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所得格差は本当に広がっている?ジニ係数の推移から見る日本の実態

ジニ係数が示す「格差拡大」の本当の意味

「日本では所得格差が広がっている」と聞くと、一部の富裕層だけが豊かになり、多くの人の生活が苦しくなっている姿を思い浮かべるかもしれません。所得の偏りを確認するときによく使われるのが「ジニ係数」です。0から1までの数字で表され、0に近いほど所得が均等で、1に近いほど一部に所得が集中していることを示します。厚生労働省の2023年所得再分配調査では、給与や事業所得などを中心とする「当初所得」のジニ係数は0.5855でした。2021年の0.5700から上昇しており、この数字だけなら所得格差が広がったように見えます。

ただし、0.5855をそのまま会社員の給与格差と結びつけると、実態を読み違えてしまいます。ここでいう当初所得には公的年金などの社会保障給付が含まれていないため、仕事を退職して年金を中心に暮らす高齢者は所得が少なく計算されやすいからです。日本では高齢者世帯が増えており、働いて給与を得る世帯と年金を中心に暮らす世帯が同じ統計に並ぶことで、当初所得の差は大きく見えます。つまり、ジニ係数の上昇には賃金差だけでなく、高齢化による人口構成の変化も影響していると考えられます。

 

高齢化だけでは説明できない現役世代の所得差

長期的な推移を見ると変化はより鮮明です。当初所得のジニ係数は1981年には0.3491でしたが、2011年には0.5536、2014年には0.5704、2017年には0.5594、2021年には0.5700、2023年には0.5855となっています。40年余りで大きく上昇しましたが、その間に日本社会では高齢化が進み、現役で働く人が多い人口構成から、退職後の人が大きな割合を占める構成へ変わりました。そのため、「昔より0.2以上上がったから、その分だけ会社員の格差が拡大した」と単純にはいえません。

一方、高齢化だけに原因を求めるのも十分ではないでしょう。現役世代にも所得差を生みやすい構造が残っています。厚生労働省の2025年賃金構造基本統計調査では、男性の月額賃金は正社員・正職員が38万7,400円だったのに対し、正社員・正職員以外は26万8,100円でした。女性でも正社員・正職員は30万4,900円で、雇用形態による差が確認できます。 OECDも、日本では働く世代の所得格差と相対的貧困がOECD平均を上回り、その一因として賃金水準の低い非正規雇用を含む労働市場の二重構造を挙げています。 高齢化に雇用形態や企業規模、業種による賃金差が重なり、所得の開きが縮まりにくくなっているといえます。

 

社会保障と税が格差を大幅に縮めている

ここで見落とせないのが、私たちの暮らしは当初所得だけで成り立っているわけではないことです。税金や社会保険料を支払う一方で、公的年金、医療、介護などの社会保障も受けています。これらを反映した「再分配所得」で計算すると、2023年のジニ係数は0.3825まで下がりました。当初所得の0.5855と比べると大きな差があり、所得再分配による改善度は34.7%です。日本では、所得を得る段階で生まれた差を社会保障と税によって後から縮める仕組みが強く働いていることが分かります。

再分配後のジニ係数を見ると、2011年は0.3791、2014年は0.3759、2017年は0.3721、2021年は0.3813、2023年は0.3825でした。当初所得ほど大きな上昇はなく、0.38前後で推移しています。 これは「日本の格差に問題がない」という意味ではありません。むしろ、市場で生まれる所得差を年金や医療などによってかなり補っている姿が浮かびます。高齢化によって社会保障を受ける人が増える一方、それを支える現役世代が減れば、現在と同じ再分配機能を維持する負担は重くなると見込まれます。

 

問われているのは普通に働く人の所得をどう増やすか

国際的な数字を見ると、日本の立ち位置も分かりやすくなります。OECDの「日本経済審査2026」に掲載された最新利用可能値では、日本の可処分所得ベースのジニ係数は2021年時点で0.338、OECD平均は0.317でした。相対的貧困率は日本が15.4%、OECD平均は11.5%となっています。中央値の50%未満の所得で暮らす人の割合を示す相対的貧困率が平均を上回っていることを考えると、「再分配で格差が縮まっているから問題は小さい」とも言い切れません。

所得格差を考える際に注目したいのは、富裕層だけがどれだけ豊かになったかではなく、働く人の所得がどこまで伸びているかでしょう。正規・非正規の賃金差、企業や業種による給与水準の違い、世帯人数の減少、高齢化などが重なれば、平均所得だけでは暮らしの実感を捉えにくくなります。社会保障で差を縮める仕組みには大きな役割がありますが、再分配だけに頼れば現役世代の負担が膨らむ可能性もあります。働いて得られる所得をどう底上げし、中間層が安定して生活できる環境をつくれるか。その視点まで含めて見ることで、「所得格差の拡大」という言葉の内側にある日本社会の課題が、より具体的に見えてくるのではないでしょうか。

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