一括から個別へ——ジョブ型採用と新卒採用が共存する時代の採用戦略とは

「4月に一斉入社」という当たり前が、揺らいでいる

3月末になると就活が本格化して、4月1日には全国の新入社員が一斉に入社式を迎える。長い間、それが日本の春の当たり前の景色でした。ところがここ数年、その景色を根本から変えようとする動きが、大手企業の間で広がっています。

2025年、富士通が「2026年度から新卒一括採用をやめる」と発表して話題になりました。新卒・中途という区分けをなくし、職種ごとに必要なスキルを持つ人材をタイミングを問わず採用する「ジョブ型採用」に完全移行するというのです。富士通はもともと2019年から幹部社員を対象にジョブ型を段階的に取り入れていましたが、新卒採用だけがずっと旧来のやり方のまま残っていました。今回の決断はその「最後のひずみ」を解消するためのもので、採用と人事評価の考え方をようやく一本化した形といえます。

こうした動きは富士通だけではありません。日立製作所も2024年度中にジョブ型雇用への完全移行を打ち出し、日本IBMは2021年からスキル次第では新卒でも年収800万円超の待遇で採用しています。NTTグループでもジョブ型採用の推進が進み、星野リゾートは2024年10月から大学1・2年生でも参加できる通年採用を始めました。HR総研の調査(2024年)によると、従業員1,001名以上の大企業の約49%がジョブ型採用を「導入済みまたは導入予定」と答えており、大企業では事実上2社に1社がこの流れに動いています。

 

企業が「即戦力」を求めるようになった、これだけの理由

なぜ今、多くの企業がジョブ型採用に向かっているのでしょうか。背景の一つは、デジタル人材の取り合いです。AIエンジニアやデータサイエンティストは、年齢や社歴と関係なく「市場価値」で動く人材です。4月入社という縛りを守っていては、欲しいタイミングで欲しい人が採れません。給与水準が合わなければ、あっさり他社に取られてしまうこともあります。

JAC Researchが2025年に実施した調査では、ジョブ型雇用を導入した、あるいは検討している理由として「戦略的に人材を採用したいから」(44.4%)、「専門力やスキルを高めたいから」(43.4%)が上位に並んでいます。採用を単なる「人員補充」ではなく、経営戦略の一部として捉え直す企業が増えているということでしょう。

もう一つ見逃せないのが、早期離職の問題です。厚生労働省のデータによると、大卒の新入社員が3年以内に辞める割合は約30%で推移しており、「3年で3割」という数字は長年変わっていません。従来の一括採用では職種や配属先が入社後に決まるため、「思っていた仕事と違った」というミスマッチが起きやすい構造があります。ジョブ型採用は最初から仕事内容を明示するので、そのすれ違いを減らせるわけです。学情の調査では、2024年卒の学生の約70%がジョブ型採用に「興味がある」と回答しており、「どんな仕事をするか最初から分かる」点を評価する声が約58%を占めていました。企業だけでなく、就活生の側にも変化の波が来ています。

 

それでも「4月入社」がなくならない、シンプルな理由

とはいえ、新卒一括採用がすぐになくなるかといえば、話はそう簡単ではありません。ジョブ型採用は今のところ大企業が中心で、JAC Researchの調査では従業員100人未満の中小企業の導入率は11%にとどまります。中小企業の半数以上が「導入する予定はない」と答えており、企業の規模や業種によって採用の現実はずいぶん違います。

総合商社や鉄道、電力といったインフラ企業では、2024年時点でも完全な通年採用には移行しておらず、秋採用や複数の選考タームを設ける程度にとどまっています。これらの企業では、総合職として異なる部署を経験しながらキャリアを積むモデルが根強く残っており、入社前に職種を固定するジョブ型とはそもそも相性がよくないという事情があります。

働く側にも不安の声はあります。JAC Researchの調査では、ジョブ型雇用の普及に反対する従業員の理由として「正しく評価してもらえるか分からない」(27.1%)、「キャリアの方向を変えにくくなる」(23.5%)が挙がっています。従業員全体でみると、ジョブ型普及への賛成が52.8%、反対が47.2%とほぼ拮抗しており、社会全体での合意はまだ途上にあることが分かります。特に40代以上では反対意見が過半数を超えており、世代によって受け止め方が大きく異なるのも現実です。

 

「終わる」のではなく「変わっていく」という見方が現実的

日本の採用市場をフラットに見ると、「一括採用が終わる」というよりも「一括採用とジョブ型採用が少しずつ混ざり合いながら変化していく」という見方が実態に近いでしょう。マイナビの調査では、2025年卒の内々定率は4月時点で6割を超え、6月には8割を上回るなど、一括採用のサイクル自体はまだしっかり機能しています。同時に、大卒求人倍率が1.75倍(リクルートワークス研究所調べ)と高水準を保つ中で、企業間の人材獲得競争が通年採用やジョブ型採用の拡大を後押ししているのも確かです。

富士通のように完全移行を決断する企業がある一方で、理系・専門職はジョブ型、文系総合職は一括採用と使い分けるハイブリッドなやり方を選ぶ企業も増えています。どちらが「正解」というわけではなく、自社がどんな人材を、いつ、どんな形で必要としているかによって、最適な答えは変わってくるものです。

新卒一括採用という慣行は、消えるのではなく「形を変えていく」——そう考えるのが一番しっくりくる見方ではないでしょうか。70年かけてできあがったものが変わるには、それなりの時間がかかります。ただ、その変化の速度は確実に上がっており、5年後・10年後の採用の風景は今とはかなり違うものになっているはずです。

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ビジネス・キャリア

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