年齢とともに睡眠時間が減るのは当たり前?医学データが示す適切な睡眠時間とは

「若いころは布団に入ればすぐ眠れたのに、最近は夜中に何度も目が覚めてしまう」「8時間は寝ないと体に悪いと思っているけど、どうしても6時間で目が覚めてしまう」――こんなふうに感じている40代・50代・60代の方、多いのではないでしょうか。でも実は、その「眠れない感覚」は病気でも睡眠障害でもないかもしれません。現代の睡眠医学は、その理由をはっきりとしたデータで示しています。
「8時間睡眠」に医学的な根拠はなかった
まず驚くべきことから話すと、長年「理想の睡眠は8時間」と言われてきたこの数字には、実は学問的な根拠がありませんでした。世界中で行われた睡眠研究を集めて分析したデータによると、健康な人の夜間睡眠時間は、15歳前後で8時間、25歳で7時間、45歳で6.5時間、65歳で6時間と、年を重ねるごとに自然と短くなっていくことがわかっています。25歳と65歳を比べると、必要な睡眠時間に1時間もの開きがあるわけです。
この調査は、5歳から102歳の健常者3,577人を対象に、脳波や眼球運動を一晩かけて計測する「終夜ポリグラフ」という精密な検査を使って行われたものです。その結果、総睡眠時間は年齢とともに着実に短くなり、就床してから実際に眠れている時間の割合(睡眠効率)も年齢とともに下がっていくことが確認されています。つまり「昔のように眠れない」という感覚は、体の衰えではなく、年齢に合わせた自然な変化だといえるでしょう。
眠りの「中身」が年齢とともに変わっていく
睡眠時間が短くなるだけでなく、眠りの中身そのものも変化します。睡眠には「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」があり、ノンレム睡眠はさらに深さによっていくつかの段階に分かれています。そのなかで最も深い眠りである「徐波睡眠(ステージ3・4)」は、成長ホルモンが分泌されて体を修復する、いわば眠りのゴールデンタイムです。ところがこの深い眠りの割合は、子どもの頃から老年期にかけてずっと減り続けていくことが分かっています。
そのぶん増えていくのは浅い眠りで、ちょっとした物音や尿意で目が覚めやすくなる原因はここにあります。さらに、加齢とともに体内時計のリズムが前倒しになる変化も起きます。血圧・体温・ホルモン分泌といった体の機能全体が早い時間帯に動くようになるため、60代以降の方が夜9時頃に眠くなり、朝4時には目が覚めてしまうのは、体内時計が生物学的に前にずれているからです。これ自体は異常なことではありません。18歳以降は10年ごとに必要な睡眠時間がおよそ10分ずつ短くなるとされており、45歳で6〜7時間、65歳で6時間というのが目安として示されています。
「とにかく長く寝ればよい」は間違い
眠れないことへの不安から、週末に寝だめしたり、無理に長くベッドで過ごしたりする人もいますが、実は過度な長時間睡眠も健康上のリスクになり得ます。国立がん研究センターが行った大規模な追跡調査では、7時間睡眠のグループと比べて、10時間以上眠るグループの死亡リスクは男性で1.8倍、女性で1.7倍に上ることが示されました。循環器疾患(心臓や血管の病気)による死亡については、男性では9時間以上で既にリスクが高まる傾向が見られています。
別の研究でも、常に9時間以上眠るパターンを続けると、死亡リスクが27%高まることが報告されています。この結果は、年齢・性別・喫煙・飲酒・運動量・BMI・うつ症状といったさまざまな条件を考慮した上でも変わらなかったとのことです。長時間眠ることで体内時計のリズムが乱れ、活動量が落ちることが関係していると見られており、睡眠は「できるだけ長く取ればいい」というものではなく、年齢に見合った時間をきちんと取ることが大切です。
今の自分の体に合った眠り方を探す
では、中高年が睡眠の質を保つために何ができるでしょうか。まず大切なのは「以前より眠れなくなったこと=病気」と決めつけないことです。日中に強い眠気がなく、午前中から仕事や家事にしっかり集中できているなら、6〜6.5時間の睡眠でも体は十分に機能していると考えられます。
ただ、気をつけたいのは、加齢による自然な変化に加えて、仕事や生活習慣による睡眠不足が重なるケースです。経済協力開発機構(OECD)が2021年に発表した調査では、日本の平均睡眠時間は加盟33カ国のなかで最短の7時間22分で、全体の平均である8時間28分を1時間以上も下回っていました。年齢とともに必要な睡眠時間が減るのは自然なことですが、もともと短い睡眠がさらに削られると、慢性的な疲労やパフォーマンスの低下につながります。
眠りの量が変わっても質を落とさないためには、毎日できるだけ同じ時間に寝て起きること、寝る前のカフェインや強い光の刺激を控えること、寝室の温度を夏は25〜26℃・冬は22〜23℃、湿度を50〜60%程度に整えることが有効とされています。「昔のように眠れない」という感覚は、多くの場合、体が正直に年齢に適応しているサインです。その変化を正しく知った上で、今の自分に合った睡眠を整えていくことが、長期的な健康につながるでしょう。
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