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在留資格の審査厳格化は本当に「必要な政策」なのか――廃業検討5%というデータから政策効果を検証する

厳格化の背景と、その具体的な中身

2025年10月、外国人が日本でビジネスをするために必要な「経営・管理」という在留資格の取得条件が、大幅に変わりました。なかでも目を引くのが、資本金の要件です。これまで500万円以上あれば申請できたところ、一気に3,000万円以上へと引き上げられました。金額にして6倍という変更は、制度の歴史のなかでも異例の水準といえるでしょう。

それだけではありません。申請者または常勤職員の少なくとも1人が日本語能力を持つこと、常勤の従業員を1人以上雇用すること、自宅と事務所を兼用にすることは認めないこと、税金の支払い状況も確認対象になること――これらがすべて、新しい要件として加わりました。

この改正が打ち出された理由は、ペーパーカンパニーなど実態のない会社を使って日本に在留する外国人が増えている疑いがあるためです。不正を防ぎたいという目的自体に反対する人は少ないでしょう。問題は、その「手段」が本当に適切かどうかという点にあります。

ひとつの数字を見てみましょう。2024年に日本国内で新しく設立された法人は14万3,367社ありましたが、そのうち資本金3,000万円以上だったのは1,491社、全体の1.0%にすぎません。一方、資本金1,000万円未満は13万6,624社と、全体の95.2%を占めています。要するに、今回の要件を日本人が起業する場合に当てはめると、99%近くが最初から対象外になってしまう水準です。「不正対策」のために設けられた基準が、正規の外国人経営者にとっても高すぎるハードルになっていないか、という疑問はここから生まれます。

 
「廃業を検討」5.3%が意味するもの

東京商工リサーチが2026年春に外国人経営者299社を対象に行ったアンケート調査では、45.2%の企業が「何らかの影響を受ける」と回答しています。そして廃業を検討すると答えた企業は5.3%にのぼりました。

「5.3%か、思ったより少ない」と感じる方もいるかもしれません。しかし、5社に1社が影響を受け、20社に1社が廃業を考えているという現実を、軽く流すことはできないでしょう。廃業はその会社だけの問題では終わりません。そこで働いていた従業員の仕事、取引先との関係、地域の商いへの影響にも連鎖していきます。

すでに在留資格を持っている経営者については、3年後の更新時に新しい基準を満たしていなくても「今後満たせる見込み」があれば考慮されるとされています。ただ、数年以内に資本金を3,000万円まで積み上げることが、多くの小規模な外国人経営者にとって現実的かというと、かなり難しいのが実情でしょう。

状況をさらに複雑にしているのが、倒産件数のデータです。外国人経営者が多い「その他の専門料理店」(カレー店など)の2025年度の倒産件数は91件と、過去30年で最多を記録しました。物価高や人手不足でただでさえ経営が苦しくなっているところに、新たな制度的ハードルが重なる構図は、業種全体にとって相当な重荷です。コロナ禍の借り入れで膨らんだ負債を抱えたまま更新期を迎える企業にとっては、廃業よりも先に倒産という結末が待っている可能性もあります。

 
世界は人材獲得を競っている、日本は?

在留資格の厳格化を「不正対策として当然」と評価する声がある一方で、少し視野を広げると別の懸念が見えてきます。2025年6月末時点で、日本に住む外国人は約396万人、外国人労働者は約230万人とどちらも過去最高を更新しています。外国人労働者の数は2024年の1年間だけで25万3,912人増え、これもデータ取得開始以来最大の増加幅です。日本の産業は、すでに外国人の力なしには回らなくなっています。

ところが国際的に見た場合、日本の「外国人に選ばれる魅力」は決して高くありません。OECDの「Talent Attractiveness 2023」では、高度な技能を持つ労働者や外国人起業家から見た日本の魅力度は国際比較で低位にあり、G7のなかでの賃金水準も最下位です。世界各国が優秀な外国人人材を取り合っているなかで、起業のハードルを引き上げることは、「日本で会社を立ち上げよう」という意欲をさらに遠ざける方向に働きかねません。

 
バランスある制度設計に向けて

不正在留を防ぐという政策の目的は、正当です。しかし政策の「正しさ」は目的だけでは決まらず、手段が目的に見合っているかどうかも問われます。資本金要件を6倍にすることは確かにペーパーカンパニーを弾く力を持ちますが、同時に真剣に事業を展開しようとしている外国人経営者を傷つける力も持っています。

不正を排除するアプローチは、ひとつではありません。事業の実態を丁寧に確認する審査や、税務申告の適正チェックを強化するといった方法を組み合わせれば、正直に経営している人への影響を抑えながら不正を絞り込むことも、制度設計の選択肢として十分に考えられます。

廃業を検討している外国人経営者が5.3%存在するというデータは、この政策がもたらす副作用の一端です。グローバルな人材獲得競争が続くなか、日本が外国人の力を経済の担い手として位置づけていくのであれば、「厳しくすること」と「開かれていること」をどう両立させるかという問いは、入管行政の話にとどまらず、この国の経済戦略そのものに関わる議論といえるでしょう。

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