要があるでしょう。
その怖さを示す研究もあります。環境省などは、2018年に関西地方へ大きな被害をもたらした台風21号をモデルに、温暖化が進んだ場合の変化をシミュレーションしました。その結果、2℃上昇した環境では最大風速が平均8.6m/s、4℃上昇では平均10.2m/s強まるという結果が出ています。中国・四国・近畿・東海地方の累積降水量も、2℃上昇で平均10.1%、4℃上昇で平均17.9%増える試算となりました。もちろん、すべての台風が同じように強くなるという意味ではありません。それでも、温暖化した環境では、同じような進路を通る台風でも被害の規模が変わる可能性があることは見えてきます。
「前は大丈夫だった」が通用しない防災へ
台風への備えというと、水や食料、モバイルバッテリーなどの備蓄を思い浮かべる人が多いでしょう。それらは欠かせませんが、気候変動を考えるなら、もう一歩先まで想定しておきたいところです。自宅がこれまで浸水したことがなくても、将来も同じとは限りません。ハザードマップで洪水だけでなく、高潮、内水氾濫、土砂災害まで確認しておけば、自宅や職場にどんな弱点があるのかが見えてきます。避難所へ向かう道路が冠水した場合に備えて、別のルートを考えておくことも役立つでしょう。
企業も「建物が無事なら営業できる」とは限りません。停電や通信障害が長引けば業務は止まり、道路や鉄道が寸断されれば従業員は出勤できなくなります。自社に被害がなくても、物流センターや仕入れ先が被災すれば商品が届かなくなるケースもあります。BCPでは、浸水や停電だけでなく、出勤停止の判断、データのバックアップ、非常用電源、代替物流まで確認しておきたいところです。
気候変動によって台風が毎年増えていく、と考えるのは正確ではありません。ただ、強い台風の割合や降水量が増え、日本付近でも勢力の強い台風への警戒が高まっていることは、さまざまな研究から見えてきています。これまで大丈夫だったから、次も大丈夫とは限りません。過去最大の災害を「想定できる最大の災害」にしてしまわず、その少し先まで考えておく。台風が来てから慌てるのではなく、普段の生活や仕事の中で備えを更新していくことが、気候が変わりつつある日本の防災になっていくのではないでしょうか。
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