人口減少時代のM&A急増、買い手企業が狙う「規模の経済」

M&Aが5000件を突破、企業の成長方法が変わってきた

日本企業のM&Aが増えています。レコフデータによると、2025年に公表された日本企業のM&Aは5,115件。前年の4,700件から8.8%増え、2年連続で過去最多を更新しました。金額も35.7兆円と過去最高です。これだけを見ると、後継者が見つからない会社が増え、売却が相次いでいるようにも感じます。しかし、実際のM&Aはそれほど単純ではありません。事業承継に加え、業界再編や新規事業への参入、技術や人材の獲得など、企業によって目的はさまざまです。

その中で見逃せないのが、企業が自力だけで事業を大きくする難しさです。新しい地域へ進出するなら、営業所を用意し、人を採用して育て、取引先を一から開拓しなければなりません。資金があっても、必要な人材が集まらなければ計画は止まります。すでにその地域で事業を続けている会社を買収すれば、従業員だけでなく、顧客や設備、取引先との関係まで引き継げる可能性があります。何年もかけて一からつくるより、すでにある会社の力を生かしたほうが早い。そんな判断が企業経営の中で現実味を帯びてきたと考えられます。

 

人口減少で「会社が持っているもの」の価値が上がる

人口減少というと、消費者が減り、国内市場が縮小する話に目が向きがちです。しかし企業にとって、もっと身近な問題は働き手の不足でしょう。注文が入っても製造する人が足りない、店舗を増やしたくても店長候補がいない、営業エリアを広げたくても担当者を採用できない。売上を伸ばす余地があっても、人が足りないために動けない企業は珍しくありません。専門性の高い仕事になれば、採用した翌日から戦力になるとは限らず、育成にも時間がかかります。

一方、会社を手放す側にも事情があります。帝国データバンクが全国約27万社を対象に行った調査では、2025年の後継者不在率は50.1%でした。2017年の66.5%から大きく改善しているものの、現在も約2社に1社は後継者が「いない」または「未定」です。経営者が引退すれば、黒字企業であっても事業を続けられないケースがあります。そこで買い手が目を向けるのが、その会社で働く人や技術、設備、顧客との関係です。採用広告を出しても簡単には集められない人材や、何十年もかけて築いた取引関係が会社には残っています。人口が減るほど、こうした既存の経営資源の価値は高まりやすいといえるでしょう。

 

「人を採る」だけではなく「会社ごと引き継ぐ」

買い手企業にとってM&Aの魅力は、売上高をそのまま上乗せできることだけではありません。買収によって会社の規模が大きくなれば、経理や人事、システム、物流などを共通化できる場合があります。2社がそれぞれ持っていた管理機能を整理できれば、重複していた費用を減らせるでしょう。仕入量が増えれば、原材料や商品の調達条件を見直せる可能性もあります。こうした事業規模の拡大によって、商品やサービス一つ当たりのコストを抑えやすくなる効果が「規模の経済」です。

人手不足が続く現在は、ここに「人材を確保する」という目的も重なります。中小企業庁の2025年版中小企業白書では、事業規模を拡大している企業ほど、M&Aの目的として市場シェアの拡大、人材の獲得、技術・ノウハウの獲得を挙げる傾向が確認されています。技術者を一人ずつ採用するのではなく、技術者が働いている会社を引き継ぐ。新規営業を重ねて顧客を増やすのではなく、すでに顧客基盤を持つ会社と一緒になる。時間をかければ自社でもできることを、M&Aによって短縮するわけです。人材や技術を集めにくい時代になるほど、この時間の差は企業にとって無視できなくなると思われます。

 

会社を大きくするだけでは「規模の経済」は生まれない

もちろん、会社を買えば利益が増えるとは限りません。人材を求めて買収したにもかかわらず、経営方針や待遇が変わったことで社員が辞めてしまえば、当初の狙いは崩れます。管理部門をまとめる計画でも、使用しているシステムや業務手順が違えば、統合に想定以上の時間と費用がかかることがあります。規模が大きくなったことで社内調整が増え、意思決定が遅くなれば、かえって効率が落ちる可能性もあるでしょう。

そのため、M&Aでは買収後の動きまで含めて考える必要があります。買収後の経営統合は「PMI」と呼ばれ、人事制度やシステム、業務、組織などを整理していく作業を指します。中小企業庁の分析では、PMIに取り組んだ企業のほうが、取り組まなかった企業よりM&Aで「想定以上の効果が得られた」と回答する傾向も確認されています。買収した会社の人材を残しながら管理業務をまとめる、双方の販売網を使って商品を売る、重複する設備を見直す。こうした地道な作業ができて初めて、規模を大きくした意味が出てきます。

人口が増え、働き手も確保しやすかった時代には、人を採り、店舗や工場を増やしながら会社を大きくする方法が取りやすい環境でした。人口減少が続けば、同じ成長方法を続けることは難しくなります。人材も設備も技術も、すでに社会の中にあるものをどう引き継ぎ、どう生かすか。その手段としてM&Aを見る企業は今後も増えると考えられます。M&A件数の増加は単なる「会社の売買ブーム」ではなく、日本企業が成長の方法を変え始めている表れと見ることもできるのではないでしょうか。

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