観光だけでは終わらない、長期休暇と地方創生をつなぐ地域滞在の可能性
長く泊まるだけでは地域は変わらない
長期休暇を使い、地方で数日から1週間ほど暮らすように過ごす「地域滞在」が、地方創生の新しい選択肢として注目されています。観光地を巡って帰る旅行とは少し違い、地元の店で買い物をしたり、農業やものづくりを体験したり、地域の人と交流したりしながら過ごすスタイルです。国内旅行の市場は大きく、観光庁によると、2025年の日本人国内旅行消費額は26兆7,845億円で、2019年比22.1%増となりました。宿泊旅行だけでも21兆7,211億円に達しています。旅行者が地域で過ごす時間を延ばせれば、宿泊施設だけではなく、飲食店やスーパー、交通、体験サービスなどにも消費が広がる可能性があります。
ただし、滞在日数が増えれば自動的に地方創生につながるわけではありません。7泊してホテルと観光施設だけを利用する人より、3泊でも農家や地元企業と知り合い、帰宅後に商品を購入したり翌年も訪れたりする人の方が、地域との関係は深くなるでしょう。見るべきなのは「何人来たか」「何泊したか」だけではなく、一人が地域内でいくら使ったのか、再び訪れた人はどの程度いるのか、滞在後も地域の商品を買っているのかといった数字です。地域滞在を旅行商品として終わらせず、その後の行動につなげられるかが成果を分けると考えられます。
移住より手前のつながりをどう増やすか
地方創生というと、都市部から地方へ移住する人を増やす取り組みが思い浮かびます。しかし、仕事、住宅、家族、教育など生活全体を変える移住は、多くの人にとって簡単な選択ではありません。そこで政策でも重視されているのが「関係人口」です。地域に住んでいなくても、何度も訪れたり、地域の商品を購入したり、仕事や活動を通じて継続的に関わったりする人を指します。政府が2025年に閣議決定した「地方創生2.0基本構想」では、今後10年間で関係人口を実人数1,000万人、延べ人数1億人創出する目標が掲げられました。
地域滞在は、こうした関係をつくる入口になり得ます。ただ、「自然があります」「農業体験ができます」だけでは、その土地を選ぶ理由として弱いでしょう。発酵食品の産地なら蔵元を巡りながら食文化を学ぶ、漁業の町なら市場や漁師の仕事に触れる、工芸の町なら職人から技術や歴史を教わるといった形で、地域固有の暮らしや産業を滞在の目的に変える工夫が求められます。全国どこでも似た体験ができる企画では価格競争になりやすく、「ここで過ごしてみたい」と感じさせる理由が薄れてしまいます。観光名所の数ではなく、地域の日常そのものを価値として見せられるかが差別化につながるでしょう。
「長く休めない人」を前提に考える
地域側が魅力的な滞在プランを用意しても、参加する人がまとまった休暇を取れなければ利用は広がりません。厚生労働省の2025年就労条件総合調査によると、2024年に労働者へ付与された年次有給休暇は平均18.1日で、実際の取得日数は12.1日、取得率は66.9%でした。取得率は調査開始以来で最も高い水準ですが、平均値だけを見て「1週間の休暇を取りやすくなった」と判断することはできません。職種や会社の体制によって、連続して休めるかどうかには差があります。
そこで、最初から1週間や2週間だけを前提にするより、3泊、5泊、7泊など生活に合わせて期間を選べる方が現実的でしょう。平日の一部はオンラインで仕事をして、残りの時間を地域で過ごす方法もあります。家族連れなら子ども向けの自然体験を組み合わせ、シニア層なら食文化や工芸など負担の少ない企画を用意するなど、対象によって内容を変えることも考えられます。厚生労働省の同調査では、1週間以上の長期休暇にあたる特別休暇制度がある企業は16.7%でした。誰もが長く休めるわけではない現実を踏まえれば、「長期休暇を取れる人だけの地方滞在」ではなく、普段の生活の延長で参加できる仕組みにした方が利用者は増えると見込まれます。
地域に残るのは人数より「次の行動」
地域滞在を続けるには、受け入れる側にも利益が残らなければなりません。農業体験や地域案内、住民との交流を増やすほど、日程調整や予約管理、問い合わせ対応などの仕事も増えていきます。住民の善意に頼り続ければ、参加者が増えるほど負担が大きくなる可能性があります。宿泊施設、飲食店、農家、工房、交通事業者などが適切に収益を得られる料金を設定し、誰が全体を運営するのかも決めておく必要があるでしょう。自治体だけですべてを担うのではなく、DMOや地域商社、旅行会社などが間に入り、地域の事業者をつなぐ形も考えられます。
そして、滞在が終わった後の仕組みが大きな意味を持ちます。帰宅後に特産品を購入できる、翌年のイベント案内が届く、地域企業の仕事にオンラインで参加できるなど、接点が続けば一度の旅行で終わりません。参加者100人を集めても翌年誰も戻らない企画と、参加者50人のうち一定数が再訪し、商品購入や仕事を通じて関係を続ける企画では、地域への意味が変わります。人口減少が進む地方ですべての訪問者を移住者に変えることは難しくても、「年に何度か戻ってくる人」を増やすことはできます。長期休暇と地方創生を結び付けるなら、滞在日数そのものではなく、訪れた人がその地域とどれだけ長く関わり続けるかを見る。その視点から地域滞在を設計することで、新しい人とお金の流れが生まれるのではないでしょうか。
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