日本の再エネ政策が直面する制度改革の必要性とは何か
電気代が上がる国で再エネが使われないという不思議な現実
電気料金の上昇が続くなか、多くの家庭や企業がエネルギーコストの負担増を実感しています。燃料価格の高騰や円安の影響が語られる機会は少なくありませんが、その一方で国内では再生可能エネルギーによって発電された電気が十分に活用されず、発電そのものを止められるケースが発生しています。
この話を聞くと、多くの人が矛盾を感じるのではないでしょうか。電気が足りないのであれば、発電した電気はできる限り使われるはずです。しかし現実には、晴天の日に太陽光発電が生み出した電力が送電されないまま抑制されることがあります。
九州地方では太陽光発電の導入が大きく進んだ結果、出力制御が恒常的に行われる状況が生まれています。せっかく発電した電気を使わずに止めるという現象だけを見ると、再生可能エネルギーそのものに問題があるように感じる人もいるかもしれません。
しかし、実態は少し異なります。資源エネルギー庁によると、日本の太陽光発電設備容量は約90GWに達しており、世界的に見ても高い水準にあります。発電設備そのものが不足しているわけではなく、再エネを生み出す技術も十分に実用段階へ到達していると考えられます。
それにもかかわらず再エネの活用が進みにくい背景には、発電技術とは別の場所に課題が存在しています。現在の日本で問われているのは「どう発電するか」よりも、「発電した電気をどう使うか」という仕組みではないでしょうか。
発電能力よりも送電網の仕組みが時代に追いついていない
再生可能エネルギーの議論では、太陽光パネルや風力発電設備の性能に注目が集まりがちです。しかし、どれほど効率的に発電できたとしても、その電気を必要な場所へ届けられなければ十分な価値を発揮できません。
日本では再エネに適した地域と大量の電力を消費する地域が大きく離れています。北海道や東北には豊富な風力資源があり、九州では太陽光発電設備の導入が進んでいます。一方で、最も多くの電力を消費しているのは首都圏や関西圏です。本来であれば、余った電気を全国へ柔軟に送ることができれば再エネの活用は大きく進むはずです。しかし日本の送電網は、そのような時代を前提として整備されてきたわけではありません。
戦後の日本では地域ごとの電力会社が供給を担ってきたため、電力網も地域単位で発展してきました。その結果、地域間を結ぶ送電能力には一定の制約があります。北海道で発電した電気を東京へ大量に送りたい場合でも、送電網の容量が不足していれば思うように流せません。
東日本が50Hz、西日本が60Hzという周波数の違いを抱えていることも特徴の一つです。周波数変換設備を通じて電力を融通することは可能ですが、その能力には限界があります。
こうした状況を見ると、日本の再エネ問題は発電設備の不足というよりも、電気を運ぶインフラの設計が時代の変化に追いついていないことが大きな要因だと考えられます。発電所を増やすことだけでは解決できない課題が存在しているという見方もできるでしょう。
普及を妨げているのは送電線不足より制度の古さ
再エネ普及の課題として送電線不足が語られることは多いものの、本質的な問題はそれだけではありません。むしろ、送電網をどのように使うかという制度設計の影響が大きいと指摘されています。
日本では長年にわたり、送電線の利用枠を先着順で確保する仕組みが採用されてきました。先に申請した事業者が容量を押さえるため、新しく参入する再エネ事業者が接続しにくい状況が生まれています。
問題なのは、確保された容量が常に使われているわけではないことです。実際には利用されていない時間帯が存在していても、新しい事業者がその余力を活用できないケースがあります。高速道路に例えるなら、空いている車線があるにもかかわらず、「予約済み」という理由だけで利用できない状態に近いかもしれません。これでは社会全体として効率的な運用とは言い難いでしょう。
欧州では実際の利用状況に応じて送電線を柔軟に運用する仕組みが広がっています。日本でもノンファーム型接続の導入が進められていますが、本格的な普及には一定の時間がかかると思われます。
送電網への投資についても課題があります。新しい送電線の建設や既存設備の増強には巨額の費用が必要になりますが、その負担を誰が担うのかという議論は簡単ではありません。社会全体で見れば大きなメリットが期待される一方で、費用負担のルールが明確でなければ投資は進みにくいと考えられます。
その結果、日本では技術が存在していても、それを十分に活用するための制度や運用ルールが整いきっていない状況が続いているといえるかもしれません。
求められているのは発電競争ではなく制度改革
再生可能エネルギーの未来を語る際、多くの人は高性能な太陽光パネルや大型蓄電池などの技術革新を思い浮かべます。もちろん技術開発は重要ですが、現在の日本が直面している課題を見る限り、それだけで問題が解決するとは考えにくいでしょう。
発電設備を増やしても、その電気を運ぶ仕組みや共有するルールが整備されていなければ効果は限定的になります。送電網の強化、地域間連系線の拡充、接続制度の見直し、蓄電池を活用しやすい市場設計など、多方面からの制度改革が求められており、今後の進展が期待されます。
ドイツやスペインなど再エネ導入が進む国々では、発電設備への投資だけでなく送電網や市場制度の整備も並行して進められています。国際エネルギー機関(IEA)も、脱炭素社会の実現には送電網への投資が不可欠であるとの見解を示しています。
日本の再エネ問題を単純に技術不足として捉えてしまうと、本質を見誤る可能性があります。現在の日本では、電気を作る能力そのものよりも、作られた電気をどのように流し、どのように共有し、どのように最大限活用するかが問われている段階に入ったといえます。
発電技術の進歩ばかりに目が向きがちですが、本当に向き合うべき課題は電気の作り方ではなく、その電気を社会全体で活かす仕組みにあるのではないでしょうか。再生可能エネルギーを増やすことだけを目的にするのではなく、すでに生み出されている電気を無駄なく使える環境を整えることこそが、これからのエネルギー政策に求められる視点だと考えられます。
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