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「正解のない時代」をどう生きる?不確実性と向き合う思想のヒント

昔より「正解」が減ったわけではない

「正解のない時代」といわれると、昔には正解があり、今になってそれが消えてしまったようにも聞こえます。しかし、歴史を振り返れば、未来が見えなかった時代はいくらでもありました。戦争や恐慌、感染症、産業革命など、社会の仕組みが大きく揺れた時期を人類は何度も経験しています。先のことが分からないのは、現代に限った話ではありません。

それでも今、多くの人が「正解が分からない」と感じる背景には、自分で決めなければならない場面の増加があります。進学して会社に入り、長く勤めるという人生設計だけではなく、転職、副業、起業、リモートワーク、学び直しなど、働き方だけでも選択肢はかなり広がりました。自由になった半面、「自分で選んだ」という責任もついてきます。
世界経済フォーラムの「Future of Jobs Report 2025」では、2025年から2030年にかけて、現在のスキルの39%が変化する、あるいは古くなると企業側が予測しています。2030年までに100人中59人の労働者に何らかの研修が必要になるとの見通しも示されました。せっかく身につけた知識であっても、それだけで何十年も働けるとは限らない。そんな現実が、人生の見通しを立てにくくしていると考えられます。

 

選べる自由が、かえって人を迷わせる

選択肢が多いことは、本来なら歓迎したい変化です。自分に合わない会社を辞めて転職してもいい。地方へ移住しても、会社員を続けながら副業を始めてもいい。以前なら珍しかった生き方も選びやすくなりました。ところが、選べる道が増えたからといって、決断が楽になるとは限りません。「この会社でいいのか」「もっと収入を増やせるのではないか」「別の生き方があるのではないか」と、選ばなかった道まで気になってしまいます。

そこにSNSが入ると話は少し複雑です。同世代の転職、年収、結婚、住宅購入、海外生活まで、以前なら知らなかった他人の人生が毎日のように目に入ります。選択肢が増えただけではなく、比較する相手まで増えたわけです。米国心理学会(APA)が公表した2025年の調査では、米国成人3,199人の82%が「世界が理解しにくい形で変化している」と答え、75%が以前より国の将来についてストレスを感じていると回答しました。米国の調査なので日本にそのまま当てはめることはできませんが、先を読みづらい感覚が心理的な負担につながる一例にはなるでしょう。現代人が疲れている理由は、単に未来が分からないからではありません。大量の情報を見ながら、何度も「自分ならどうするか」を決め続けなければならないことも関係していると思われます。

 

古い思想が今の暮らしにもつながってくる

こうした迷いは現代特有に見えて、哲学ではかなり昔から扱われてきました。古代ギリシャ・ローマで発展したストア派には、自分で変えられるものと、変えられないものを分けて捉える考えがあります。景気が来年どうなるか、勤めている会社が10年後も成長しているか、周囲からどう評価されるか。こうしたことを完全に自分で決めることはできません。一方、何を勉強するか、どんな人と付き合うか、次にどんな行動を取るかなら、自分で決められる余地があります。

実存主義にも、今の時代と重なる部分があります。社会から与えられた正解を探すより、自分の選択を通して生き方を形づくっていく考えです。これを仕事に置き換えると、「絶対に失敗しない会社」を探すことに時間を使い続けるより、今の条件で納得できる場所を選び、合わなければ考え直すという捉え方ができます。転職した結果、前の会社の良さに気づくこともあるでしょう。学び直してみたものの、その分野が自分には向いていないと分かることもあります。それも選択から得た情報です。一度決めたことを変えない人より、経験を材料にして次の判断を変えられる人のほうが、不確実な環境にはなじみやすいといえます。

 

正解を当てるより、間違えた後にどうするか

仕事で求められる能力にも、この変化は表れています。「Future of Jobs Report 2025」で企業が中核的なスキルとして最も多く挙げたのは「分析的思考」の69%でした。「レジリエンス、柔軟性、機敏性」も67%で続いています。AIやビッグデータなどの技術を扱う力が注目されがちですが、実際には状況を見て考え直す力も企業から強く求められています。未来を完璧に予測することより、予想が外れたときに次の手を考えられることのほうが、現実の仕事では役立つ場面が多いのかもしれません。

AIの普及によって、この問題はもっと身近になるでしょう。国連開発計画(UNDP)の「Human Development Report 2025」では、21カ国を対象にAIと人間の主体性について調査しています。非常に高い人間開発指数(HDI)の国々では、現在「自分の人生を自分でコントロールできている」と強く感じる人が45.4%だったのに対し、AIが普及した5年後にも同じ程度の主体性を持てると考えた人は32.1%でした。AIに聞けば、転職候補も旅行先も勉強方法もすぐに出てきます。ただ、候補を示してもらうことと、自分がその道を選ぶことは別です。

「正解のない時代」は、何をしても正しい時代ではありません。むしろ以前より多くの選択肢を前にして、自分で決める場面が増えた時代と見るほうが実態に近いでしょう。情報を集めても、最後まで迷いが消えないことはあります。そんなときは「これが絶対に正しい」と確信できるまで待つのではなく、今分かっている範囲で選んでみる。うまくいかなければ、そこで得た情報を使って次を決めればいい。一度で正解を当てることより、自分の答えを何度でも書き換えられること。そのほうが、先の見えない社会とは長く付き合っていけるのではないでしょうか。

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社会

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