「別居婚」が広がる理由とは?離婚に踏み切れない夫婦が選ぶ新しい距離感

「夫婦なら同居」という前提が揺らいでいる

結婚したら同じ家で暮らす。長く当たり前とされてきたこの形にこだわらず、婚姻関係を続けながら住まいを分ける「別居婚」が選択肢として語られるようになっています。ただし、別居婚だけを対象にした全国規模の公的統計は十分に整っておらず、「何組まで増えた」と数字で広がりを断定することはできません。仕事の勤務地が離れている夫婦、自分の生活リズムを保ちたい夫婦、同居による衝突を減らしたい夫婦など、その事情はさまざまです。単身赴任や離婚を前提とした別居とは異なり、夫婦関係そのものは続けたいと考えて住居を分けるケースもあり、結婚生活の捉え方が以前より幅広くなっているといえます。

背景には、一人で生活することが珍しくなくなった社会の変化があります。2020年の国勢調査では、単独世帯は約2,115万世帯で、一般世帯の38.1%を占めました。2015年の34.6%から5年間で3.5ポイント上昇しています。もちろん、この数字がそのまま別居婚の増加を示すわけではありません。ただ、家族と常に生活空間を共有する形だけでなく、一人の住まいや時間を持つ暮らしが社会に定着していることは読み取れます。夫婦であっても、「愛情があること」と「毎日同じ空間で暮らせること」は別の問題だと考える人が増えても不思議ではないでしょう。

 

離婚したくないのに、一緒には暮らせない

別居婚には、自由なライフスタイルを求めて積極的に選ぶケースがある一方、「離婚まではしたくないが、同居を続けるのは苦しい」という夫婦もいます。家事の方法、食事や睡眠の時間、お金の使い方、休日の過ごし方といった小さな違いでも、毎日繰り返されれば負担になります。相手を嫌いになったわけではなくても、生活を長時間共有することで関係が悪くなる場合もあるでしょう。そのとき、婚姻関係を解消するのではなく、まず生活だけを切り離すという考え方が生まれます。別居は必ずしも夫婦関係を終わらせる行為ではなく、壊れる前に距離を調整する方法として機能することもあると考えられます。

離婚をためらう背景には、感情だけでは片付けられない事情があります。子どもの生活、学校、住宅ローン、財産、生活費、親族との付き合いなど、結婚生活が長くなるほど夫婦の関係は多くのものと結びつきます。厚生労働省の人口動態統計によると、2024年の離婚件数は18万5,904組で、前年より2,090組増えました。一方で、2002年には28万9,836組に達しており、現在はピーク時より10万組以上少ない水準です。離婚件数の増減だけで夫婦関係の実態を測ることはできません。「離婚していないから円満」とも限らず、結論を急がず距離を置きながら関係を探っている夫婦もいると思われます。

 

同居そのものが負担になる時代背景

なぜ「相手は嫌いではないのに、一緒には暮らせない」という状態が生まれるのでしょうか。その背景を考えると、夫婦関係だけの問題では説明しきれません。かつての結婚生活では、夫が働き、妻が家事を担うといった役割分担が一般的でした。しかし、共働き世帯が増えたことで、夫婦双方が仕事の予定、人間関係、収入、生活リズムを持つ家庭が増えています。内閣府の資料では、雇用者の共働き世帯は1980年代以降長期的に増え、1997年以降は「男性雇用者と無業の妻」の世帯数を上回って推移しています。2018年には共働き世帯が1,219万世帯に対し、男性雇用者と無業の妻の世帯は606万世帯でした。夫婦それぞれが自分の生活基盤を持つことが珍しくなくなった結果、結婚後も完全に生活を一体化させることへの負担は高まりやすいといえるでしょう。

夫婦それぞれが仕事や生活を持つほど、共同生活で調整する項目も増えていきます。帰宅時間が違えば食事時間が合わず、在宅勤務であれば仕事と私生活の境界も曖昧になります。家事の問題も、「やるか、やらないか」だけではなく、どの程度の清潔さを求めるか、いつ片付けたいかといった感覚の差まで表面化します。ここで見えてくるのは、夫婦仲そのものよりも「生活を一つにまとめること」の難しさです。愛情関係は維持したい一方、自分の時間や空間も守りたい。この二つを両立させる方法として、別居婚が意識されるようになった面もあるのではないでしょうか。

 

別居すれば解決するわけではない現実

別居婚には、日常的な衝突を減らし、一人で過ごす時間を確保できる利点があります。会う頻度が下がることで、一緒にいる時間を丁寧に過ごせる夫婦もいるでしょう。ただし、距離を置けば必ず関係が改善するとは限りません。会話が減り、お互いの日常が見えにくくなれば、そのまま気持ちまで離れてしまう可能性もあります。特に子どもがいる場合には、どちらの住居を生活の中心にするのか、学校行事や送迎をどう分担するのかといった課題が生まれます。夫婦だけの都合で生活を分けられない家庭も少なくないと考えられます。

経済面の負担も無視できません。家賃8万円の住居を別に借りれば、それだけで年間96万円です。水道光熱費や通信費、家具・家電、夫婦が行き来する交通費まで含めれば、年間100万円を大きく超えることもあるでしょう。日本の民法752条には、夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならないとの規定もあります。別居婚を始めるなら、生活費や子育て、連絡頻度、将来再び同居する可能性まで夫婦で話し合っておく必要があります。別居婚は華やかな新しい結婚スタイルというより、同居か離婚かという二択では収まりきらない夫婦が、自分たちに合った距離を探すための選択肢といえます。結婚を続けることと、同じ家に住み続けることを必ずしも同じものとして考えない夫婦観は、今後少しずつ受け入れられていくことが見込まれます。

カテゴリ
人間関係・人生相談

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