「移住先として選ばれる県」と「選ばれない県」の決定的な差とは

地方移住への関心が、かつてないほど高まっています。認定NPO法人ふるさと回帰支援センターが2025年2月に発表したデータによると、2024年の移住相談件数は面談・電話・メール・見学・セミナー参加を合わせて過去最多の61,720件に達し、4年連続で相談者数が増え続けています。都市部の住宅価格の高騰やテレワークの普及、そして「仕事よりも家族との時間を大切にしたい」という価値観の変化が、この潮流を後押ししていると考えられます。ところが、同じ地方でも「移住先として選ばれ続ける県」と「なかなか選ばれない県」の間には、年を追うごとに明確な差が生じています。その差はいったいどこから来るのでしょうか。

 

「選ばれる県」に共通する条件

2024年の移住希望地ランキング(窓口相談・ふるさと回帰支援センター調べ)では、1位が群馬県、2位が静岡県、3位が栃木県という結果になりました。この顔ぶれを見ると、ある共通点が浮かびます。三県はいずれも首都圏から新幹線や高速道路で1〜2時間圏内に位置しています。上位10位に目を向けると、都市部へのアクセスがいい県、大都市を持つ県(福岡・宮城など)、そして長野や北海道のように「憧れのイメージ」が強い県が並んでいます。

つまり移住先を選ぶ人の多くは、「都会を丸ごと捨てる」のではなく、「都会とのつながりを保ちながら暮らし方を変える」ことを望んでいます。完全な田舎暮らしよりも、週に何日かは都市部に出やすく、でも普段の生活は自然の中で——そういうバランスを探している人が主流になっているのです。

ここで面白いのが、群馬県の事例です。群馬はブランド総合研究所が毎年発表する「魅力度ランキング」では長年ワーストに近い順位をさまよっていました。それが移住希望地では全国1位という、対照的な結果を出しています。「観光に行きたい県」と「住みたい県」はまったく別の評価軸で選ばれていることが、このデータからよくわかります。群馬は2020年に全35市町村がふるさと回帰支援センターの会員となり、「転職なき移住」——つまり今の仕事を続けながら群馬に住むという暮らし方——を前面に打ち出しました。地震が少なく内陸で自然災害リスクが低いこと、東京から1時間ほどでアクセスできること、子育て環境が充実していることが、20〜40代の世代に刺さったのです。

 

情報発信の「本気度」が相談件数を左右する

移住先として選ばれない地域に多く見られるのは、情報発信の薄さです。絶景写真や特産品の紹介は目を引きますが、移住を検討している人が本当に知りたいのは「仕事はどうするのか」「子どもの学校はどこになるのか」「近所とのつき合いはどんな感じなのか」という生活の細部です。

ふるさと回帰支援センターは「しっかり取り組んでいる県はランキングも高い」と明言しています。相談員との連携の密度、セミナーの開催頻度、情報の届け方——これらの差がそのまま相談件数の差に表れているということです。群馬県は充実した窓口体制(相談員3名・就職相談員1名)に加え、他県を大きく上回る年間60回ものセミナーを開催し、移住者を支える「オールぐんま暮らしサポートチーム」という独自の支援組織まで立ち上げています。対して、移住促進に消極的な県では、年に数回のフェア参加で終わっているケースも少なくありません。

この差は、移住を検討している人にとって「自分があそこで暮らせるかどうかイメージできるか」の差につながります。山口県がSNSやウェブ広告を活用したデジタルマーケティングを強化した結果、セミナー参加者が増え、窓口相談件数の増加につながったという例も、情報の届け方がいかに重要かを教えてくれます。

 

支援制度の「設計」と「届け方」の両方が必要

「住みたい」という気持ちは、現実的な経済条件が整ってはじめて「移住する」という行動に変わります。国は東京23区在住または通勤者を対象に、世帯で最大100万円、単身で最大60万円の移住支援金を自治体と共同で交付する制度を設けています。起業を希望する場合はさらに最大200万円の起業支援金が加わることもあります。2024年12月時点で約550市町村がこの制度を実施しており、支援制度そのものはすでに広く整備されています。

しかし整備するだけでは足りません。問題は「誰に、どう届けるか」です。静岡県は「移住・就業支援金制度」だけでなく、大学生向けの地方就職支援金、テレワーカー向けのリフォーム補助など、対象をはっきり絞った複数の制度を用意しています。「あなたのための支援ですよ」と伝わる設計になっているから、該当する層に刺さるのです。制度があっても条件が複雑でわかりにくければ、存在しないも同然です。移住を検討している人が「自分に使えるかどうか」を5分で判断できる情報設計が、選ばれる県の条件の一つになっています。

 

選ばれ続けるために必要なこと

移住先として選ばれ続ける県に共通しているのは、首都圏へのアクセスのよさ・生活コストの低さ・充実した支援制度を組み合わせながら、「ここでの暮らしを具体的にイメージできる」状態を作り続けていることです。移住希望者の声を聞くと、「仕事に追われるより家族や自分の時間を大切にしたい」「災害の少ない地域に住みたい」という言葉が繰り返し出てきます。求められているのは、「良い土地」ではなく「自分たちの価値観に合った暮らし方」です。

2023年の東京圏への転入超過数はまだ11.5万人に上り、大半は10代後半から20代の若者です。構造的な流れはそう簡単には変わりません。それでも、かつてより圧倒的に多くの人が「どこで、どのように生きるか」を真剣に考え始めているのは確かです。移住先として選ばれる県になれるかどうかは、その問いに対してどれほど誠実に、具体的に答えられるかにかかっています。移住は、人口減少時代における地域の生存戦略であると同時に、一人ひとりの人生設計とも深く結びついています。両者の利害が重なり合うとき、「選ばれる県」への道は着実に開かれていくでしょう。

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生活・暮らし

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