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廃棄物が利益になる時代:サーキュラーエコノミーを本業にした企業の収益構造とは

「捨てること」が前提だった産業の限界

ものをつくって、売って、捨てる。私たちが長年当たり前のように受け入れてきたこの流れは、産業革命以降ずっと世界経済の骨格を支えてきました。企業は大量に製品を生産し、消費者はそれを購入し、不要になれば手放す。シンプルでわかりやすいこのサイクルは、確かに経済を豊かにしてきた半面、膨大な廃棄物と資源の浪費を生み出し続けてきた構造でもあります。
このやり方が、今まさに限界を迎えています。世界の人口は2050年までに約100億人に達すると予測されており、経済規模は現在の約4倍に拡大する見通しです。そのペースで資源を使い続ければどうなるか——現在の消費スピードはすでに、自然が資源を再生する速度の約1.75倍を超えています。つまり、地球は私たちの消費に追いつけていない状態がずっと続いているのです。

こうした現状への処方箋として世界が注目しているのが、サーキュラーエコノミー(循環経済)という考え方です。2012年にエレン・マッカーサー財団が提唱したこのモデルは、廃棄物を出さない設計、素材と製品を循環させる仕組み、自然を再生する活動という3つの柱で成り立っています。よく混同されるリサイクル(3R)との違いは、「廃棄物」という概念そのものを最初からなくす点にあります。捨てることを前提にしない設計思想が、産業の根っこから変わっていく——そのインパクトは、環境問題にとどまらず、企業の稼ぎ方にも直結しています。
日本でも、政府は2030年までに国内の循環経済関連ビジネスの市場規模を現在の約50兆円から80兆円以上に引き上げる目標を掲げています。世界全体では、アクセンチュアの試算で2030年に約670兆円、2050年には約3,000兆円規模に達するとされており、もはや環境活動の文脈を超え、次世代の主要産業として各国が競うテーマになっています。

 

売り切りをやめたとき、収益はどう変わるか

ここで多くの人が疑問に思うのは、「捨てさせないビジネスって、そもそも儲かるの?」という点ではないでしょうか。製品を長く使ってもらえば買い替えが減る。それはメーカーにとって損ではないか、という直感は自然です。ところが実際には、この発想を逆手に取ることで、従来より安定した収益を生み出している企業が出てきています。

オランダの電機・ヘルスケア大手フィリップスは、その代表例として世界中で紹介されています。同社はかつて、照明器具を「販売」することで利益を得ていました。しかし今は「Lighting as a Service(照明のサービス化)」というモデルに転換し、顧客は電球を買うのではなく、月額料金を払って「明かり」を利用する仕組みになっています。照明器具の所有権はフィリップスが持ち続けるため、製品の寿命が来れば同社が回収し、部品を再利用したり新製品に転換したりできます。廃棄コストが発生せず、素材の再調達費用も抑えられ、さらに製品を最初から分解・再利用しやすく設計するインセンティブが自然に生まれます。

これを可能にしているのは、ビジネスの基本設計が「売り切り」から「継続的な関係」に変わったことです。顧客が照明の使用量に応じて支払い続けるため、収益は一度きりではなく、毎月積み上がっていきます。企業側は製品を手元に残し続けることで、素材を何度でも活用できる。消費者側は設備投資なしに最新の照明環境を使える。双方にとってメリットがある構図が成立しており、環境負荷の低減はその副産物として自然についてくる、という設計になっています。

アクセンチュアはこうした収益モデルを「サービスとしての製品(Product as a Service)」と定義し、循環型ビジネスの5分類のひとつに位置づけています。残る4つは再生可能原料を使った循環型サプライチェーン、廃棄予定品の回収とリサイクル、修理・再販による製品寿命の延長、シェアリングプラットフォームによる収益化です。いずれも共通しているのは、かつて「コスト」や「損失」として処理されていたものを、収益の源泉として再定義している点です。

 

「廃車」を価値の源泉に変えたルノーの戦略

製品をサービスとして提供するだけが、循環型収益の形ではありません。使い終わった製品を受け取り、それを分解・再生・再販するプロセス自体を主軸の事業にする、という方向性もあります。

フランスの自動車メーカー、ルノーは2021年、パリ郊外のフラン工場を「Re-FACTORY(リファクトリー)」として循環経済専門の産業拠点に転換するプロジェクトを動かし始めました。走行不能になった中古車の解体、エンジンや変速機の再製造、使用済み電池の再利用、回収材料の再生——これら4つの事業を互いに連携させ、廃棄物として処分していたものを社内を循環する「原材料」として機能させる設計です。解体ラインで取り外した部品は再製造センターへ送られ、使用済み電池は別用途向けに調整されて出荷される。まるで工場全体がひとつの生態系のように動いています。

この仕組みがおもしろいのは、環境目標と収益目標が同じ方向を向いていることです。再製造された自動車部品は、新品と比べて製造時のエネルギー消費量が大幅に少なく、コストを抑えながらも適切な利益を確保しやすいとされています。使用済み自動車が主な「原料」になることで、鉄鋼や希少金属などの一次資源への依存度が下がり、素材価格の乱高下に左右されにくい収益体質に変わります。新車生産と再製造を並列で走らせることは、景気の波への耐性という意味でも、純粋な製造業より有利に働くとみられています。

 

消費と産業の構造が変わるとき

企業単位の取り組みを超えて、サーキュラーエコノミーが社会全体に広がると、消費と産業の構造そのものが変わっていきます。消費者が製品を「所有する」ことより「使う体験」に価値を置くようになれば、企業にとって「とにかく売る」という戦略は最善ではなくなります。長く使える設計、寿命が来た後も価値を引き出せる仕組みを整えた企業ほど、長期的な収益を得やすくなるからです。これは、短命な製品を大量に生み出すことで成長してきた従来の消費財産業とは、競争のルールそのものが違う世界です。

産業の「静脈側」、つまりリサイクルや解体・再生を担ってきた企業にも、この変化は新しい可能性をもたらしています。かつて「廃棄物処理のコスト」として計上されてきた工程が、素材や部品の調達源として経済的な価値を持ち始めているからです。ものの流れが一方通行から循環に変わると、価値が生まれる場所も変わります。廃棄物をゼロに近づけるほど利益が増える企業が現実に登場していることは、従来の産業経済学が想定していた世界とは、かなり違う景色です。

2024年に改定された「第五次循環型社会形成推進基本計画」では、循環経済が「国家戦略」として明確に位置づけられました。企業が「環境への取り組み」として対応するフェーズは実質的に終わり、収益構造の中核として設計し直す段階に入っています。「廃棄物をなくすことで、どこに稼ぎの余地が生まれるか」という問いを自社のビジネスに照らし合わせることは、これからの時代における経営の出発点のひとつになっていくでしょう。

カテゴリ
社会

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