モバイルバッテリーの事故増加で変わる安全基準と新たな規制の行方

便利になった一方で、事故も見過ごせなくなった

スマートフォンやタブレットを外出先で充電できるモバイルバッテリーは、通勤や旅行、災害への備えまで幅広く使われています。小さな本体に多くの電力を蓄えられる便利な製品ですが、普及が進む一方で発煙や発火を伴う事故も増えています。NITE(製品評価技術基盤機構)によると、2021年から2025年までの5年間に、リチウムイオン電池を搭載した製品の事故は2,140件報告されました。そのうちモバイルバッテリーは506件で製品別では最多となり、年間件数も2021年の51件から2025年には192件まで増えています。単純計算では約3.8倍となり、安全対策への関心が高まるのも自然な流れといえます。

ただし、事故件数が増えたからといって、現在のモバイルバッテリーが以前より一律に危険になったと見るのは早いでしょう。スマートフォンや携帯機器の普及で利用機会そのものが増え、製品も大容量化や急速充電対応が進んでいます。小型の本体で扱う電力量が増えれば、内部の品質管理や使い方による影響も大きくなります。NITEの集計では事故は春から夏に増え、8月にピークを迎える傾向も確認されています。高温の車内への放置や落下による衝撃、劣化した製品の継続使用などが重なることで、事故につながる可能性が高まると考えられます。

 

規制強化の背景には越境ECの拡大がある

モバイルバッテリーの安全対策を考えるとき、電池そのものの性能だけを見ていては全体像をつかみにくくなっています。日本では一定の条件に該当するリチウムイオン蓄電池が電気用品安全法の対象となり、基準に適合した製品にはPSEマークが表示されます。従来は国内の製造事業者や輸入事業者を中心に安全管理の責任を負わせる仕組みが基本でした。しかしネット通販が広がり、海外の販売者から日本の消費者へ商品を直接届けられるようになると、国内の輸入事業者を介さない取引も増えました。事故や不具合が起きても、日本国内で責任主体を追いにくいという課題が表面化したといえるでしょう。

こうした流通の変化に対応するため、2025年12月25日に改正製品安全4法が施行されました。PSマーク対象製品を日本の消費者へ直接販売する海外事業者も「特定輸入事業者」として規制対象となり、技術基準への適合や国内管理人の選任などが求められています。この法改正はモバイルバッテリーだけを対象にしたものではありませんが、海外製品を手軽に購入できる現在の市場には大きな意味を持ちます。電池が突然危険になったというより、商品が国境を越えて販売される仕組みに安全制度を合わせ直す必要が生まれたと考えられます。製造国、販売国、購入国が異なる時代に合わせ、責任の所在を明確にする動きが進んでいるといえます。

 

飛行機では「異常を早く見つける」考え方へ

安全対策の変化は、航空機でのモバイルバッテリーの扱いにも表れています。モバイルバッテリーは以前から預け入れ手荷物に入れることが禁止され、容量や個数にも一定の制限があります。そのうえで国土交通省は、国内外で発煙や発火の事例が発生していることを踏まえ、2025年7月8日から国内航空会社と連携して取り扱いを変更しました。現在は座席上の収納棚に入れず、利用者や乗務員が状態を確認できる場所に置くことが求められています。モバイルバッテリーからスマートフォンなどを充電するときや、機内電源からバッテリーを充電するときも、状態を確認できる場所で行う扱いになっています。

この変更から見えてくるのは、事故を完全に防ぐことだけではなく、異常が起きた場合に早く見つけ、被害を小さく抑える考え方です。頭上の収納棚の中で発煙した場合、気づくまでに時間がかかる可能性があります。手元に置いていれば異臭や発熱に気づきやすくなり、乗務員への連絡や初期対応も早まることが期待されます。普段はバッグに入れたまま意識することの少ないモバイルバッテリーでも、航空機内では安全管理が必要な電池として扱われます。安全基準の厳格化は製品の製造段階にとどまらず、輸送や使用環境まで広がっていると考えられます。

 

価格と容量だけでは選べない時代へ

消費者にとって分かりやすい変化は、モバイルバッテリーを選ぶ基準でしょう。これまでは「10,000mAhある」「急速充電に対応している」「価格が安い」といった性能やコストが比較の中心になりがちでした。これからはPSEマークの有無に加え、販売者の名称や連絡先が明確か、製品情報が十分に示されているか、リコール対象になっていないかといった情報も確認したいところです。NITEも購入前に販売事業者の連絡先や製品情報、リコール情報、適切な表示マークを確認するよう呼びかけています。極端に安い商品でも、販売元や問い合わせ先が分かりにくければ、価格だけでは見えないリスクを抱えている可能性があると思われます。

使い始めてからの扱いも安全性を左右します。真夏の車内や直射日光の当たる場所に放置しない、落下や強い衝撃を受けた製品は状態を確認する、膨張や異臭、異常な発熱があれば使用を中止するといった基本的な対応が事故防止につながります。モバイルバッテリーをめぐる規制強化は、危険な製品を排除するだけではなく、製造、販売、輸送、使用までを通して安全を管理する方向への転換と見ることができるでしょう。容量や充電速度、価格に加え、「誰が販売し、誰が安全性に責任を持つ製品なのか」という視点も、これからの商品選びでは大きな判断材料になっていくのではないでしょうか。

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パソコン・スマートフォン

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