パック旅行費が前年比7割増、それでも海外旅行を選ぶ人が増える理由

海外旅行の「高い」が珍しくなくなった

海外旅行の価格が上がっています。航空券を検索して、「以前はこんなに高かっただろうか」と感じた経験がある人もいるでしょう。円安だけでなく、海外のホテル代や飲食費、航空運賃、燃油サーチャージなどが重なり、日本から海外へ出かける負担は大きくなりました。パック旅行費が前年同月比で7割近く上昇する局面もあり、数年前の感覚で予算を組むことは難しくなっています。

ただ、パック旅行費の上昇を「円安だから」の一言で片付けることはできません。パック旅行には航空券や宿泊費などが含まれ、現地の物価や繁忙期の料金にも左右されます。前年の価格が低ければ、今年の上昇率が大きく見えることもあります。それでも、海外旅行が家計にとって高い買い物になったことは確かでしょう。JTBは2026年の海外旅行者数を1,550万人、前年比2.6%増と予測しています。一人あたりの旅行費用は31万7,200円で4.5%増、海外旅行消費額は4兆9,200億円で7.4%増となる見通しです。旅行費が上がっているにもかかわらず、海外へ向かう人は年間では増えるとみられています。

 

円安に「慣れた」からといって、気にしなくなったわけではない

「円安慣れ」という言葉からは、1ドル150円前後でも旅行者が気にしなくなったように聞こえます。実際は、むしろ価格を細かく見る人が増えているといえそうです。ソニー銀行が2026年6月に5,276人を対象に実施した調査では、海外旅行を予定・検討している人の91%が為替レートや為替コストを意識していました。海外旅行への意欲が高まっていない理由では「円安」が63%、「物価高」が46%を占めています。

それでも海外へ行きたい人はいます。そこで変わるのが、旅行の中身です。同じ調査では、物価高や円安への対策として「旅行の回数や頻度を抑える」と答えた人が30%いました。ホテルや交通手段のグレードを下げる、日数を短くするといった調整も行われています。以前なら10日間だった旅行を1週間にする、長距離路線ではなく近場を選ぶといった形で、総額を抑えるわけです。卒業旅行や家族旅行、記念旅行は、価格が下がるまで何年も待てるとは限りません。「安くなるまで行かない」より、「この予算ならどこまで行けるか」と考える人が出てくるのも自然でしょう。円安慣れとは、円安を気にしなくなることではなく、高い価格を前提に旅行を組み立てる感覚に近いのではないでしょうか。

 

人数は減っているのに、旅行に使うお金は増えている

旅行需要を見るときに少しややこしいのが、年間と繁忙期で数字の動きが違うことです。JTBは2026年の海外旅行者数を前年比2.6%増と予測していますが、夏休みに限ると217万人で前年比8.8%減としています。一方、夏休みの一人あたり平均旅行予定費用は32万3,000円で6.3%増。つまり夏休みだけを見ると、「海外へ行く人は減ったが、行く人が使う金額は増えた」という状態です。

旅行先にも変化が表れています。2026年夏休みの海外旅行先では韓国が26.2%、台湾が16.2%を占め、アジア全体では79.5%に達する見込みです。欧米への長距離旅行と比べれば移動時間が短く、数日間の休暇でも旅行しやすい地域です。航空券や現地滞在費を含めた総額を調整しやすい点も選択肢に入りやすい理由でしょう。ただし、韓国や台湾の人気を円安だけで説明するのは無理があります。航空便の多さ、観光地としての人気、休暇日数なども影響するためです。それでも、高くなった海外旅行を諦めるのではなく、行き先を変えて予算を合わせる動きが出ていることは、現在の旅行市場を知るうえで見逃せません。

 

「昔はいくらだったか」より「この金額なら何ができるか」

旅行費の上昇は海外だけの話ではありません。2026年夏休みの国内旅行者数は6,900万人で前年比4.4%減となる一方、一人あたりの平均旅行予定費用は4万8,500円と3.2%増える見通しです。海外旅行でも国内旅行でも、人数が伸びにくいなかで一人あたりの支出は増えています。毎年2回旅行していた人が1回に減らす代わりに、その1回ではホテルや食事を楽しむ。そんな使い方が広がれば、旅行者数が減っても旅行単価は上がります。

円安が長く続けば、旅行者が価格を見る基準も少しずつ変わっていくでしょう。以前の為替水準や旅行代金に戻るまで待とうとしても、いつ戻るかは分かりません。それなら、現在の価格を出発点にして旅行を考える方が現実的です。航空券を安く取ってホテルに予算を回す、旅行日数を短くして食事を楽しむ、欧米ではなくアジアを選ぶ。節約する場所とお金を使う場所を分けることで、旅行そのものは続けられます。

旅行費が上がったから、旅行需要がそのまま消えるわけではありません。一方で、高い費用を負担できず旅行を控える人がいることも事実です。いま起きているのは「円安でも旅行人気」という単純な話ではなく、旅行を控える人と、内容を変えて出かける人への分かれ方がはっきりしてきた状況でしょう。「安くなったら行く」から「今の予算ならどこへ行けるか」へ。旅行者のお金の使い方は、そんな方向へ変わり始めていると思われます。

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