「人生の主導権」を取り戻す動き、会社員の独立志向が拡大

会社員でいる安心より「会社しか選べない不安」へ

会社に入り、毎月決まった給与を受け取りながら長く働く。これまで日本では、こうした会社員としての生き方が安定した人生につながると受け止められてきました。しかし現在は、会社に所属していることだけで将来への安心を得るのが難しくなっています。物価が上がっても給与が同じように増えるとは限らず、企業の業績や事業再編によって働く環境が変わる可能性もあります。転職が珍しくなくなったこともあり、一つの会社で定年まで働くことを前提に人生を考える人は以前より少なくなっていると考えられます。

そこで意識され始めているのが、会社以外にも収入や仕事を持つという考え方です。総務省統計局の2022年就業構造基本調査では、副業をしている非農林業従事者は305万人となり、2017年から約60万人増加しました。副業者比率も3.9%から4.8%へ上昇しています。ただし、副業者が増えたからといって、その全員が独立を目指しているわけではありません。生活費を補う目的の人もいれば、好きなことを仕事にしたい人、会社とは別の場所で自分の能力を試したい人もいます。それでも、収入源を勤務先だけに集中させず、自分自身でも仕事をつくろうとする人が増えていることは、働き方の変化を示しているといえるでしょう。

 

求められているのは独立より「選べる状態」

独立という言葉から、起業して会社を大きくする姿を思い浮かべる人もいるでしょう。しかし、現在の独立はもっと幅広いものになっています。デザイナーやエンジニア、コンサルタント、ライターなどの専門職だけでなく、EC運営、動画制作、SNS支援、オンライン講師など、個人でも始めやすい仕事が増えました。パソコンとインターネットがあれば提供できるサービスも多く、店舗や大きな設備を持たずに事業を始めることも可能です。最初から会社を辞めるのではなく、本業を続けながら小さく仕事を始め、収入や顧客が安定してから独立する方法も現実的になっています。

興味深いのは、独立が単なる「会社からの脱出」として捉えられなくなっている点でしょう。仕事をする時間、働く場所、付き合う相手、引き受ける仕事を自分で選べることに価値を感じる人もいます。もちろん独立すれば、収入が不安定になる可能性があり、営業、契約、経理、税務なども自分で管理しなければなりません。それでも、会社の評価制度や人事異動だけに将来を左右されず、自分の意思でキャリアを組み立てられることは大きな魅力です。「いくら稼げるか」と同じくらい、「自分の時間をどう使えるか」が働き方を決める基準になり始めているのではないでしょうか。

 

他人の人生が見えることで選択肢も広がった

働き方に対する考えが変わった背景には、さまざまな人生を簡単に知ることができるようになった影響もあります。以前は身近な家族や同僚の働き方が、自分にとっての基準になりやすい環境でした。現在はSNSや動画などを通じて、副業をする会社員、フリーランス、地方で働く人、小さな会社を経営する人など、多様な生き方を日常的に目にします。それまで想像できなかった働き方を具体的に知れば、「会社員以外にも道がある」と気づく人が出てくるのは自然な流れだと思われます。

中小企業庁の2025年版小規模企業白書が紹介する日本政策金融公庫の調査では、起業家は起業に関心のない層と比べて若い年代の割合が高く、29歳以下が約4割を占めています。一方で、起業に関心を持ちながら実行していない人にとっては、自己資金の不足や失敗した場合のリスクが大きな壁となっています。ここから見えてくるのは、「独立したいからすぐ会社を辞める」という単純な変化ではありません。会社員として収入を確保しながら専門性や顧客を増やし、選択肢を育てていく働き方が現実的になっているといえます。

 

人生の主導権は「辞められる余白」から生まれる

独立すれば、すぐ自由な人生が手に入るわけではありません。会社員なら毎月給与が支払われ、社会保険や税金などの手続きも会社が担ってくれますが、独立すれば営業から契約、請求、経理まで自分で対応する必要があります。売上が安定しなければ、生活のために仕事を断れなくなり、結果として会社員時代より長く働くケースもあるでしょう。会社という一つの依存先から離れても、今度は特定の取引先や売上に強く依存してしまえば、自分で仕事を選べる状態から遠ざかってしまう可能性があります。

人生の主導権を持つとは、必ずしも会社を辞めることではないでしょう。会社員として安定した収入を確保しながら副業を育てる方法もあれば、転職によって時間に余裕のある働き方を選ぶ方法もあります。独立して仕事量を調整し、家族との時間や趣味を優先する人もいるでしょう。選択肢が複数あれば、「この会社で働き続けるしかない」という状態から離れやすくなります。独立志向の広がりの奥にあるのは、単なる会社離れではなく、収入、時間、仕事、人間関係を一つの組織だけに委ねず、自分で選べる範囲を少しずつ広げようとする意識の変化だと考えられます。「人生の主導権を取り戻す」という言葉は、会社を辞める決断よりも、自分の人生に複数の選択肢を持つことを意味する時代になってきたのではないでしょうか。

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ビジネス・キャリア

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