テレワーク時代に急増したゲーミングチェア需要、腰痛対策としての実力は
腰痛大国・日本とデスクワーカーの現実
「最近、腰が重いな」と感じながら仕事をしている方は、実はとても多いです。厚生労働省の調査では、日本で腰痛を自覚している人は約3,000万人にのぼるとされており、もはや国民病といっても過言ではない状況です。特にパソコンの前で一日中過ごすデスクワーカーや、長時間ゲームをするプレイヤーにとって、「どの椅子に座るか」は腰の健康を大きく左右します。
そんな背景もあって、ゲーミングチェアを「腰痛対策グッズ」として選ぶ人が増えてきました。もともとはeスポーツ選手や熱心なゲーマー向けに作られた椅子ですが、テレワークの普及とともに一般のビジネスパーソンにも広まり、今では家電量販店でも当たり前のように並んでいます。矢野経済研究所の推計によると、ゲーミングデバイス全体の国内市場は2022年時点で約1,600億円規模。椅子はそのなかでも需要が安定しているジャンルで、2万円台の入門モデルから15万円を超えるハイエンドまで選択肢はさまざまです。ただ、「高い椅子を買えば腰痛が治る」と思って購入すると、期待と現実のギャップに驚くこともあります。
ゲーミングチェアと普通の椅子、何が違うのか
ゲーミングチェアを横から見ると、背もたれが体を包み込むような形をしていることに気づきます。これは「バケットシート」と呼ばれる形状で、レーシングカーの座席をヒントに設計されたものです。体の左右をしっかり支えてくれるので、長時間座っていても姿勢が崩れにくい構造になっています。フラットな座面が多い一般的なオフィスチェアと比べると、この違いはかなり大きいといえるでしょう。
腰への直接的なケアという点では、ゲーミングチェアには「ランバーサポート」と「ヘッドレスト」がほぼ必ず付いています。ランバーサポートとは、腰の後ろにあてるクッションのことで、背骨が自然なS字カーブを描けるよう支えてくれます。人間の背骨は横から見るとゆるやかなS字型になっていて、このカーブが崩れると椎間板に余計な負担がかかり、腰痛につながりやすくなります。日本整形外科学会でも「正しい姿勢の維持が腰痛予防に有効」と示されており、ランバーサポートはその点で理にかなった機能です。
リクライニングの角度についても、ゲーミングチェアは135度から180度まで倒せるモデルが多く、この点も腰への負担軽減に関係しています。カナダの研究者・ナキムソン博士らが行った研究では、背もたれを約135度に傾けた姿勢が、直角に座るよりも椎間板への圧力が低いことが示されています。「少し後ろに傾いて座ったほうが腰が楽」という感覚は、実はちゃんとした根拠があるわけです。
「腰痛に効く」と言い切れない、正直な話
ここまで読むと、ゲーミングチェアを買えば腰痛が解決するように思えてきますが、そう単純でもありません。よく聞くのが「買ったのに全然変わらなかった」という声で、その原因のひとつが「椅子と体のサイズが合っていない」問題です。ゲーミングチェアはもともと欧米人の体格を基準に作られたものが多く、座面の奥行きや高さが日本人の体型に合わないケースが珍しくありません。サイズが合わない椅子は、いくらサポート機能が充実していても意味をなさず、むしろ姿勢を悪化させることもあります。
ランバーサポートの位置がずれていれば、支えたい腰椎ではなく別の部位に圧がかかります。ヘッドレストの高さが合わなければ、首が前に出た「スマホ首」のような状態になりかねません。購入後にきちんと調整することが重要なのですが、そこを面倒くさがってしまう方も多く、結果的に「高い椅子を買ったのに効果がない」という結論になってしまいがちです。
椅子がどれだけ優れていても、同じ姿勢を長時間キープすることそのものが腰痛の原因になる、という点も知っておく必要があります。WHO(世界保健機関)は「座りっぱなし」の健康リスクについて明確に警告しており、1日8時間以上の座位行動は心臓病や筋骨格系の障害リスクを高めると複数の研究が示しています。30分から1時間に一度は立ち上がり、軽く体を動かす習慣を取り入れることで、ゲーミングチェアの効果もより引き出せるでしょう。
自分に合った椅子の選び方と、腰痛との向き合い方
腰痛対策として椅子を選ぶとき、スペックや見た目より大切なのが「自分の体に合うかどうか」です。可能であれば店頭で実際に座ってみて、足の裏が床にしっかりつくか、ランバーサポートが腰のくびれにちょうど当たるかを確認しましょう。身長が160cm前後だったり、細身の体型だったりする方は、日本人向けに設計されたモデルや、小柄な体型対応をうたっているモデルを選ぶと失敗しにくいでしょう。
国内外のブランドとしては、DXRacer・AKRacing・Secretlabなどが人気を集めており、それぞれ座面の幅や調整機能の細かさが異なります。Secretlabが2021年に実施した自社調査では、ユーザーの約78%が「長時間使用後の腰への負担が減った」と回答しているものの、これはメーカーが自ら行った調査である点は踏まえておくのが良いでしょう。
大前提として、ゲーミングチェアは「腰痛を治す器具」ではなく、「正しい姿勢を保ちやすくするサポートツール」です。椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症など、病気が原因の腰痛であれば、まず整形外科を受診することが先決です。一方、姿勢の悪さや筋力の低下が引き金になっているタイプの腰痛は、全腰痛のおよそ85%を占めるとされており、こうしたケースでは椅子の見直しと適度な運動の組み合わせが、日々の腰の負担を着実に減らしてくれると考えられます。毎日何時間も座り続ける環境にいるなら、椅子選びは体への大切な投資のひとつといえるでしょう。
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