副業解禁から5年、「稼げた人」と「消耗した人」の分岐点

2018年、政府が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定し、企業に対して副業を原則容認するよう促したことで、日本社会は「副業元年」とも呼ばれる転換点を迎えました。それから5年が経過した今、副業に挑戦した人々の間には、くっきりとした明暗が生まれています。月に数万円の安定収入を手にした人がいる一方で、時間と体力だけを消耗して何も残らなかったという声も少なくありません。この差はいったいどこから生まれるのでしょうか。
パーソル総合研究所の調査によれば、副業をしている人のうち月収5万円以上を得ているのは全体の約15%にとどまり、半数以上が月1万円未満という結果が出ています。数字だけを見れば「副業で稼ぐのは難しい」という印象を受けますが、稼げている15%の人たちには、共通した行動パターンと思考の傾向があります。副業の成否を分けるのは、運や才能ではなく、最初に何を選び、どう設計したかにあると考えられます。
「時間を切り売りする副業」の限界
副業を始めた人が最初に選ぶのは、クラウドソーシングサービスでの単発案件や、フードデリバリーの配達員といった、手軽に始められる仕事です。確かに参入障壁は低く、登録翌日から収入を得ることも可能です。しかしこれらの仕事には、構造的な天井があります。稼ぎは働いた時間にほぼ比例するため、時間を増やさなければ収入は増えません。本業で疲弊した状態で週末に数時間だけ働いても、月に得られる金額はせいぜい1〜2万円が上限になりがちです。
クラウドワークスの調査では、登録ユーザーのうち月収10万円以上を達成しているのは全体の約3%という数字が公表されています。これは「続ければ誰でも稼げる」という期待と、現実との落差を示しています。消耗してやめていく人の多くは、この構造に気づかないまま時間を投入し続けた結果、収益よりも疲労が先に積み上がってしまったケースです。副業で消耗する人の共通点は、「手軽さ」を基準に仕事を選び、「時給いくら」という計算だけで損得を判断してしまう点にあるでしょう。
稼げた人が最初に決めていたこと
一方、副業で継続的に収入を得ている人たちは、始め方から異なります。彼らの多くは最初の段階で「自分が何を提供できるか」を本業のスキルと照らし合わせて整理し、そのうえで需要のある領域を選んでいます。たとえばIT系の企業に勤めるエンジニアがWebサイトの制作や改善を請け負う場合、既存のスキルをそのまま市場に出せるため、学習コストがほぼゼロです。会計事務所に勤める人が個人事業主向けに確定申告の相談を受ける場合も同様の構造です。
重要なのは、本業と副業のスキルセットが重なる部分に活路を見出した点です。スキルの転用ができる副業は、時間単価が高くなりやすく、かつ品質を安定させやすいという特性があります。ランサーズの独自調査では、専門スキルを活かした副業の平均時給は、単純作業系の副業と比較して3〜5倍程度の差が出ることが示されています。「何でもやります」という姿勢よりも、「この分野なら任せてください」と言い切れる専門性の提示が、単価と継続率の両方を高める要因になると考えられます。
「消耗しない仕組み」をどう作るか
副業で長く稼ぎ続けている人たちには、もう一つの共通点があります。それは、収入が時間の投入量に依存しない「ストック型」の収益源を、少なくとも一つ持っているという点です。ブログやYouTubeチャンネルへの広告収入、デジタルコンテンツの販売、セミナーの録画販売などがその代表例です。これらは初期に多くの時間を投じる必要がありますが、一度仕組みが稼働し始めると、追加の労働なしに収益が発生し続けます。
総務省の「就業構造基本調査」によれば、副業収入が月5万円を超える層のうち、何らかのオンラインコンテンツや情報商材で収益を得ている割合は約4割にのぼります。もちろんストック型の収益を作るまでには数ヶ月から1年以上の準備期間が必要であり、すぐに稼げるわけではありません。しかしそれを見越して計画を立てていた人は、3年後・5年後に「副業をやっていてよかった」と感じるケースが多く、継続率も高い傾向があります。消耗した人の多くが「やめた理由」として挙げるのは収益の低さではなく、「時間を取られすぎること」です。この点からも、仕組み化への意識が副業の明暗を分ける大きな要因といえるでしょう。
副業を「資産」にできるかどうかの分岐点
副業に取り組んだ5年間を振り返ったとき、それが「資産」になっているかどうかは、スキル・実績・人脈・コンテンツのどれかが手元に残っているかどうかで測ることができます。収入が少なかったとしても、副業を通じてフリーランスとしての実績を積み上げた人は、その後の独立や転職において有利な立場に立てます。ある意味で、副業の本当の価値は月々の収益額だけでは測れないとも言えます。
エン・ジャパンが実施した調査では、副業経験者のうち約38%が「副業で得たスキルや人脈が本業にも好影響を与えた」と回答しています。副業を「収入の補填手段」としてだけ捉えていた人よりも、「自分のキャリアに対する実験場」として活用していた人のほうが、長期的な満足度が高いという傾向も見えてきます。稼げた人と消耗した人の分岐点は、副業に何を求めるかという最初の設定にあり、その設計次第で5年後の景色はまったく異なるものになるでしょう。副業解禁から5年が経過した今こそ、「自分は何のために副業をするのか」という問いに向き合い直すタイミングかもしれません。
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