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韓国エンタメが世界を席巻した構造:日本が学べることと学べないこと

危機から始まった「文化を国の産業にする」という決断

韓国エンタメがここまで世界に広まった背景には、音楽や映像の質だけでは説明できない「仕組み」があります。その出発点は、1997年のアジア通貨危機です。IMFに緊急支援を求めるほどの経済的な打撃を受けた韓国は、製造業や重工業に頼りきった産業構造の危うさを痛感しました。そこで金大中大統領が打ち出したのが「文化大統領」宣言、つまり文化コンテンツを国の稼ぎ頭として本気で育てていくという宣言でした。

この方針は歴代の政権が引き継ぎ、20年以上にわたって国家予算の約1%をコンテンツ関連に投じ続けてきました。韓国の文化体育観光部(日本でいえば文化庁・観光庁・スポーツ庁を一つにまとめたような省庁)の2023年度予算は約7590億円。そのうちコンテンツ産業向けの政策金融は計1兆7700億ウォンに上り、2024年度は前年の2倍以上に拡大しています。2026年度にはさらに前年比10%増の約7兆8000億ウォンが組まれ、「Kカルチャー300兆ウォン時代」という目標が掲げられています。

日本の場合、文化庁の2024年度予算は1062億円。2003年に1000億円の大台を超えてから、20年以上ほぼ動いていません。しかもこのうち4割以上は文化財の保存・修復に充てられているので、コンテンツ産業への支援はさらに限られます。政府予算に占める文化支出の割合は韓国が1.24%、日本は0.1%程度で、調査対象の先進国の中でも日本は最下位水準です。「お金があれば良いコンテンツができる」わけではありませんが、国が文化を産業として育てる気があるかどうか、その姿勢の差は数字にはっきり出ています。

 

世界に届いた理由は「普遍性」にあった

国策という土台があっても、コンテンツそのものが面白くなければ誰にも見てもらえません。韓国エンタメが国境を越えて受け入れられた理由を一言で言うなら「誰でも共感できるテーマを選んだこと」でしょう。

映画「パラサイト 半地下の家族」を例に取ると、作品の核にあるのは格差と家族という、世界中の人が肌感覚で理解できるテーマです。2019年のカンヌ映画祭でパルムドールを受賞し、翌年には非英語圏の作品として史上初めてアカデミー賞作品賞を獲りました。監督のポン・ジュノ自身が「韓国特有の話ではなく、どこにでもある話をしたかった」と語っているように、普遍性を意図的に設計しています。

K-POPも同様の発想で作られており、BTSは2018年にアジア圏のアーティストとして初めて米ビルボードのアルバム部門で全米1位を獲得しましたが、その拡がり方の鍵は「言葉がわからなくても楽しめる構造」にあります。ダンス・映像・SNSを組み合わせて感情を先に届け、ファンダムをコミュニティとして育てる仕組みが功を奏しました。韓国エンタメ大手4社(HYBE・SM・YG・JYP)の売上合計は2018年の約1兆ウォンから2023年には約4兆ウォンへと、わずか5年で4倍に膨らんでいます。

また、韓国コンテンツ振興院(KOCCA)という専門機関が制作から輸出まで一貫してサポートし、海外ビジネスセンターを世界各地に展開していることが制度的な後押しになっています。2022年のコンテンツ輸出額は前年比6.3%増の約1兆9200億円で過去最高を更新。これは韓国の主要輸出品である電気自動車や家電をも上回る規模で、コンテンツがいかに国の稼ぎ頭になっているかがわかります。

 

日本が今から学べること

「じゃあ日本はどうなのか」という話をする前に、日本の強みを整理しておく必要があります。ポケモン・マリオ・ハローキティなど日本発のキャラクターIPは、世界のメディアフランチャイズ累積収益ランキングの上位17位のうち約半数を占めており、コンテンツ資産の厚みは世界トップクラスです。映像コンテンツの海外収入も約9.7億ドルに達しています。

ただ、その8割はアニメが稼いでいます。実写ドラマや音楽などの海外展開はまだ限られており、世界市場では「日本=アニメ」という受け取られ方が主流です。韓国から学べる最も大きな点は「コンテンツを守るものではなく、輸出するもの」として扱う発想の転換でしょう。日本の音楽市場のストリーミング比率はまだ35%程度で、北米の80%以上と比べるとデジタル対応の遅れは明らかです。TikTokやYouTubeを通じた海外への発信ルートを本格的に整えることは、今すぐ動き始められる現実的な一手です。

 

日本に「そのままコピー」はできない理由

ここで正直に言っておくべきことがあります。韓国のモデルを日本がそのまま真似することには、構造的な難しさがあります。最も根本的な違いは「国の規模」です。人口約5100万人の韓国は、国内市場だけではビジネスが成立しにくいため、最初から海外を主戦場として設計してきました。一方、日本は1億2000万人の国内市場があるため、国内で完結するビジネスが成り立ってしまいます。これは強みでもありますが、海外展開への緊迫感が生まれにくい要因でもあります。

K-POPのトレーニング制度やアイドルの契約環境については、効率的なシステムである一方で、当事者への負担が大きいという指摘もあります。持続可能性という視点では、手放しに称賛できない側面もあります。2024年にはフィジカルアルバムの販売量がマイナス成長に転じ、エンタメ大手4社の株価は同年に約33%下落するなど、成長が一本調子でないことも事実です。

2024年の国内ライブ市場のデータを見ると、K-POPアーティストによる公演は公演数全体の2.4%にすぎないにもかかわらず、市場規模では13.8%(約844億円)を占めています。日本市場でのK-POPの影響力はすでに無視できない水準ですが、これは日本が「作る側」ではなく「受け取る側」として機能しているという現実も示しています。

韓国が成し遂げたことは、経済危機という外圧と、それに応えた政策的決断と、20年以上にわたる一貫した投資が重なって生まれたものです。同じ文脈を再現することは難しいでしょう。それでも、日本が持つIPの厚みと、韓国が示した「海外に届ける設計」の思想を組み合わせることができれば、日本らしいかたちで世界市場に届く可能性は十分にあると考えられます。今必要なのは、コンテンツを産業として本気で扱うという意志と、それを支える制度の見直しかもしれません。

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