住まいの後悔は「物件」ではなく「タイミング」にある——50代が選んだ後悔しない住まいの軸
後悔している人・していない人、何が違うのか
住まいをどうするか、という問いは人生の中でも指折りの大きな決断です。「賃貸か持ち家か」という議論はSNSやメディアで繰り返されてきましたが、実際に後悔しなかった人たちは何を基準に選んでいたのでしょうか?ある調査では、現在50代の回答者のうち、「住まいの選択を後悔していない」と答えたのは全体の約63%でした。残る37%が「後悔している」または「やや後悔している」と回答しており、3人に1人以上が何らかの悔いを抱えている計算になります。
注目すべきは、後悔の内容です。持ち家を選んだ人の後悔として多かったのは「転勤や家族構成の変化に対応できなかった」(回答者の約41%)と「購入時より資産価値が下がった」(約29%)でした。一方、賃貸を選んだ人の後悔は「老後の家賃負担が不安」(約38%)と「いつまでも自分の居場所という感覚が持てなかった」(約22%)が上位を占めています。
興味深いのは、後悔していないグループに共通していた特徴です。持ち家・賃貸を問わず、「30代のうちに5〜10年後の生活をある程度想定して決めた」と答えた割合が、後悔なしグループでは71%に達していました。対して後悔ありグループでは同じ問いに「はい」と答えた割合は39%にとどまっています。住まいの選択を後悔しなかった人の共通点は、選んだ種別そのものよりも「将来の生活像を先に描いていたかどうか」にあるといえます。
「持ち家=資産」という方程式が崩れ始めている
日本では長らく「家を買うことが一人前の証」という価値観が根強く残ってきました。しかし2020年代に入り、その前提は揺らいでいます。国土交通省の調査によれば、2023年時点で全国の空き家率は13.8%に達しており、地方都市では20%を超える地域も珍しくありません。人口減少が続く中、不動産の資産価値が自動的に維持されるとは言い切れない時代になっています。
「持ち家は将来の資産になると思って購入した」という動機を持つ回答者のうち、50代現在も「資産として機能していると実感できる」と答えたのはわずか31%でした。立地や購入時期によって明暗が分かれており、都心の駅近物件を購入した層では評価額が購入価格を上回るケースもある一方、地方や郊外の物件では維持費や修繕費が重くのしかかっているという声が相次いでいます。
一方、賃貸派の資産形成に目を向けると、「住宅ローンに充てる予定だった資金を投資信託やiDeCoに回した」という回答者の中で、50代時点での金融資産が2000万円を超えている割合は約27%に上りました。これは全体平均(約19%)を上回る数字です。「家を買わなかった分を運用に回す」という戦略が、一定の合理性を持つことを示しています。ただし、この結果は投資判断の巧拙や職業・収入にも左右されるため、一概に賃貸が有利とは言えません。重要なのは、住まいの費用をどう捉え、余剰資金をどう扱うかという設計力にあるといえます。
ライフスタイルの変化に「住まいが追いつく」かどうか
後悔しなかった50代が口をそろえて語るのが、「住まいの柔軟性」です。子育て、親の介護、転勤、離婚、リモートワークへの移行……。人生の後半戦には、予測しづらい変化が連続します。調査では、40代以降に「ライフスタイルが大きく変わった」と回答した人の割合は実に68%に上りました。
持ち家を選びながらも後悔していない層に話を聞くと、「売却・賃貸に出す・建て替えるという選択肢を最初から想定していた」という声が目立ちます。実際に持ち家経験者の中で、購入後に一度売却または賃貸に出した経験がある人は全体の17%おり、住まいを「固定資産」ではなく「動かせる選択肢のひとつ」として捉えていた傾向があります。
賃貸派で後悔なしグループの特徴は、「住む場所を変えながらライフステージに合わせてきた」という積極的な移動歴です。平均的に30〜50代の間に3.2回の引越しを経験しており、子どもの進学、親の健康状態、職場の変化に合わせて柔軟に住まいを変えてきたと答えています。「賃貸は身軽さそのものが資産だと気づいた」という言葉は、複数の回答者から聞かれました。
50代が30〜40代の自分に伝えたい「住まい選びの軸」
調査の最後に「住まいを選ぶ際に最も重視すべきことは何か」を自由記述で尋ねたところ、最も多かった回答は「将来の働き方と家族構成の変化を先に考えること」でした。次いで「資産性より生活の質」「固定費総額で考えること(ローン+修繕費 vs 家賃+更新料)」が続いています。
特に固定費の比較については、多くの回答者が「購入時に住宅ローンの月額しか見ていなかった」と振り返っています。国土交通省の調査では、一戸建て住宅の平均修繕費は築20年以降に急増し、20〜30年目の10年間だけで平均約300万円以上の出費が発生するとされています。固定資産税(年間約10〜15万円)や管理費・修繕積立金(マンションの場合は月平均約2.1万円)を含めると、表面上の「家賃と同額のローン」が実際にははるかに高コストになるケースも少なくありません。
後悔しなかった人たちに共通していたのは、「持ち家か賃貸か」というゼロイチの問いに答えを出す前に、自分たちのライフスタイルの優先順位を書き出したという点です。安定を最優先するのか、自由を手放したくないのか、地縁を大切にするのか、資産形成に重きを置くのか。その軸が定まっていれば、どちらの選択も正解になり得ます。逆に言えば、軸が曖昧なまま「流行や周囲のプレッシャー」で決めたときに、後悔が生まれやすいといえます。
住まいの正解は一つではありません。ただ、後悔しなかった人たちが歩んできた道筋を見ると、「何を大切にして生きるか」を先に決めていたという共通の姿勢が浮かび上がります。賃貸か持ち家かを問う前に、まず自分自身のライフスタイルの設計図を描いてみることが、後悔しない選択への確かな一歩になるでしょう。
- カテゴリ
- 生活・暮らし
