グローバル企業はなぜDEIで成果を出せるのか——日本企業との構造的な違い
DEI推進が「数合わせ」になってしまう企業と本質的な変革を遂げる企業の差
ダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(包摂性)——略してDEIという言葉を、ここ数年でよく耳にするようになりました。女性管理職の比率目標を掲げたり、外国籍の社員を積極的に採用したり、障害のある方の雇用を増やしたりと、大企業を中心にさまざまな施策が打たれています。ところが現場の声を聞くと、「数字の目標は達成したけれど、職場の雰囲気は何も変わっていない」という話が少なくありません。同じDEIへの取り組みでも、組織が本当に変わる会社と、表面だけで終わってしまう会社に分かれるのはなぜなのでしょうか。
経営コンサルティング会社マッキンゼーの調査では、経営陣の多様性が高い企業はそうでない企業に比べて収益性が35%高いという結果が出ています。多様性の高い組織のほうがビジネスとして強い、というのはデータが示す事実ですが、ここで見落とされがちな点があります。この収益格差が顕著に出るのは、多様な顔ぶれを揃えているだけでなく、一人ひとりが「ここで働いていてよかった」と感じられる環境が整っている企業に限られるという点です。人数を増やすだけでは、その人たちの力を引き出すことはできません。
「採用」で止まると、むしろ組織にダメージが出る
DEIの取り組みが形だけで終わってしまう会社に多いのが、採用のところで努力が止まってしまうパターンです。女性や外国籍の社員、障害のある方を一定数採用した時点で「やるべきことはやった」となり、入社後のフォローや職場環境の整備が後回しになる。人材コンサルティング大手デロイトの調査によると、「自分はここに居ていい」という感覚を持てない環境では、多様なバックグラウンドを持つ社員の約75%が入社2年以内に転職を検討するとされており、採用にかけたコストが回収できないまま人が去っていくこの状況は、「多様性のある職場」という看板を内側から傷つけていきます。
この問題の背景には、「代表性」と「帰属意識」を混同している組織文化があります。代表性というのはある属性の人が組織の中に存在しているという状態のことで、帰属意識は自分の意見を安心して言え、正当に評価され、成長できると感じられている状態を指します。前者だけを追いかける会社では、多様な人材が「招かれたけれど、歓迎はされていない」と感じやすく、エンゲージメントの低下を招きます。グーグルが社内研究で明らかにした「チームのパフォーマンスを最も左右する要因」も、スキルでも経験でもなく「心理的安全性」でした。自分の発言が否定されない、失敗しても責められないという安心感こそが、チームの力を引き出す土台になっています。
変革を実現している企業には、共通するやり方がある
DEIを本物の組織変革につなげている企業を見ると、いくつかの共通点が浮かび上がります。まず「なぜ多様性を高めるのか」という問いに対して、ビジネス上の明確な答えを持っています。社会的な責任だから、外からのプレッシャーがあるからではなく、「多様な視点があることで製品の開発が速くなる」「異なる文化を知る社員がいることで海外展開がスムーズになる」といった、経営戦略と地続きの理由があり、目的が曖昧なままでは施策は必ず形骸化するという認識が共有されています。中間管理職の巻き込み方にも大きな違いがあり、DEIがうまくいくかどうかは経営トップの掛け声より、日々の現場で部下の発言機会や評価を左右する直属の上司の行動にかかっています。IBMやユニリーバといったグローバル企業では、管理職の評価項目にチームの心理的安全性やインクルージョンの指標を組み込み、DEIへの貢献が昇進や報酬に直結する仕組みを導入することで、「DEIは人事部の仕事」から「マネージャー全員の仕事」へと転換しています。
定性的な情報を大切にしている点も、変革を実現している企業に共通する特徴です。離職率や昇進率といった数字だけでなく、日々の対話やアンケートから「どんな立場の社員が、どんな場面で声を上げにくいか」を丁寧に拾い上げ、施策の改善に活かしています。数字を眺めているだけでは見えてこない課題が現場の声の中にあるという認識が、施策の精度を着実に高めていきます。
日本企業がDEIを本物の変革につなげるために
日本の民間企業における女性管理職の割合は、2023年時点で12.7%です。政府が目標として掲げる30%とはまだ大きな開きがあり、各社が数字を引き上げようとすること自体は大切な取り組みですが、登用された女性管理職が「少数派として過度な期待を背負わされる」状況になってしまうと、ロールモデルとして機能する前に疲弊してしまいます。数字を動かすことと、その人が活躍できる環境を整えることはセットで考えなければならず、どちらかが欠けた状態では本質的な変化は生まれません。
本質的な変革のために経営者が最初に向き合うべきは、制度の設計より前のもっとシンプルな問いです。「会議で意見が通りやすいのは、どんな立場の人か」「昇進の基準は全員に対してフェアに開かれているか」「育児や介護をしながらでもキャリアを積める設計になっているか」——こうした問いに正直に答えようとするところから、DEIの本質的な変革は始まります。DEIとは異なる属性の人材を「加える」施策ではなく、これまで見えにくかった不公平な構造を「取り除く」プロセスです。その認識の転換こそが、数合わせで終わる企業と、多様性を本当の強みに変えられる企業を分ける、最も根本的な違いといえるでしょう。
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