更年期と病気を見分けるカギ——症状が長引く女性に知ってほしいこと

「最近、疲れやすくなった」「夜中に汗をかいて目が覚める」「気分が落ち込みやすい」——そうした不調を感じたとき、40代・50代の女性の多くは「もう更年期が始まったのかな」と自己判断してしまいます。確かに更年期は女性が必ず通る道であり、その症状は多岐にわたります。しかし、更年期症状と非常によく似た症状を引き起こす病気が複数あることは、あまり知られていません。日本産科婦人科学会によれば、更年期症状を訴えて婦人科を受診した女性のうち、一定数が実際には別の疾患を抱えていることが報告されており、早期発見の遅れが治療に影響するケースも少なくありません。「体の不調は更年期のせい」と片付ける前に、一度立ち止まって症状を見直す習慣を持つことが、女性の健康を守るうえで大切です。
更年期症状と紛らわしい代表的な病気
更年期と最も間違われやすい疾患のひとつが、甲状腺の病気です。代表的なものに橋本病(慢性甲状腺炎)とバセドウ病があり、いずれも女性に圧倒的に多い疾患です。橋本病は甲状腺機能が低下することで、疲労感・むくみ・気分の落ち込み・体重増加などを引き起こします。バセドウ病は逆に甲状腺が過剰に活動するため、動悸・発汗・イライラ・体重減少といった症状が現れます。どちらも更年期症状と見分けがつきにくく、日本甲状腺学会の調査では、甲状腺疾患患者の女性対男性比はおよそ5対1から10対1とされており、40〜50代の女性に特に多く見られます。血液検査でTSH(甲状腺刺激ホルモン)の値を調べるだけで診断の糸口がつかめるにもかかわらず、「更年期だから」と受診を後回しにして発見が遅れるケースが後を絶ちません。
もうひとつ見落とされやすいのが、うつ病と不安障害です。気分の落ち込み・意欲の低下・睡眠障害は更年期にも頻繁に起こる症状ですが、これらが実はうつ病のサインである可能性があります。厚生労働省の調査では、日本における生涯うつ病経験率は約6〜7%とされており、40〜50代の女性は特にホルモン変動の影響でうつ病を発症しやすい時期にあります。更年期によるホルモン補充療法(HRT)が効かない場合や、症状が2週間以上続く場合は、精神科・心療内科への受診が推奨されます。婦人科と精神科の両方にかかることへの心理的ハードルが高い方もいますが、適切な診断を受けることが回復への最短ルートといえるでしょう。
見逃されやすい3つの疾患——糖尿病・心疾患・自己免疫疾患
倦怠感や集中力の低下が続く場合、糖尿病のサインである可能性も考えておくべきです。日本糖尿病学会によれば、日本の糖尿病患者数は約1,000万人に上ると推計されており、40代以降の女性では閉経後に急速にリスクが高まることが知られています。閉経前はエストロゲンがインスリン感受性を保つ働きをしていますが、閉経後はその保護効果が失われ、血糖値が上昇しやすくなります。空腹時血糖やHbA1c(ヘモグロビンA1c)の検査は、健康診断でも測定できる一般的な項目ですが、「疲れやすいのは更年期だから」と自己判断していると、糖尿病の発見が数年単位で遅れることがあります。
心疾患の見落としも見過ごせません。女性の心筋梗塞や狭心症は、男性のような「胸を締め付けられる激痛」ではなく、倦怠感・息切れ・背中の痛み・吐き気といった非典型的な症状として現れやすいことが医学的に確認されています。日本循環器学会の報告でも、女性の急性心筋梗塞は男性と比べて症状が非典型的であるため診断が遅れやすく、死亡率が高くなるリスクが指摘されています。「動悸がするのは更年期のせい」と放置せず、症状が繰り返したり、労作時(階段を上るときなど)に強くなる場合は循環器科への受診を検討しましょう。
免疫系の異常によって引き起こされる自己免疫疾患——特に関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)——も、更年期症状と混同されやすい病気のひとつです。関節の痛みやこわばり、原因不明の発熱、極度の疲労感などが主な症状で、これらはいずれも更年期に起こりやすい症状と重複しています。関節リウマチの有病率は人口の約0.5〜1.0%とされ、女性は男性の約3倍かかりやすいとされています。早期に治療を開始することで関節破壊を抑えられる可能性が高まるため、症状が長引く場合はリウマチ科への受診を視野に入れることが大切です。
自己判断を避け、正しく受診するために
「忙しいから」「たぶん更年期だから」という理由で受診を先延ばしにすることは、結果として治療の選択肢を狭めることにつながります。特に更年期と紛らわしい疾患の多くは、血液検査・尿検査・画像検査などの比較的シンプルな検査で早期に発見できるものが多く、定期的な健康診断と積極的な受診が何よりの予防策です。日本では40歳以上の女性を対象に、市区町村が乳がん・子宮頸がん検診を費用の一部を助成する形で提供していますが、受診率は乳がんで約47%、子宮頸がんで約43%(2022年度・厚生労働省調査)にとどまっており、先進国の中でも低い水準です。
症状が「いつもと違う」と感じたら、まずかかりつけ医や婦人科を受診し、甲状腺ホルモン・血糖・血圧・貧血などを含む基本的な血液検査を依頼することをおすすめします。「更年期かどうか確認したい」と伝えるだけで、医師は鑑別診断(症状の原因を絞り込む診断プロセス)を進めてくれます。自分の体の変化を記録する「症状日記」をつけておくと、受診時に情報をスムーズに伝えられて診断の精度が上がりやすくなります。
40代・50代は、女性の体が大きく変化する時期であると同時に、多くの生活習慣病や慢性疾患が顔を出しやすい時期でもあります。「年齢のせい」「更年期のせい」という言葉で体の声を封じることなく、症状を正面から受け止めて専門家の判断を仰ぐことが、長く健やかに生きるための第一歩といえるでしょう。
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