守るための経営が、攻めの仕組みを生んだ。「永遠に存続する会社」を掲げたアイリスオーヤマの思想と実装【宮城県仙台市】
ふと手にとったマスク、のどが渇いたので買ったお茶。
私たちが普段身近に使う生活用品から家電、食品、ロボット開発まで幅広い事業を展開するアイリスオーヤマ株式会社。その事業の根底には「会社の目的は永遠に存続すること」という強い企業理念があります。
東大阪の町工場から始まり、オイルショックや事業転換を乗り越えながら成長してきた同社が、なぜこの思想にたどり着いたのか。そして、その理念はどのように事業や組織の中に落とし込まれているのか。入社以来、さまざまな部署を歴任し、現在執行役員 管理本部本部長として経営者に近い立場から組織を見つめる田中伸生さんにお話を伺い、その思想がどのように会社の成長を支えてきたのかをたどります。
創業の原点にあった「守れなかった」という痛み
アイリスオーヤマの原点は、第二次世界大戦後の大阪・東大阪の町工場「大山ブロー工業所」にあります。その後創業者の死をきっかけに、19歳という若さで会社を引き継いだ代表取締役会長の大山健太郎さんは、家族を支えるために昼は営業、夜は製造という生活を続けました。
当時、プラスチック製品の下請け加工を行っていた同社は、「このままで終わりたくない」という思いから、自社製品の開発に踏み出します。養殖用のブイや農業用の育苗箱など、現場の声に応える商品を全国に売り歩きました。
しかし、1970年代のオイルショックが大きな転機となります。直後は石油製品の需要が高まり、設備を増強して対応しました。ところが、その後の反動で在庫が積み上がり、激しい値崩れが起こります。売れば売るほど赤字になる状況に陥り、10年かけて築いた会社の資産を、わずか2年で失うほどの打撃を受けました。
その結果、創業の地・東大阪の工場を閉鎖し、宮城に拠点を移すことになったのです。
「永遠に存続する会社」という思想の誕生
当時、多くの従業員を手放さざるを得なかった大山会長。「守れなかった」という無念が、企業理念として現在も受け継がれています。「会社の目的は永遠に存続すること。いかなる時代環境に於いても利益の出せる仕組みを確立すること」
会社を存続させるためには、どんな環境でも利益を生み出せる仕組みが必要であるーー。この考えが、その後の事業展開や組織づくりの土台になっていきました。
思想を「仕組み」に変えた経営判断
しかし、ただ理念を掲げるだけでは、会社は変わりません。同社はその思想を、具体的な仕組みとして実装してきました。
その象徴が、「メーカーベンダー」と呼ばれる、メーカーが卸売業者の役割も兼ねて販売店に直接商品を供給するビジネスモデルです。商品を作っても、問屋を通さなければ小売店に届けにくかった当時、取引先と直接取引をすることで、小売店のトレンドやニーズをリアルタイムで把握し、生活者ニーズに対応したオンリーワン商品のスピーディな開発を可能にしました。この「メーカーベンダー」という発想こそが、その後の事業拡大の土台にもなっていったといいます。
さらに、利益を事業の成長や社員への還元に回すためにあえて「非上場」という選択をすることで会社を存続させてきました。「会社と従業員を守り続けるために重視してきた考え方。当時の判断は会社、そして社員を守り、成長を循環させる仕組みとして現在も息づいています」と田中さんは語ります。
社員を守るための「厳しさ」を持つ組織
社員を大切にするという考え方は、多くの企業が掲げています。しかし同社は、それを優しさだけで終わらせていません。
企業理念には、こうも掲げられています。
「働く社員にとって良い会社を目指し、会社が良くなると社員が良くなり、社員が良くなると会社が良くなる仕組みづくり」
同社では、上司だけでなく、同僚や部下、他部署のメンバーなど複数の関係者が能力や行動を評価する「多面的評価(360度評価)」を取り入れています。役職や職種を超えて評価し合い、納得感を高める仕組みを大切にしており、上司から部下への一方通行ではなく、部下から評価されることもあるといいます。
田中さんは「オープンフェアに、上司・同僚・部下・関連部署でもみんなで評価するというところが、企業文化として良いのかなと思います」と話します。
加えて、アイリスオーヤマ独自の「3車線人事」と呼ばれる制度があります。高速道路の車線になぞらえ、能力が高く実績を上げている社員を「追い越し車線」で一つ上のポストに抜てきします。一方、壁に直面している社員は「登坂車線」に移り、少しペースを落としながら力を蓄えてもらう。年齢や勤続年数ではなく、能力や意欲に応じて人材を評価する仕組みです。
また、若手でも責任あるポジションを任される環境があるだけでなく、評価が伸び悩む社員には「イエローカード」と呼ばれる制度を通じて改善の機会も設けています。これは罰ではなく、上司や人事部が適切なフィードバックを行い、再び力を発揮できるよう支えるための仕組みです。
守るとは、甘やかすことではなく、成長できるよう向き合い続けることでもあります。会社を存続させるために、社員を育てる仕組みにも理念が息づいているのです。
生活提案型企業として市場を創造する
同社は生活提案型企業として市場を切り拓いてきました。
商品開発の軸となるのが、「機能はシンプル、価格はリーズナブル、品質はグッド (SRG)」という考え方です。
多機能で高価格な商品を目指すのではなく、顧客が本当に必要とする機能を見極め、必要十分な品質と価格で届ける。その上で、顧客の「かゆいところに手が届く」ような「なるほど」というアイデアを加えることで、生活の中の不満を解決する商品を生み出しています。
だからこそ、同社の商品は私たちの日常のあらゆる場面に入り込んでいます。特別なものではなく、暮らしの中の小さな不満・不便に応える商品を積み重ねてきたことが、生活提案型企業としての広がりにつながっているのです。
社会課題を解決する企業へ。未完成であり続ける理由
現在、同社は「ジャパン・ソリューション」というキーワードのもと、社会課題の解決に取り組んでいます。労働力不足という課題に対しては、清掃ロボットや警備ロボットの開発を進めています。そこにあるのは、単なる効率化ではなく、目の前の困りごとを見つめ、解決するためのアイデアを形にする姿勢です。コーポレートメッセージ「アイ ラブ アイデア」には、「たったひとつのアイデアがあれば、様々な人の様々な悩みを解決できる」という信念が込められています。
企業理念の一文には、「常に高い志を持ち、常に未完成であることを認識し、革新成長する生命力に満ちた組織体をつくる」ともあります。
アイリスオーヤマは、「未完成」であることを前提に、暮らしや社会の困りごとをアイデアで解決し続ける企業です。
「守る」ために生まれた思想は、「攻め」の仕組みを超えて、いまや社会を変える力へと進化しています。そのすべては「永遠に存続する会社であるために」という一点につながっています。
もっとも印象に残った言葉:
「会社というものは永遠に存続するためには利益をちゃんと残さなければいけない」
※写真はすべて2026年2月17日ローカリティ!編集部撮影
企業情報
会社名:アイリスオーヤマ株式会社
取材対象者:執行役員 管理本部本部長 田中伸生さん
設立年月:1971年4月
事業内容:生活用品の企画、製造、販売
企業理念:
会社の目的は永遠に存続すること。
いかなる時代環境に於いても利益の出せる仕組みを確立すること。健全な成長を続けることにより社会貢献し、利益の還元と循環を図る。働く社員にとって良い会社を目指し、会社が良くなると社員が良くなり、
社員が良くなると会社が良くなる仕組みづくり。顧客の創造なくして企業の発展はない。生活提案型企業として市場を創造する。常に高い志を持ち、常に未完成であることを認識し、革新成長する生命力に満ちた組織体をつくる。
所在地:宮城県仙台市青葉区五橋2-12-1
HP:
https://www.irisohyama.co.jp/
情報提供元:ローカリティ!
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