分科会を増やすほど組織は動かなくなる?意思決定を阻む構造とは

組織が大きくなると、一つの部署だけでは決められない仕事が増えてきます。新規事業であれば営業やマーケティング、開発、法務、経理が関わり、DXやAIの導入となれば情報システム部門や経営層も無関係ではいられません。専門知識を持つ人を集めて検討するために、分科会や委員会、ワーキンググループがつくられるのは自然な流れです。
問題は、課題が出るたびに新しい会議体をつくり、それがほとんど整理されないまま残っていくことです。気づけば似たようなメンバーが複数の分科会に参加し、同じ案件について何度も説明している。こうした組織では、会議の数以上に「誰が決めるのか」が見えにくくなります。分科会の乱立は会議時間の問題に見えますが、その奥には組織の責任と権限をめぐる問題があります。
なぜ分科会は増え続けるのか
仕事が複雑になれば、確認する相手も増えます。新しいサービスを始める際にも、価格は営業、システムは開発、契約は法務、収益性は経理と、それぞれに確認したいことが出てきます。担当部署だけで判断して問題が起きれば、「なぜ事前に確認しなかったのか」と問われかねません。そう考えると、関係部署を集めて検討するのは合理的です。ただ、専門家から意見を聞くことと、全員から承認をもらうことは本来別の話でしょう。
ここが曖昧になると、分科会は専門知識を集める場から、全員の了承を確認する場へ変わっていきます。大きな案件ほど失敗した場合の影響も大きいため、一人で判断するより「関係部署で協議した」という形を残したくなる事情もあります。Bain & Companyは、意思決定が遅くなる要因の一つとして、誰が決定に責任を持つのかが明確になっていない点を挙げています。分科会で話し合い、委員会へ上げ、その後に役員会で承認する。こうした階層が増えていく背景には、会議好きというより、一人に判断を委ねにくい組織の事情があると考えられます。
「みんなで決める」が責任の所在をぼかしていく
多くの人から意見を集めれば、見落としを減らせます。法務には法務の視点があり、営業には顧客に近い立場だからこそ見える問題があります。ところが、関係者全員の納得を意思決定の条件にすると、話は変わります。営業の確認を終えた後に法務から修正が入り、その修正版を再び営業や開発へ回す。そこで別の意見が出れば、もう一度分科会を開く。誰も仕事を止めようとしていないのに、結果として決定だけが先へ延びていきます。
Gartnerが2023年に行った調査では、マーケティング部門のリーダーと従業員の84%が、他部門との仕事で高い「コラボレーション・ドラッグ」を経験していました。会議の多さや過剰なフィードバック、意思決定権限の曖昧さなどによって、連携そのものが仕事の負担になる状態を指します。高いコラボレーション・ドラッグを抱える組織では、売上目標を達成する可能性が37%低いという結果も示されました。調査対象はマーケティング分野であり、分科会の数と業績の因果関係を直接示す数字ではありません。それでも、関係者を増やすほど仕事がうまく進むとは限らないことは読み取れます。
AIで作業が速くなっても、承認待ちはなくならない
生成AIの普及によって、資料作成や情報整理にかかる時間は短くなりました。会議用の資料をまとめたり、大量のデータから論点を探したりする作業も以前より進めやすくなっています。しかし、資料が半分の時間で完成しても、その後に分科会、部門長会議、役員会と承認が続けば、案件全体が半分の期間で決まるわけではありません。仕事をする人の速度と、会社が決める速度には別々の課題があります。
Atlassianが2026年に公表した「State of Teams 2026」では、世界のナレッジワーカー1万2,035人とFortune 1000の経営層173人を調査しています。経営層の89%がAIによって仕事のスピードが上がったと答えた一方、組織全体で明確なAI投資効果の事例があると確信していた経営層は6%でした。ナレッジワーカーの87%は、周囲が実行を急ぐことで、調整に使える時間や余力が不足していると回答しています。AIで資料作成を10時間から5時間へ短縮できても、その後の承認に数週間かかっているなら、改善する場所は別にあります。個人の生産性を高めるだけでは解消できない問題が、組織側に残っているといえます。
減らすべきは会議ではなく「決めるまでの距離」
分科会が増えすぎたからといって、会議を一斉に減らせば解決するわけでもありません。会議をなくした結果、メールやチャットで個別確認が増えれば、仕事の形が変わっただけです。見直したいのは、案件が担当者から意思決定者へ届くまでに、何人、何部署、何段階を通っているかです。意見を求める人と承認する人が同じ扱いになっていないか、分科会で決めた内容を別の会議でもう一度審議していないかを確認すると、判断が止まる場所が見えてきます。
Bainが提唱するRAPIDでは、提案する人、助言する人、実行する人、同意が必要な人、最終的に決定する人を分けて考えます。すべての案件にこの手法をそのまま当てはめる必要はありませんが、「最後に誰が決めるのか」を明確にする考え方は参考になるでしょう。半年間ほとんど何も決めていない分科会、別の会議と議題が重なっている分科会、決定しても別組織の承認が必ず必要になる分科会は、役割を見直す余地があります。分科会は専門知識を持ち寄るための便利な仕組みです。しかし、責任を分散させる場所になれば、参加者が増えるほど判断は遠ざかります。会議を何回減らせるかではなく、誰がどこまで決められる組織にするか。そこまで踏み込んで初めて、意思決定のスピードは変わっていくのではないでしょうか。
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