売り手市場なのになぜ起こる?就職活動で続く「オワハラ」と囲い込みの背景

内定をもらっても就活が終わるとは限らない

就職活動で内定をもらえば、長かった就活から解放されると感じる人も多いでしょう。ところが、内定後に「ほかの会社の選考は辞退してください」「数日以内に承諾書を提出してください」と迫られ、かえって悩みが深くなる学生もいます。企業が内定や内々定を出すことと引き換えに、本人の意思に反して就職活動を終わらせようとする行為は「オワハラ」と呼ばれます。厚生労働省も、他社への就職活動をやめるよう強要する行為や、内定承諾書の提出を執拗に求める行為などについて、学生の職業選択の自由を妨げるものとして企業に注意を促しています。

オワハラは、ごく一部の学生だけが経験する特殊な問題とも言い切れません。就職みらい研究所が2025年卒の大学生を対象に行った調査では、内定取得者の7.7%がオワハラを受けた経験があると回答しています。2024年7月1日時点の大学生の内定率は88.0%、進路確定率は75.0%に達していました。内定を得る時期も早まり、2025年卒では卒業前年の2月までに初めて内定を得た学生が40.3%に達しています。
就活が早く進むほど、企業が内々定を出してから学生の進路が固まるまでの期間も長くなります。この時間が、企業にとって「辞退されるかもしれない期間」になっている点が、オワハラを考えるうえで見逃せない部分でしょう。

 

売り手市場だから企業の焦りも強くなる

学生に有利な売り手市場なら、オワハラは減りそうに思えます。しかし企業から見ると、学生が複数社から内定を得やすい環境は、自社の内定を辞退されやすい環境でもあります。採用予定が10人だからといって、10人に内定を出せば採用活動が終わるわけではありません。辞退者が出れば追加で学生を探し、説明会や面接を行う必要があり、採用広告や人事担当者の工数も増えていきます。学生が企業を選びやすくなったことが、企業側には採用人数を確定しにくい状況を生んでいると考えられます。

そこで企業が意識するのが、採用予定人数だけではなく、内定承諾や辞退の状況です。学生が比較検討する時間を十分に取れば、本人にとって納得できる会社を選びやすくなります。一方、企業からすれば、その間は他社を選ばれる可能性が残ります。
2025年卒の調査を見ると、内定承諾期限は「期限なし」が22.1%だった一方、「2週間以上~1カ月未満」が21.3%、「1週間以上~2週間未満」も14.6%ありました。期限を設定すること自体が問題なのではありません。ただ、採用人数や承諾率といった短期間で確認しやすい数字を優先しすぎると、「学生が納得するまで待つ」より「早く承諾を取る」という発想へ傾きやすくなります。その延長線上で、採用管理が過度な囲い込みへ変わる可能性があるといえるでしょう。

 

なぜ企業からの「お願い」を断りにくいのか

オワハラを理解するには、企業と学生の立場が対等ではないことにも目を向ける必要があります。採用活動では企業が学生を評価し、合否を決めます。学生は社会経験が少なく、採用の仕組みに詳しいとは限りません。その状況で採用担当者から「ほかの会社は辞退してください」と言われれば、単なるお願いだったとしても、「断ったら内定に影響するのではないか」「入社後に悪く思われないか」と感じる人はいるでしょう。厚生労働省も、社会経験が少ない学生にとって企業からの強い働きかけは大きなプレッシャーになり得ると指摘しています。企業側が軽い確認のつもりでも、立場の差によって学生が受ける圧力は大きくなると思われます。

実際に相談へつながっている事例を見ると、その問題がよく分かります。令和7年度の政府調査では、学生からオワハラについて相談を受けたことがある大学などは26.8%でした。相談内容では、内々定の段階で内定承諾書の提出を求められるケースが最も多く、他社への就職活動をやめるよう強要された事例も確認されています。
一方、企業側では、オワハラを含むハラスメントについて学生が相談できる体制を「整えている」と回答した企業は30.3%にとどまりました。問題が起きた後の対応だけでなく、「承諾を急がせることが採用成果」という考え方そのものを見直さなければ、似た問題が繰り返される可能性があります。

 

採用人数より「納得して入社する人」を増やせるか

オワハラが続く背景には、採用難、就活の早期化、内定辞退への警戒、企業と学生の力関係が重なっています。現在の政府ルールでは、採用選考活動は卒業・修了年度の6月1日以降、正式な内定日は10月1日以降が原則ですが、一定の専門活用型インターンシップを経た学生には例外があります。実態としても採用活動は早く動いており、2026年卒では2025年3月1日時点ですでに大学生の内定率が48.4%に達していました。制度上の日程と実際の就活の動きに差があれば、企業が学生を早期に確保し、その後の辞退を防ぎたいと考える期間も長くなるでしょう。

ただし、採用予定人数を満たすことと、採用に成功することは同じではありません。強い圧力で承諾を得ても、学生が仕事内容や社風、待遇を十分に比較できないまま入社すれば、入社後にミスマッチを感じる可能性があります。企業が見るべき数字も、目先の承諾率だけではなく、入社後の定着や活躍まで含めて考える必要があるでしょう。
学生側も、内定は「企業から選ばれた結果」であると同時に、自分が企業を選ぶための判断材料と捉えられます。承諾を急かさないか、質問に誠実に答えるか、他社の選考を続ける意思を尊重するか。内定後の対応には、その会社が人材をどう扱うのかが表れます。オワハラを減らす鍵は、学生を逃がさない採用から、学生が納得して選べる採用へと発想を変えられるかにあるのではないでしょうか。

カテゴリ
ビジネス・キャリア

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