外食の値上げラッシュで変わる消費行動、消費者が店を選ぶ基準はどう変わるのか
売上が伸びていても客が増えているとは限らない
ランチに入った店で、以前は800円台だったメニューが1000円を超えていた。そんな経験が珍しくなくなりました。家族4人で外食すれば、1人当たり200円の値上げでも会計は800円増えます。それでも外食産業全体を見ると、消費者が一斉に店から離れているわけではありません。日本フードサービス協会の2026年6月の外食産業市場動向調査では、全体の売上高は前年同月比103.3%、客数は100.8%、客単価は102.4%でした。売上は3%以上増えているものの、客数の伸びは1%未満です。この数字からは、利用者が大幅に増えたというより、値上げによる客単価の上昇が売上を押し上げている面が大きいと考えられます。
ここで注意したいのは、「売上が前年を超えた=客足が強い」とは限らないことです。900円だった料理を1000円に値上げすれば、客数が多少減ったとしても売上額が前年を上回るケースがあります。消費者も外食を完全にやめるわけではなく、週5回だったランチを4回にする、飲み物を注文しない、少し安い店へ移るなど、小さな調整を重ねます。この変化は売上高だけでは見えにくいでしょう。外食の値上げラッシュを考える際には、「客が来るか来ないか」より、同じ人が月に何回来ているのか、何を注文するようになったのかを見る必要があるといえます。
値上げを招いているのは食材価格だけではない
飲食店の値上げというと、米や肉、魚、野菜などの仕入れ価格を思い浮かべる人が多いでしょう。しかし店舗が負担するコストは、それだけではありません。従業員の賃金、電気やガスといった光熱費、商品を運ぶ物流費、容器や包装資材など、営業を続けるための費用が幅広く上がっています。帝国データバンクの調査によると、主要食品メーカー195社が2026年8月に値上げする飲食料品は2311品目で、1回当たりの平均値上げ率は15%でした。2026年1~11月に予定される値上げも、判明しているだけで1万8347品目に達しています。飲食店側にも、仕入れ価格の上昇をすべて自社で吸収する余裕が少なくなっていると考えられます。
ただ、店側にとって必要な値上げでも、消費者が同じ感覚で受け止めるとは限りません。1000円の商品を1100円にすれば差額は100円ですが、値上げ率では10%です。家族4人なら料理だけで400円増え、ドリンクやデザートまで値上がりすれば負担はさらに膨らみます。しかも消費者が支払っているのは外食費だけではありません。スーパーで買う食品や日用品、電気代なども上がれば、家計全体の中で自由に使えるお金が圧迫されます。その結果、「100円高くなったから行かない」という単純な判断ではなく、「今月は外食を一回減らそう」という形で節約が進むと思われます。
客は外食をやめるより店と回数を変えていく
値上げが続いても外食需要が一気になくならないのは、外食に食事以上の役割があるためでしょう。仕事中の昼食、忙しい日の夕食、友人との会食、家族で過ごす休日など、外食を利用する理由はさまざまです。そのため、消費者は「外食するか、しないか」の二択ではなく、予算に合わせて使い方を変えていきます。1200円のランチを週5回利用すると、4週間で2万4000円になります。これを週3回にすれば1万4400円となり、月9600円の差です。一回の外食価格を下げなくても、回数を減らすだけで支出をかなり調整できます。
店選びにも変化が表れます。食事を短時間で済ませることが目的なら、値上げしたレストランからファーストフードや持ち帰りに切り替えることができます。一方、記念日の食事や好きな店での会食なら、数百円高くなっても利用を続ける人はいるでしょう。ここで差を生むのが「その店でなければならない理由」です。価格と便利さだけで選ばれている店は、別の店と比較されやすくなります。反対に、料理の独自性や居心地、接客、立地などに魅力があれば、代わりの店へ簡単には移りません。同じ10%の値上げでも客足への影響が違うのは、価格以外の価値に差があるからだと考えられます。
客足の限界は価格より「代わりがあるか」で決まる
外食の値上げが続くなかで起こりそうなのは、外食そのものが敬遠されることより、店の選別が進むことではないでしょうか。消費者は100円、200円という値上げ額だけで店を決めているわけではありません。同じ1200円でも「この料理なら払いたい」と感じる店がある一方、900円でも高いと感じる店があります。料理の量や質、待ち時間、サービス、店内の快適さまで含め、「支払う金額に見合っているか」が判断されます。値上げしたうえに料理の量が減ったり、サービスまで落ちたりすれば、金額以上の割高感につながるでしょう。
その意味では、客足の限界を「ランチが1200円になったら危険」と一つの金額で示すことは難しいといえます。限界が表れるのは、値上げによる客単価の増加よりも、客数や来店頻度の減少が大きくなったときです。これまでは値上げで売上を維持できた店でも、常連客が月4回から3回、3回から2回へと利用を減らせば、いずれ価格上昇だけでは補えなくなります。食品の値上げが1万8000品目を超える規模に広がるなか、外食価格だけが以前の水準へ戻る可能性は高くありません。これから強いのは、単に安い店ではなく、少し高くなっても「ここなら行きたい」と思ってもらえる店でしょう。値上げラッシュは、消費者の節約意識を強めるだけでなく、外食産業の中で代替される店と、選ばれ続ける店を分けるきっかけになると見込まれます。
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